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(掌編小説)庭で子猫がミャーと鳴く
一人暮らしの奈津子さん(82歳)お庭に子猫がやってきた。
奈津子さんの朝は遅い。古い一軒家はまだ秋口だというのに寒々としていて、なかなか布団から出る気にならないのだ。50代の息子は結婚して遠くに住んでいて、正月に帰ってくることもほとんどない。にぎやかだった夫も10年前に亡くなってしまって、家の中はいつもいつもシーンとしている。奈津子さんは7時半頃にむくむくと起き出すと、1階に下りて仏壇の前に座る。仏さんは夫一人だけだ。お線香の匂いと、おりんの澄んだ音色で朝が始まる。
「今日は何をしようかね?お父さん」
奈津子さんはそうつぶやくと、台所に向かって朝ごはんの準備。といっても冷蔵庫から牛乳を出して、食パンをトースターに入れるだけだ。テレビをつけて朝のニュースを観て、その後ワイドショー。そうしているうちにお昼の時間。今日はカップうどんに卵を入れて食べた。そしてテレビの前で横になると、睡魔に襲われ夕方まで昼寝。寝ぼけながら洗濯物を取り込んで夕ご飯の支度をする。今日は大根と鶏肉を煮て、炊き立てのご飯と一緒に食べた。ご飯の後はお風呂に入ってテレビを観て夜眠れずに一日が終わる。毎日これの繰り返しだった。
ある日の朝、仏壇の前でおりんを鳴らした後、何か聞きなれない音。奈津子さんは耳を澄ませると、どうも窓の外から聞こえる。小さな、か弱い子猫の鳴き声。奈津子さんは南向きの掃き出し窓をそっと開けると、窓のすぐ下の雑草の中からミャーミャーと鳴く子猫が一匹、奈津子さんを見上げていた。
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