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首の緋文字

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実際に会った時、写真で見る時と日記の差があり過ぎる、と言われる。そう言う人には是非ともステージも見て欲しい。

どんな場合にも多少の装飾が入る。誰だってそうだろう。「素のあなたを撮りたい」と言う人も何人か居た。素とは何のことかと聞いたら、セックスをしているところ、とか、恋人と過ごしているところ、とか。面白いからその人が求める素っぽい私で居た。それを少しずつ見せていった。その人は満足そうで、そして何度も撮りに来た。勿論演技だった。私は何にも楽しく無かった。

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江ノ島へ。

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9/8
良い事と悪い事は同じくらい起こる。私は善人なのだろうかと考える。
「PERFECT DAYS」を鑑賞。人って仲良くなっても死んでしまう、と思う。

9/9


9/10
新しい耳栓を買った。
就寝時に付けている耳栓を外出時につけていた事もあったのだが、あまりにも周囲の音が聞こえなくて危険だった。ノイズキャンセリングイヤホンを常備する事になるのだが、音が増幅して聞こえたり、雑音が入る事が多い。
かといって生の耳で出歩くと、めちゃくちゃに疲れる。単純に全ての音が大きくて辛い。電車の中で聞こえてくる会話や街中で流れている音楽が、寝る前に頭の中で再生される事がある。この意味不明なストレスから逃れる為なら外出をしないという選択肢も出てくる。そういう訳にもいかないので、ノイキャンのイヤホンを装着しながら外出をしていた。

しかし先日、バスに乗っている時、ノイキャンのイヤホンを付け音楽を聴いている時、曲と曲の間の数秒間の空白の間に聞こえてくる会話が耳に入ってきた。その瞬間から始まった緊張、その後やって来た頭痛で半日苦しむ事になる。

悩む事にも疲れていた。ここで外出を諦めるとまた引きこもりに戻るだけで、それも悪くは無いのだがそういう訳にもいかない。
いわゆる感覚過敏の中の聴覚過敏についても調べに調べた。思いついたのでAmazonで「聴覚過敏」と調べると、買った事が無いタイプの耳栓がヒットした。
今まで購入していた耳栓に比べると高額だが、こういう悩みについてお金で解決出来るなら安いと思っている。
早速購入し、外出時に装置をしてみた。
バスや電車のアナウンス、車のクラクション等の安全に必要な音は程々に聞こえる。車や風の音、店内にかかっているBGMはほとんど聞こえない。隣の席の会話の内容は聞こえない。対面している人の声は3分の2程度の音量で聞こえる。(装置したままだと、イヤホンを付けている人に見えるので会話をする時は外したほうが無難かもしれない。)
とにかくとても気に入った。これを付けることによって頭の中のごちゃごちゃを整理整頓する事は出来ないが、ごちゃごちゃを増やす事は防げそう。

ちなみに私の自宅は極端に物が少ない。家の外は物だらけで私の手には負えない、無秩序の世界だ。自分の棲家だけは秩序を治める事が出来る。
半年くらい前までは、この自宅で安らぐ事が出来ず困っていた。でも今は寛げる。慣れて来たのだろうか。

今日は脳の調子が良かった。
比較的冴えており、会話を楽しむ事が出来た。これが一日限りなら良い。二日三日続くと疲労困憊し、反動で寝込む羽目になる。なので明日は憂鬱な気分になりたい。

9/10


自分の記憶の中にしかいない人達について考える。
強く思い出すのは父方の祖父だ。次に元恋人。何かの拍子につい昨日まで存在していたかのようにはっきりとした存在を感じることもあれば、感傷に浸りたくて思い出そうとしてもそよともしない事もある。

9/12
衒いが無くなったのか、先鋭に欠けてきたのか、とにかく丸くなった。もう尖っている必要は無いのかもしれない。
例えば、物事を決めつけなくなった。こうしなければ、こうでなければ、という思い込みが強く、自分を苦しめていた。それも無くなりつつある。
人に甘えるようになった。頼る事が出来る人としか周囲に居ないからかもしれない。
居心地の良い人、場所、物ばかりを配置すると、こんなにも心穏やかになると知る。

小道具の拳銃を持つと躊躇わなく頭に突き立てる女の子。バレエの練習着。切り立ての腕。

9/…

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9/28
欺かれぬ者は彷徨う、私の場合はきっと、欺かれた事も気づかぬまま、にやにやと薄笑いを浮かべ、死ぬまで居場所を見つける事ができないだけ。ただの宿なし、人でなし、碌でもなし。死ぬ間際に気づく、あああの場所あの人たちが私の本物の安らぎだった。でも自分から捨てていたんだ。

書いていて虚しくなったので人に聞く。私はどうしようもない人間で、正しくありたい等とは言いながらも実際はそんなこと少しも思っていない、ただのポーズであり、それらしく振る舞っているだけだ、その事に気づいているか、と。当然のように知っており、むしろ周知の事実だ、お前は誰からも信用されず人を信じる事も無く、今立っている場所は既に地獄であり、永遠に苦しみ続ける生き方しか出来ない。夜眠りにつく前に自分に聞いた事はあるのか、無いだろう。一度でもあればこんな生き方をしているわけがない。その人とは勿論、私と全く同じ顔をしている。

今日死ぬと思って毎朝目を覚ましている、毎晩眠る前に明日死ぬと思って眠りについている。これを死ぬまで繰り返す。人生は一度きりなわけが無い。私は延々と苦しむ。粛々と生活をする一方でだらしが無いほどに人に救いを求めている。自分が何をしたいのかとうの昔に忘れてしまっている。

9/29
訳のわからない物に足を取られそうになっている。おそらく雨と季節と、音楽と日差しの短さと、お気に入りのジャムを食べ切ってしまったことが原因だ。つまりあらゆる事に憂鬱になっている。
ここまで来ると逆に楽しくなってくる、そして小さな事が喜びになる。ささやかで自分の手のひらの上に載せ包み込める物事にしか心が向かない。

などと朝は思っていたが、眠る前にはやはり違う心持ちになる。
懺悔と福音をごちゃ混ぜにした感情の塊が来ては去っていく。どうか今日のような日が二度と訪れませんように。ここ最近犯した罪の羅列が止まらなかった。
ひどく内省的だが、謙虚な気持ちが続くわけはない。嵐が過ぎ去ったように、明日にはどうせきっとすっかり忘れて怒ったり笑ったりしているに決まっている。

どれだけ私が能天気に生きて過ごしているか確かめようと思い、去年の今頃の日記を読み返してみた。トリュフについて何やら文句を言っている。ただ楽しんで食べれば良いのに、器用な上に面倒くさい奴だと思う。

9/30
生まれてから死ぬまで罪人であり刑罰を受けている真っ最中に私だが、それでも晴れやかな日もある。それが今日だ。
なんたって十三年来の友人、天使であり悪魔でもあり、セクシーもキュートも知性もユーモアも人柄も揃えた伽十心くんの展示の搬入日なのである。
今日は実に良い調子だ、昨晩の懺悔が嘘のように身も心も軽い。悔い改めた甲斐があったものだ、やはり人生は前に前に進めていかないと・・・と意気揚々と外出の準備を始めた。しかしはたと気づく。何か途轍もなく大切な物事を失念している気がする・・・。

私は展示の度に、解説を書き添えている
観る人からしたらあってもなくても変わらないような、あいうえおを並べただけの短い文章だが、自分にとっては大切なものだ。あれがあるのと無いのとでは、自分の心の内訳が済んでいないような気がして、なんというか、手を抜いている気分になるのだ。
心の底から大切にしている物事をすっぱり忘れる事ができるザルのような頭脳の持ち主だと証明する出来事だ。でもまあ、書き始めてしまえばあっという間に書けよう。

「彼との出会いは13年前、フェチカというクラブイベントで・・・」「出身地が近く好きな作家が似ており、そして何と同い年・・・」「事あるごとに写真を撮らせてもらい・・・」「我々はすっかり大人な年齢だが、彼の眼差しは出会った頃から変わらず・・・」
以前にもどこかで書いた事があるような文章である。こんな文章なら書かないほうがよっぽど良いと思い、搬入に向かう事にする。

会場に着くと天使であり悪魔でありセクシー&キュートな我らの伽十心くんが居た。やや疲弊した様子だったが、それもアンニュイで素敵だと思った。「疲れていても可愛い」と思ったのだが口に出して言っていた。

ああだのこうだの思いながら壁に写真をかける。写真は売るほどあるのだが、売っても仕方がない。私が一番好きだと思った二枚を選んだ。この日の天気は曇りで、海に行きたいから海に行った。一緒に行きたい場所がたくさんあるが、今日は海だと決めた。

自動車学校の実習以来、高速道路を走っていない。不安だったので全て下道を選んだ。撮影しているより車に乗っている時間の方が長かった。
外で活動しようと思えるギリギリの温度と湿度。海と空の境界線は霞んで見えた。鳶がのんびりと飛び、空に区切りをつけているようだった。
海に来たが特にやる事は無かった。ただぶらぶらと歩き、目ぼしい場所があれば彼をそこに立たせて、シャッターを切る。岸に落ちている見慣れない物(魚の頭、見た事が無い瓶等)を見つけては盛り上がった。私はしばらく前から禁煙を止めていた。一緒に煙草を吸うのは何年振りかと考えるが分からなかった。

そんな事を思いながら搬入をした。
この事を解説として纏めて書けば良いと気づいたのは帰宅をしてからだ。長い年月を一緒に過ごすとこういう事もある。


伽十心、最初で最後のモデル展

garment13 at spazio rita (DUCT/spazio rita
地下鉄東別院駅3番出入り口から徒歩3分
spazio rita twitter


2024.10.1.(火)~10.6.(日) 15時〜21時
※最終日は20時迄


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