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朝の音/詩と朗読 poetry night 第81夜
夢の中で私はいつも小学生だ
天気は晴れ
父は銀行員
庭の花がうららかな風に揺れていて
(「朝の音」より)
🌿「詩と朗読 poetry night」 第81夜は「朝の音」。スキマ時間に聴いていただければ幸いです。↓
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「朝の音」
階下で動き回る気配に
目を開けた
洗濯機を回す音
味噌汁の匂い
母が昨夜の残りを温め直している
タンスの扉を
父が開け閉めする
掛けてあるベルトが扉にあたって
カランカラン
ネクタイを締めて
背広をはおって
カバンを肩に掛けたら
もう出勤だ
玄関のドアを開けると
家中の空気がどん、と動く
もうすぐ階段の下から
母が私たちを呼ぶのだろう
「早苗~、真理子~、起きなさい~!」
二人部屋の
向こうの端のベッドで寝ている姉は
もう起きただろうか
「お姉ちゃん…?」
声に出したら本当に目が覚めた
ときどきそんな朝を迎えている
ちゃんとした大人になりたくて
父の勢力下から逃れたくて
一人暮らしを始めたのは
十五年前
それから結婚もした
四〇も越えたのに―
夢の中で私はいつも小学生だ
天気は晴れ
父は銀行員
庭の花がうららかな風に揺れていて
家族の朝の音
大切な一日の始まりを
あまりに当たり前のものとして
過ごしてきた
もう戻っては来ない
永遠の朝の音
胸に抱いて
さあ
今の私の一日を始めねば。