ある鉄クズ屋でのできごと
毛馬洗堰(あらいぜき)から天満橋まで
続く大川沿いの遊歩道は春になると桜の
スポットとなる大阪でも有数の桜並木です。

しかし、私にはJR桜ノ宮駅から歩いて
祖母に連れられての鉄クズ屋の印象が遥かに濃いのです
桜ノ宮駅近くの大川には
バラックで作られた小屋が点在していました。
主に鉄クズですが、廃品回収を生業とする在日一世達が住んでいたのです。
祖母は数え歳100で世を去りました。
私が小学校時代は祖母が
墓参りに行く、石切さんに行く、
生駒聖天さんに行くなど祖母の行事には
ことごとく一緒に連れられて行きました
その鉄クズ屋に行くことも祖母の行事の
ひとつでした。
鉄クズ屋には、シャーマン(巫女)と呼ばれる、あの世にいる亡くなった方が憑依し、その言葉を告げる儀式を行う女性が
いたのです。
ハングルではこの儀式を「クッ」と言います
おそらくその身にふりかかった厄払い的な祖母の行事だったのでしょう。
五色の衣装を着たシャーマンが
銅鑼や鐘、鈴、チャンゴ(朝鮮式太鼓)の音に合わせて祈りだします
銅鑼などの鳴り物のテンポがつぎつぎと早くなってくると、シャーマンは立ち上がり、テンポに合わすのではなく
自分のテンポで踊りだし、その場で軽く軽く跳ね上がっていきます。
鳴り子はシャーマンの踊りに合わして
テンポを変えていくのです。
最後はほとんどジャンプする状態が
続き表情が恍惚としてくると
(多分トランス状態だったのでしょう)
祖母も一心不乱にブツブツと祈り続けて
います。
私は恐さを感じながらも黙ってみていま
した
その内にバタとシャーマンが、床にうつ伏せに倒れます。
おもむろにもたげたその顔は
本来のシャーマンの顔ではなく
男性の顔と声に変貌していました。
そして、祖母にハングルで
何かを伝えます
祖母は一切私生活ではハングルを使いませんでしたが、言葉は知っています。
シャーマンの男声音を聞きながら
祖母は普段滅多に見せることのない
涙を流し「うんうん」と頷くのです。
やがて、シャーマンが本来の女性の顔に戻ると、祖母の顔は憑き物が落ちたような
顔になります。
そして、「たぁ坊、帰ろうね」言うのです
先日、戦友と大川沿いを通過しましたが
それら鉄クズ屋は全て消え去っていました。
今から思うと、現実的なことではないと
思いますが、祖母にとっては必要な
儀式だったのでしょう。
ここまで読んで頂きどうもありがとうございます。
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