揺れる瞳
2/13
相変わらず最低な気持ちで目が覚める。
このむかつきはおそらく、ミヒャエル・ハネケの作品を観ているせいだ。何故毎晩眠りにつく前にそんなものを観ているのだろうか。
(人の業を鑑賞して自分の方がマシだと思い込みたいから。愚かな行為を馬鹿にしたいから。ハネケの映画に出てくる人物よりは私は徳を積んでいると・・・しかし果たして言い切れるのだろうか。)
写真集「STAYGOLD」が届く。
梱包の段ボールを開けてため息が出た。佇まいがあまりにも高潔だった。デザイナーのカステラ先生と、本編の構成を手伝ってくれたもこさんのおかげだ。短い文章も別紙で付けた。校正は元夫に頼んだ。この3人以外にもたくさんの人が関わっている。
そして自分もよくこの写真達をまとめたな・・・と感嘆してしまった。写真のセレクトは苦痛でしかなかったが、その中からきらきらと輝くものを見つけてもらえれば嬉しい。
夜はcasement13の搬入へ。
2/14
目覚める毎に気持ちが改まってくる。
ハネケのおかげか程よい悪夢を見ることが出来て、頭の中が整理されているのかもしれない。
トナカイさんの展示へ。
一連の沈み込んだ気分で見に行ったが、そんな自分を恥じるほどシャキッとした展示だった。
2/16
他人からの施しで救われるなんて幻想だ。
その瞬間は何かを得た気持ちになるのかもしれない。まやかしの行為では決して満足出来ない。満たされない心は見る間に肥大していく。そんなものを抱えてうろつき回るのはごめんだ。
そして誰かの穴を埋めるのも虚しい。そんな事に私の感情を尽くすことはしたくない。
揺れる瞳を見つめながら、人を愛する事は私には難しいことだと体感した。今はせめて自分を愛そう。
2/17
在廊する。
自分の作品の前に立ち止まってくれている人がいると、やはり嬉しい。
何が去来していくのか、聞ける人には聞いてみた。心象風景を延々と見せられる気持ちを知りたいというのもある。
何を思うかは人それぞれだが、伝わってくるものがあった。
2/18
つらいことがあり、それを隠すためスカした顔でうろついていた。
終盤に緊張の糸が切れ、友人たちの前で涙を流す。情緒不安定な様を目の当たりにして動揺しただろう、申し訳ないことをした。
申し訳ない事をしたとは思うが、謝るのも変な話だ。あれも私のバリエーションの一つだ。
誰とでも話したい、皆んなと仲良くなりたいパーティ野郎の反面、暗く重くどうしようもない面もある。そこをうまく調合出来れば良いのにとも悩んだこともあるが、はっきりと切り替えをした方が今は楽だ。
そして暗く重い私の方が、落ち着くと言ってくれる方もたくさん居た。嬉しかった。明るく賑やかな方が皆んなに好かれると、無理をしているところもある。暗い私も愛してもらえるなら、少しだけ生きるのが易くなる。
ただ、どちらであっても優しくありたい。
主催の伽十心くんに「人でも殺してきたのか」と訊かれた。そうだと答えた。
私のポリシーの「殺し以外はなんでもやります」を破ってしまった。それについては恥じている。(3回死んだ事もある、等と適当な事も言って笑って終わった気もする。しかし実際に3回死んでいる。)
2/19〜---
2/25
2月、通常より数日少ないとしても、あまりにも早く終わってしまいそう。
鴉にて女子会。
帰るのが寂しくて長居をしてしまう。
2/26
正しき者は恐れず。弱い者だから恐くて仕方ない。
2/27
今日のスーさんの相談コーナー、良かったな。
自分の信じ方を改めるなんて、考えたことがなかった。
友人とover the sunの展示へ。
平日の午前中にも関わらず、他の互助会員の方も数名見に来ていた。同好の士の存在を目視出来て嬉しかった。
2/28
愚かで恥の多い人間なので喫煙をする。
ここ1ヶ月ほど行く先々で貰い煙草をしていた。何年も禁煙をしていたが、こんなにスムーズに吸えるのか、と驚いた。でもこれっきりにしておいた方が良い。特に美味でもなければリラックスもしなかった。
依存しやすい嗜好品に頼るのは私にとって良い行いではない。
2/29
本当にあっという間に2月が終わってしまった。(徒桜、という言葉が頭に浮かんだ。)
自分で自分の体を切り刻むことを強制されたような気分の毎日だった。切り刻んだとて、しかし過ぎていくうちに何てことは無くなる。実際になりつつある。残るのは傷だけだ。
揺れる瞳を見つめるのは金輪際やめる。追いかけても何もなかった。少なくとも私にとっては。
雨の夜が一番好きだ。
収めどころが分からない感情を抱え込んだまま過ごすのに丁度良い。でもそんな気持ちも今日でお終いにする。
明日からは3月だ。
またきっと、良い事も悪い事もたくさんある。
私は愚かでくだらない人間だが、良くなろうとする努力は出来るはずだ。自分のために正しくありたい。