そして都知事選最終日 -------- Short Story -------
「日本人の奇行は怪しくなるばかり。欧米で流行るとすぐにそれを真似て新聞やテレビが一斉に騒ぎ、それに釣られて政治も国民も一緒に騒ぐ。これはもはや『罪』ではないか」
とネットを見ながら言ったのは地獄の支配者である閻魔大王だ。
横に仕えている番鬼に閻魔は尋ねた。
「罪といえばの、番鬼よ、人類が誕生したときから今日まで、延べにした地球総人口はいくらであるか知っておるか」
番鬼にわかろうはずもない。
「いえ存じません。人口管理はわたしの専門外、そのようなことを問われたこともございませんし」
「まあそうだろうな。先日のことじゃが監理のほうから『悪人や亡者が増え過ぎて地獄が手狭になっておるので何とか考えてくれ』と連絡があった。わたしの知らぬ隅のほうでは悪人や亡者があふれ始めておるらしい」
「それはわたしも感じておりました。いままでは気にもしませんでしたが、地獄もいっぱいになってきたということでしょうか」
「そうよ、さすがの地獄も悪人や亡者が多すぎて飽和状態になってきた、ということじゃ」
「飽和状態、ですか」
「いつかはこうなると仏たちも考えてはおったようじゃが、面倒くさくてほったらかしておったのよ」
「仏も意外と無責任ですな、まあ他人事ですもんね」
「そりゃそうよ、浄土にいるもんは責任感が無いから仏になれるのよ」
「はあ、そうで」
「一々責任感なんぞ考えておったら仏なんてできんわ」
「さようで、しかし悪人や亡者の数とは、どれほど」
「人類誕生以来延べの人口はおよそ1100億人と聞いた。しかし実数はもっとおるであろうな」
「確かに類人猿なんかはきちんとは数えられませんわな。しかし1100億人にしても想像を絶していて多すぎてピンときませんな」
「いまの地球上総人口がおよそ80億、100億を超えれば世界のどこにいても人に会うことになろう」
「するとそのおよそ14倍の生者と死者が現世と浄土と地獄に別れて・・」
「そうじゃが、事はそう簡単ではない。この地獄だけが異常に多いのじゃ」
「1100億人の中で地獄へ落ちてくる悪人や亡者どもの数はいくらじゃと思う。普通こういう場合は五分五分が相場じゃが」
「さあてわかりかねますが」
「おどろくなよ、人間のうちのおよそ9割が悪人か亡者じゃ。ということはの、990億人がここへ落ちてきて共同生活をしている、ということよ」
「共同生活でございますか」
「そうよ、地獄の責め苦に苛まれながら悪人亡者とともに我らも生きておるでの、これを共同生活と言わずして何と言う」
「何とも他に思いつきませんな」
「そしてこの地獄が決して広くない。生者の世界のその下にじゃな、人類誕生以来の悪人と亡者が990億おる。地獄が狭くなるのも道理じゃろう、のう」
すると番鬼は指を曲げながら数え始めた。
「指折って数えてもしようがなかろう」
閻魔は小さなため息をつきながら、うっかり天井を見上げた。
天井は見れば見るほど怖くて汚く不愉快になるので日ごろから見ないようにしているのだが、つい見てしまう。
天井は悪人や亡者の中でも特に特に性質(たち)の悪い男女の顔を集めてつくられている。
その無数の悪人や亡者の顔が休むことなく閻魔や鬼を見下ろしている。
「これは辛い。わしこそが地獄の責め苦を負わせられているようなもの、何とかなりませぬか」
と閻魔は以前のこと、天上の仏たちに訴えたが、その後もいまも天上からは何の音沙汰もない。
地蔵がたまにやってくるが、絶対に天井は見上げず、『仏界も官僚化しておりましてな、閻魔殿の訴えなんぞ聞く耳すらございませぬ。ご苦労ですな。まあ辛抱なさればそのうち良いことも』と他人事のようなことを言って帰る。
「それにしても、このような不愉快な天井をつくりおって、クソいまいましい仏たちじゃ。地獄の苦労も知らんで」
「何か言うたか閻魔よ」
と流ちょうな日本語で言ったのは顔の一つである毛沢東(以下マオ)だ。
中国人民解放軍の祖である紅軍を腹心の周恩来とともに指揮し、日本軍から逃げ回り、日本がアメリカに負けると蒋介石の国民党軍を台湾に追い出し、殺戮と粛清を繰り返しながら中華人民共和国を建てた、いわば火事場の強盗殺人的人物だ。
マオは歯磨きをせず口臭がひどかったと言われているが、事実天井からものすごい口臭が降ってきた。
閻魔は耐えきれず鼻を手でおおった。
「なんて臭い野郎だ。こいつも女が好きじゃったが、生きるためとはいえ、女もよう我慢したもんじゃ」
マオもそうだが、天井に顔を貼られた悪人亡者どもは当然ながら血にまみれた男女であり、浄土にはもちろんいけず、こうして顔だけが見せしめのように、この天井に貼り付けられている。
マオも亡くなったとき浄土に行こうとして観音菩薩に頭を蹴られた男だ。
悪人や亡者は顔だけになっても性格の陰湿さと卑劣さと悪どさだけは変わらない。
マオの横にいるのがスターリンだから、そりゃそうなるだろう。
すぐ近くにはあのポルポトもいるし、ずっと奥にはチャウシェスクも金日成親子もいる。
どれもこれも人間の業と欲と卑しさが顔にもろに出ている奴らばかり、ニュースや映像で見る顔とは天地ほど違う。
まさに人間という生き物の正体をさらしているのが、この天井だ。
地獄に落ちてきた悪人と亡者はまずこの天井を仰ぎ見ることで自分の罪の深さを思い知らされる。
四方見渡す限り、数え切れないほどの悪人の顔面が下を見下ろしている。
それも刑死したり殺されたり病で寿命で憤怒の中で死んだときの顔だ。
その目つきも尋常ではなく、閻魔の前に悪人や亡者が立つと天井の目が一斉にその悪人や亡者を見る。
悪人と亡者は現世に現れたときから悪人として産まれてきた者たちだ。
人は産まれたときはみな純粋で穢れもない、と言うのは一方だけの真実だ。
もう一方には明らかに悪の因子を持って産まれてくる子もいる。
そうして大人になってより大きな悪事を働いて地獄に落ちてくる。
そういう悪人の顔ばかりを集めて天井にしている。
閻魔でさえ気味が悪いので天井を見ることはほとんどない。
革命家気分で何の罪も無い者を殺めてきたマオとスターリンが閻魔を見下ろしながら薄ら笑いを浮べている。
そのとき突然男の声がした。
「キミたちは資本論を読んだか」
と言ったが誰に向けた言葉かはわからない。
気がふれているのかもしれない。
閻魔が大声で戒めた。
「誰だ、勝手にしゃべるな」
勝手にしゃべったのはドイツ人のマルクスだ。
世界破壊と殺戮を正当化する希代の悪書「資本論」を書いた男だ。
「マルクスも『悪人』かと番鬼が閻魔に尋ねたことがある。
閻魔はこう答えた。
「このバカの書いた『資本論』で共産主義に洗脳された愚か者どもが世界で数億人を超える殺戮を生んだ。まあそれに感化された共産主義者もバカじゃが、あいつはその大元じゃからの、罪は大きい」
共産主義者に神のように崇められるマルクスも地獄ではただの悪人扱いだ。
最初にここへ来た悪人や亡者は天井を見てここが地獄だと覚悟を決め、どのような悪人亡者でもこの天井を見ただけで震え始め、自分の犯した罪の深さを思い知るのだ。
その悪しき天井を閻魔はまたうっかり見てしまった。
(あの仏の者ども、ふざけた天井をつくりやがって)
「それで閻魔様、続きを」
「あ、そうじゃった、つまり人類誕生以来、990億人の悪人と亡者がこの地獄におる。白人も黒人もおるし、アラブもメキシカンもおる」
だが、と気を取り直して鬼に言った。
「で、肝心の話しじゃが、ここは東京のすぐ下じゃ。じゃが東京の下なのだが、下であって下ではない。さりとて上でもない。下のようで下でなく、上のようで上でもない。ならばその周りかかといえばそうでもない。
「それはむろん知っておりますが」
「うん、この地獄とは、そういうところにある。地面の下でも土の下でもないのだ。だから空も見えるし、ときには雨さえも降る。だが現世にいる人間にはここは見えないし、また見ることもない。ここが見えるのは悪人と亡者だと断定されて落ちてきた者たちだけじゃ」
「はい、それは一応わたしも知ってはおりますが」
「話しを進める。それでな、この地獄がじゃ、990億人もおれば、さすがにの狭くなってきた。釈迦もそうじゃが、仏である大日もな、この世のあらゆる坊主どもがな、死んで逝くのは浄土か地獄と勝手に決めよった。
そして浄土と地獄は平等にということで広さも同じになった。
最初はそれはそれで良かったのじゃが、ただ続けてくると地獄へ落ちてくる奴が圧倒的に多い。
結果として990億が地獄にやってきてもう収容能力が無くなった。そこでな浄土を狭くして地獄を広くしてくれぬかと仏たちに頼んだ」
「はい、それはわたしも知っております」
「すると仏は何と言うたと思う。『広さはもうどうしようもない。そっちで何とかせよ』と言うてきよった」
「ああ、それも聞きました。問題はその先ですな」
「そうよ、ここからじゃ」
「でな、わしも解決策を考えた。亡者をな、生前の現世に戻そうと思う。良ければドンドンと現世に戻す。さすれば地獄も元のように広くなる」
「まあ、広いに超したことはありませぬが、死者を現世に戻すなぞ、それは無理にございましょう」
「いや、亡者はもう死人じゃで飲み食い排泄も性欲も金銭欲も無いし姿形も無い。ここ地獄では姿形があるが、現世に戻れば「魂」という姿の無いものに変わる。
この魂はの、重さも形も色も臭いも無い。万人が四畳半に集まっても人間は誰も気づかぬほど小さくもなる。
そこで亡者どもを生者に見えないように魂に変えさせて送りこむのじゃ。魂ゆえ家も要らぬし雨風雪もこわくない。何より現世を生きている人間には見えぬし、あたってもさわっても気づかぬ。勘のええ者は何かを感じるかもしれんが、そこで終わる」
「はあ、つまりは地獄のスペースを広げるために悪人や亡者を魂に変えて生者たちの世界に送り返そうということでござるか」
「そうじゃ、悪人も亡者も地獄では魂にはならぬ。魂は悪人や亡者には縁が無い。じゃが現世に戻すなら魂になれる」
「なるほど、これはいけますな」
「であろうが、褒めてくれずともええぞ」
「特に褒めるほどのことでも」
「そうか」
閻魔は少しがっかりしたようだ。
「ただ仏たちにバレるとちとまずいが」
番鬼は小さな声で言った。
「では秘密を守りながら数人を現世に戻してみますか」
「うん、それでええ」
「どいつを送りましょうか」
「そうよな、これほどの悪人はおらぬ、という奴がええ。じゃが人殺しやレイプ殺人犯はあまりに身近過ぎるでの、大量殺人鬼がええな、それも自分でやった奴はダメだ。大量に残酷に他人にやらせた奴がええ。何であれ他人を扇動して働かせ自分は離れたところでそれを見ながら楽しんでいた奴がええ。これが一番の悪人じゃ」
「そうなるとこの上にいるマオとかスターリンクラスになりますが」
「ああ、それでええ、魂にするのは地蔵にやらせる」
「あの地蔵の小僧がですか」
「ああ、この案を出したのも実は地蔵じゃ」
「ははあ、あの地蔵が、頼りないやつですが、そんなことを」
「実はな、試験的に一人すでに送った」
「誰をですか」
「六地蔵のうちの一人じゃ」
「ははあ、それでいまは」
「ああ、都庁におる」
「東京の・・・都庁・・・」
「そうよ、東京都庁よ」
「いま都知事選の」
「そうじゃ」
「そこで何を」
「最初はどこかの候補者の事務所にいたらしいが、その後は行方不明じゃ。まあ魂じゃでの人間に実害はないし、このまま行方不明のままでもええ」
「なるほど、ならばすぐに人選を」
そこへ天井から声がかかった。
「おい、おれたちを魂にしろ。わたしも」
声をかけたのはマオとスターリン、そして毛沢東の4番目の女房である元女優の江青だ。
閻魔と番鬼の話しを聞いていたらしい。
地獄の王である閻魔も相手がこの三人では無碍にも断れない。
三人もいまだ現世に未練があるのだろう。
するとその様子を見ていたのか、また一人が声を上げた。
「わたしも」
と言ったのは白髪頭の一見白人風の男だ。
閻魔が言った。
「マルクスじゃないか」
閻魔は番鬼に言った。
「あいつも行かせてやれ、マオとスターリンならお似合いじゃ」
するとあちらこちらで「わたしも、オレも」と声を上げ始めた。
マオが怒鳴った。
「じゃかましい!もう打ち切りじゃ、閻魔、もうこの四人でええ」
閻魔は不愉快そうに黙った。
「決めるのはわたしだ。黙れ人殺し!」
マオは怒った。
がなにせ顔しかないので何もできない。
「この四人をとりあえず現世に送る」
「その四人は特別扱いか、不公平だろうが、現世の力関係を地獄に持ち込むな」
と誰なのか、他の顔が言った。
「黙れ、もう一度死にたいか」
とドスの効く声で脅したのはスターリンだ。
マオ、スターリン、江青、マルクスの四人が魂となって東京に行くことになった。
人類史上、これほどの悪人はいないという四人だ。
しばらくすると奥のほうから番鬼が戻ってきた。
後ろにはフワフワと浮きながら魂が4つ従っている。
もはや昔の面影はなく、地獄の責め苦を受け続けてきた4つだが、その冷酷さと非道さは魂になっても失われてはいない。
「おうう、来たか。では頼むぞ、現生の様子をよう見てきてくれ」
「おれ、モスクワへ行きたいが」
とスターリンが言うとマオと江青も言った。
「じゃおれたち北京に」
マルクスはどこでもいいらしい。
閻魔が言ったひと言ですんだ。
「わたしが地獄の絶対者だ。お前たちはその地獄に落ちてきた一人の罪人に過ぎぬ。いい気になるな。東京へ行けと言われたら東京へ行け」
四人は黙った。
元から自分より強い者には弱い四人だ。
勝てぬ、と思うと即座に従順になる。
あの業界には多いタイプだ。
「とりあえず東京都庁には先に乗り込んでいる地蔵が行方不明じゃが、どこかにおるはずじゃ、まずは都庁に行け」
東京は明日が都知事選の投票日だ。
史上最多の56人が立候補している。
だが候補者の看板を売り渡した「NHKから国民を守る党」などの参入もあって何かと賑やかで問題も提起された珍しい選挙戦だった。
選挙戦最終日の土曜の夜、魂五つはその東京の渋谷にいる。
一つ多いのは先乗りしていた地蔵が見つかり、この地蔵が四人の案内役でもある。
すでに候補者の情報は地蔵が知らせている。
街宣車の上から誰かが演説をしている。
魂五つがそれを見ている。
地蔵を除く四つが話し始めた。
もちろん人間には見えないし聞こえない。
スターリン、「東京か、外国人も多いな。半分くらいは粛清したらどうか。 特に外国人は金だけ食って役には立たんからな」
マオ、 「北京に行きたい、東京に興味は無い。日本は中国領だ。中国に媚びを売り続ける議員親子がいるがじきにお払い箱だ。祖国を裏切る奴はいつかおれたち中国をも裏切る。あんな寄生虫のような親子なんぞ信用できるか。いまは利になるから使ってやってるだけだ」
マルクス、 「総ての都民に資本論を読ませろ。朝日だったか、夕日だったか、あの新聞社にやらせればええ。電話一本入れれば尻尾を振りまくってやってくるぞ」
江青、 「どうでもいいけど、女性の人権をもっと。わたしはあの口の臭いマオの4番目の女房だ。これほどの屈辱はない。あいつのあの下卑た顔を見るだけで寒気がする」
マオ、 「おれがここにいることを忘れたか、この売女(ばいた)め。
江青、 「何もできないくせにいい気にならないでよ、米を食うからと雀を絶滅させ、そのせいで虫が増えて米を食い荒らし、結果あんたのせいで莫大な餓死者を出した。でもあんたは平然としていた。殺人鬼め」
マルクス、 「まあ、ケンカしないで」
スターリン 「選挙か、面倒くさいことやってんな。なりたきゃ他の奴らを皆殺しにすりゃいいじゃねえか、人間どうせいつかは亡くなるんだ」
江青 、 「しかし56人とはね、これが民主主義の愚かさね」
スターリン、「さっきも地蔵が言ってたが、大体四人くらいに絞られているらしいな」
江青、 「コイケ、イシマル、レンホー、タモガミの四人の中の一人が通る予想らしい。まあコイケだろうて話しらしいけど」
マオ、 「最後のタモガミは地味だが元自衛官だからな。問題は上の三人だ、コイケは学歴詐称が急所だがな」
マルクス、 「あのなあ、学歴詐称なんぞ左翼の世界じゃ屁にもならん。左翼のウソとでっち上げに比べれば学歴詐称なんぞガキのたわごとだ。学歴詐称して何か実害があったのか、誰か損でもしたのか、あんなもん個人の問題だろう。何もしなかったってな、何かしでかして大問題を起こすよりマシだろう」
スターリン、「二番に上がったらしいイシマル見てると世間受けすることを乱発しているが、『あの悪夢の民主党政権の前夜』を思い出すとあの地蔵が言っておった。イシマルは、あれこれの闇を若い笑顔と巧みな弁舌で誤魔化しているようにも見えるな。
マオ、 「中々どうして、食わせ者っぽいところが多々ありそうだ。気に入って使ったものの、言い訳と言い逃ればかりで事はさっぱり前に進まない、て奴を数えきれんほど粛清してきたが、あいつらにどこか似ている。もっとも実際にやらせてみねば確かなところはわからんが」
江青、 「しまった、と思ってもあと四年、四年は永いしね、その間に東京が田舎になるって可能性もある」
マルクス、「『若さはバカさ』だからな。メッキが剥げる前に都知事選に出た計算高さは秀逸だがな。ところで最後のあれ、レンホーてのはどうだ」
江青、 「あれはね、その他大勢の中の一人よ、本人に政治家の資質も無いし、トップに立てる能力もない。大陸系の中国人そのまんまの顔だけど、わたしが使うなら使えるところだけ使って捨てるわよ。それ以上のもんじゃないもの。
あんな女を雇っていた日本人の寛大さというかお粗末ぶりには笑うしかないわね」
マオ、 タモガミはともかく、他の三人にはオレたちに似た何かを感じないか、打算と欲と金とかさ」
スターリン、江青、マルクス、
「感じるな、びんびん感じる」
そこへ突然地蔵がやってきた。
「あの、選挙はどうでもいいので、他を見て回ってください。そもそもあなたたちに『選挙』の二文字と「民主主義』の四文字は縁がなかったでしょ。そろって共産党独裁政権の人殺しと共産主義の宣伝が仕事だったくせに」
四つの顔色が変わった。
魂でも感情がわかるのが魂の魂たるところだ。
四つが地蔵に近寄ると地蔵は青くなった。
四つは地蔵を囲んでマオの目くばせとともに地蔵の首を絞めた。
「おい、番鬼よ、都庁に送った地蔵の信号が切れたぞ、どうした」
「どうしたんでしょうか、わかりません」
「あの四人の信号も消えた、どうなってる、すぐに調べろ」
今夜が最後の演説だ。
コイケ、イシマル、レンホー、タモガミ、そして・・みんな汗を拭きながら最後の必死のお願いだ。
だが四人とも腹の中はそれぞれ違う。
明日は誰が東京のトップになるのか。
聴衆の足に踏まれてぐちゃぐちゃになった小さな魂が東京の夜空に消えていった。
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