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バンコク旅行日記

11/23
私は夜遅くまでパソコンの前に座っていた。
明日から初めてのタイ旅行。余す事なく楽しむ為に、少しでも懸念事項を減らしておきたい。つまり写真を一枚でも多く現像し、依頼主に届けたい。もし私に何かあって、例えば死ぬ等したら、依頼主はこの写真達を見る事が出来無いのだ。カメラマンの友人が代わりに現像をして送信する等という手段もあるが、それは私の写真とはいえまい。

悔いが無いように作業をし、あらかた送り終えたら深夜になっていた。
ドンムアン空港から宿のある最寄り駅までのアクセスを最終確認しようと思いYouTubeを開いたが、目に留まった鷹匠のおねえさんの動画を一心不乱に見ていた。今まで空を飛びたいと思った事は一度も無い。鷹に括り付けられたビデオカメラで撮影した飛行映像が大変魅力的で、空に対して興味が湧く。
空港から最寄り駅までのアクセスは、まあ何とかなるだろうと思いながら眠りに着いた。

11/24

始発でセントレアへ。
殺風景ながらも居心地の良い我が家とも数日の別れ。特に思い残す事も無くスムーズに出発出来た。
一人で海外に行くのは初めてで、保安検査が済むまでは少し緊張した。
搭乗ゲート前の待合スペースには一番乗りだった。ひとっこ一人見当たらない為、私以外の人間は居ないような気持ちになる。それは勿論錯覚で、しばらくすると人間が次から次へとやって来た。

飛行機の窓から雲を見下ろすのは不思議な気分だ。この、もこもこふわふわとしている物体が頭上にあるかどうかで天気が決まり、写真の写りが変わってくるなんて。

飛行機内で持って来た本を一冊読みきってしまう。
帰りの飛行機に読む本を買う事は出来るだろうか。スマホを長時間見つめるのも、何をするでもなくただ座って眠気を待っているのもどちらも得意では無い。少し本を読み、目を閉じると自然と眠っている。些細な物音に目を覚ましてみるのも、こういう時ばかりは楽しい。


空港から市内へ行く為のバスで案の定やらかす。
降りるべきではないバス停で降りてしまう。一緒に降りてしまった日本人観光客達と右往左往した。道端に居る人に道を尋ねながらホテルに着く。

友人と合流し夕食。途方もないくらい遠くに来たのに、なんだか懐かしい。

夜に読む本が無いと不安なので紀伊國屋書店へ。桐野夏生さんの本を買う。(何度も読んでいる「インドラネット」。)


大都市のど真ん中に礼拝所がある。
観光客なので観光気分で見物をする。膝を着き手を合わせ、怖いくらいの迫力でお祈りをしている人がいる。それも何人も、次から次へとひっきりなしに。何を願っているのだろうか。私には必死に願う物事が無い。今居る人達との関係が細く長く続いて、泣いたり笑ったりしながらささいな幸せを感じる毎日を送りたい。もしかしたらこれをお願いすれば良いのかな?新しく何かが欲しい等、一切思えない。私はもう足りているのだ。

小学生の頃、学校の宿題で「将来の夢」について書いて来いと言われた。「自分だけの猫を飼う」と書いて提出をした。こんなの、将来の夢とはいえない、と再提出を求められた。私はそれがすごく寂しくて、書くのが嫌になった。
なりたい職業を書くのが正解だったのだろうか。願いや夢を否定された気分は黒く苦かった。

やることを済ませ、いざ読もうと思ったら読書灯が無い。くっそー情緒の無いホテルめ。と四苦八苦しながら読む。これもまた楽しい。

11/25

ホテルのプランは朝食無しの為、起きてすぐに出かける。タイティーを飲む。きっとこんな味でこれくらいの美味しさだろう、という想像以上に美味しい。早くまた飲みたい。


道端で大麻を吸っている人達が多くて辟易する。香りからして好きでは無い。外国に来ている事の解放感からか、だらしが無い人達も見かける。嫌な気分になると同時に自分も気をつけようと思った。

今回の目玉の一つであるシリラート医学博物館へ。
ホルマリン漬けになったシャム双生児や銃で撃たれた頭蓋骨、交通事故で折れ曲がった腕等が展示されている。災害で亡くなった人の身元判定の為の作業の様子も見る事が出来た。体は死んでも人間扱いをされていると知る。とても丁寧に作業をしているのが分かった。

赤子の標本の前にお菓子が置かれていた。お供物なのだろう。人の一番優しい部分を差し出されているような気分になる。

地下鉄と船を使って移動をした。船の上でとても気持ちが悪くなる。
私の平穏な旅もここまでか?と覚悟を決めた。幸いにも目的地にすぐに着き事なきを得る。バンコク楽勝、めちゃくちゃ楽しい!と得意になっていた。旅には体調不良が付きものだと、良い戒めになる。


夜の街には夜のおねえさん等が立っている。日本の夜のおねえさんたちとは装いやアプローチの仕方が異なり、違う国に来た事を改めて体感する。素朴な見た目のおねえさんは居るが、いわゆるロリ系の人は見なかった。居るところには居るのかもしれない。


フードコートで夕食をとっていたら老人と相席になる。日本では知らない人と相席なんて絶対に嫌なのだが、何だか楽しかった。

タイ古式マッサージを受ける。私は人に体を触って貰うのが好きだが、かなり人を選んでいる。好き嫌いではなく、良い悪いの感覚だ。体に触る時の侵入角というか、気配を消しながらアプローチする感じとか・・・上手く表現出来ない。普段行くマッサージ屋さんでは必ず指名をしている。なので初めての人にマッサージをして貰うのはとても緊張した。かなり強張っていたと思う。程よい距離感を持った親切なマッサージ師さんで安心した。警戒心の強いタイプの馬鹿なので安らぐという行為が難しいのだが、ほどほどに体の疲れが取れた。

たくさんの物を見て聞いて食べたのだが、今日思い出すのは赤子の標本の前に置かれたお供物だ。
置いた人について考える。私とは全く違う環境で、考え方をしているだろうその人の事を好きになった。


11/26

適当に歩いていたら屋台が出ていたので朝ごはんを食べる。
タイティーのお店を見かける度に飲んでいるので、そろそろ中毒に達している筈だ。ここまではまると面白い。


昨日熱心にお祈りをしている人達を見た。
私もやってみたら何か分かるかもしれないと思い、お供えをする花を買い、やってみる。

膝をついて手を合わせている人が大半なので、真似をする。日常生活の動作で膝をつくのは、女の子を撮る時と永遠嬢様に縛って貰う時だけだ。この二つは私の中で最も祈りに近い行為である。気づいた時は胸が張り裂けそうになった。私は神様に祈る必要は無いのかもしれない。
それでも心の中で唱えた。人の為に何かをするのは得意では無いので、自分の為に。

花市場で、先ほどお供えをしたお花が沢山売っていた。
あれの出どころはここだったのだ。ふた抱え以上ある巨大なビニール袋にぱんぱんに詰められてどこかへ運ばれて行った。知らない誰かがあれを捧げ、膝をつき手を合わせ、お祈りをするのだろう。その人達の願いがまっすぐに届くと良いと思った。


市場に行くと猫が居ると学んだ。
呪物市場にも行ってみる。猫がうろうろしており、目で追っていると横から原付が突っ込んできた。なるほど人はこうやって死ぬのだな、死んだら昨日死の博物館で見た"traffic accident"のようになるんだ・・・。英語をもっと勉強しておけば、説明文を読み込めてよりあの博物を楽しめたのに・・・でも中卒程度の英語でもかなり理解出来たな・・・流石頭の良い人たちがわかりやすく展示してくれているだけある・・・と思いながら避けた。猫はとっくにどこかへ消えてしまった。


夜は中華街へ。
友人と待ち合わせの時間まで見物して歩く。90年代のアニメや映画で沢山見て死ぬ程憧れたチャイナタウンそのもの。恥ずかしくなるくらい写真を撮る。
豚の内臓が入ったスープを飲む。歩き疲れてへとへとだったが、この謎スープのおかげで異常に元気に。

今まで映画で観たり本で読んだ光景を目の当たりにするのは、ありきたりだが、世界が広がる。においや空気の重たさ、音、そこに居る人間の熱量。もっと訳がわからない場所に行きたい。


歓楽街のど真ん中にあるホテルに帰り、日記を書きながらうつらうつらしていた。
突然窓の外のネオンが消える。何事かと思ったが時刻は24時。消灯の時間なのだろうか。夜の街が終わるのは案外早いと知る。条例等でネオンの点灯が出来る時間が決まっているのかもしれない。

11/27

昼前までホテルで過ごす。


タラーノトーイに行く。バンコクの川沿いの町が好きだ。風が気持ち良い。
もう一度フェリーに乗りたいなと思ったが、船酔いが怖くて乗れなかった。



細々とした事をのんびり済ませていたら、気が付いたら夜になっている。慌てて空港に向かう。

搭乗手続きを済ませて意気揚々と闊歩していたら、タイバーツを日本円に換金し忘れていた。次回海外旅行に行った際にその国の通貨に換金すれば良いと教えてもらい気が楽になる。
免税店で豪遊出来るような性格だったら、私はもっと大物になれるのだろうか。

搭乗口から飛行機に乗り込む時、再びタイに来れるのは当分先になるだろうと思った。行きたいところが沢山ある。

街の灯りが透けてみえる。
天国が空の上にある理由が分かるような気がする。

11/28

午前中に我が家に帰宅。
バンコクのホテルのシャワーの方が温度が高く水圧がある。我が家のシャワーは旅情満点だ。

色気と痛みがあった方が旅の記録が鮮やかになるのだろう。今回のバンコク旅行に課した制限は「大麻を摂取しない」「男や女等を買わない」「飲酒をしない」だった。どれも特に興味があるわけでも無いが、あったら色取りが良くなっただろう。そして無理に足した分、痛みも伴ったに違いない。

荷解きをしようとリュックを開けたらバンコクの街のにおいがした。

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