ランダル・レイ「政府が”お金を刷れる”なら、なぜ借入をする必要があるの?」(2024年5月)
「政府が”お金を刷れる”なら、なぜ借入をする必要があるの?」
MMTのドキュメンタリー映画で、バイデン政権のバーンスタイン経済諮問委員長がこの質問をされて回答に窮するシーンがSNSで話題になった。
これについてランダル・レイは、一個人の理解の問題ではなく、そもそも「通貨を発行する政府がなぜ国債を発行するのか」という疑問の根底にある金融オペレーションに関心を持つ人はほどんどいないだろうとコメントしている。
まず「お金を刷る」という言葉は誤解がある。政府の支出は銀行のバランスシートに電子的に記入するだけなので、現金を刷っているわけではない。あらゆる政府支出はすべて、受取人の銀行口座に直接記入するという形をとる。
つまり、徴税しようが、国債を売却しようが、政府が支出をすると常に新しい通貨が発行される。「お金を刷ったらハイパーインフレになる」というのなら、常にハイパーインフレが起きていることになってしまうが、現実はそうではない。つまりそのような主張は間違っている。
また、法律面では、第一に、財務省はFRB(中央銀行) に持つ預金口座への当座貸越を禁じられており、第二に、FRB は財務省から直接(新発債市場で)国債を買入れることを禁じられている。簡単にいうと財務省はFRB から直接「借りる」ことはできないとされている。
とはいえ、FRBは財務省(政府)の銀行であり、財務省の決済代行として支払いを行ったり受け取ったりする。これは家計や企業が民間銀行を利用するのと同じだ。財務省が支払いを行うとき、代行役のFRBは受取人の銀行が持つ準備預金口座に入金し、次にその銀行は受取人が持つ預金口座に入金する。
逆に財務省が納税の支払いを受けると、FRBは支払人の銀行が持つ準備預金口座から引き落とし、次にその銀行は支払人が持つ預金口座から引き落とす。(つまり政府支出がFRBの準備預金と銀行の預金を創造するのに対して、納税は「お金を集める」のではなくてむしろFRBの準備預金と銀行の預金を破壊している!)財務省が納税等による受領額(破壊=マイナス)を上回る支払い(創造=プラス)を行った場合、準備預金も預金も純増する。(つまり赤字支出とは貨幣の純増のこと。)
さて、ここで通貨を発行する政府がなぜ国債を発行するのかという疑問に立ち戻ることになる。
政府が赤字を計上する場合、上記のとおり準備預金の余剰が生じる。そこで銀行がフェデラル・ファンド市場(日本でいうコール市場)でこの余剰を貸し出すと、準備預金が純増した分、金利が低下する圧力が生じる。
2009年以前は、準備預金を持つことで生じる収益はゼロだったので、余分な準備を抱える銀行は潜在的な収益を捨てていたことになる。銀行はより良いリターンを求めながらも、安全で流動性の高い資産を好む。この条件に当てはまるのが国庫短期証券や国債だ。
FRBが国債を売却すると、銀行は支払いに準備預金を使う。年金基金、企業、家計が国債を買う場合には、FRBは銀行の準備預金から引き落とし、銀行は買い手の預金から引き落とす。FRBが銀行の準備預金を引き落とすと、財務省の口座に入金される。
するとなんということでしょう!FRBにある財務省の口座は満たされ、当座貸越しやFRBへの国債直売の禁止といったルールに違反することなく、財務省は支払いをファイナンスすることができる。
もし銀行家が考えを改めて、準備預金があったほうがいいと判断したらどうなるだろうか? FRBは財務省が売却したばかりの国債を購入することになる。これはセカンダリーマーケット(流通市場)で(間接的に)買い入れる行為だから、完全に合法!
事実、FRBは2008年の世界金融危機以来、大規模な買い入れを行ってきたし、利上げを決定しない限りそうする必要がある。
(要するに、支出の度に通貨を発行する政府がわざわざ国債を発行するのは、別に支出をファイナンスする「必要」があるわけじゃなくて、資産を提供し金利を誘導することで安定的なリターンを求める要望に応えることを「選択」しているだけってわけ。国債を発行するもしないも政府の選択。)
経済学者のブランシャールは、政府の赤字と債務が金利上昇を引き起こすと主張するけど、もしそれが本当だというなら、なぜ2000年代初頭から急速に増加した政府債務は、最近のパウエル議長の利上げ決定まで、金利が低下していたり、ほぼゼロ金利で推移していたのか?
ブランシャールにも他の経済学者にも答えられない。
レイの答えは単純明快。
「FRBが金利を決めているから。」
ちゃんちゃん!
ソースはこちら。
L. Randall Wray, "If Government Can Print Money, Why Does It Borrow?", Levy Institute, May 2024.
サムネ画像の引用元:https://x.com/LevyEcon/status/1788577632444973431
(了)