第10弾 自然な農と食を活かした地域活性化
金丸 弘美(食総合プロデューサー・食環境ジャーナリスト)
〈連載〉もっと先の未来への歩み
『田舎の力が未来をつくる!』刊行以降、各地の事例は、挑戦に実をつけ、さらに先の未来へ進んでいます。
その後を取材した金丸弘美さんによる特別レポートを掲載いたします。
このレポートは、大阪公立大学大学院 都市経営研究科でのワークショップ授業からのものです。
◆講義概要
農村部では高齢化が急速に進行していると言われて久しいが、実は令和3年のデータによると新規就農者は5万2290人であり、49歳以下の農業新規参入者が1万8420人であった。このうち農業後継者は7190人、農業新規参入者が2690人、そして農業関係法人就職者は8540人であった。SDGsや有機農業の関心、インバウンドの観光需要、密を嫌う生活環境の変化もさることながら政府の新規就農支援政策や地方自治体のユニークな地域活性化計画の実績だと言える。今回政府の支援策と共に自然農と食を活かした地域活性化成功事例の紹介をしていただいた。
・講師:金丸弘美
・開催日時:2023年4月21日 18:30~21:20
・場所:大阪駅前第二ビル6階・梅田サテライト 101号室
・担当:小長谷一之大阪公立大学大学院 都市経営研究科(GSUM)教授
食と地域と連携させた新たな農業振興政策
食、宿泊、周遊で新たな事業が観光のポイントとなり、団体客ではなくサイト予約による個人客が台頭してきている。また、密を避けるためコロナ期の農村観光事業に好印象を与え、観光地ではない農村に宿泊や体験などを通して女性や若者客に好感を持たれている。イタリア(欧州)などは農村での飲食は当たり前でこのような感覚を持った海外勢が日本の農村に興味を持ち、日本の若者も観光とは無縁の農村で地域事業に携わる傾向にある。
「新規就農者数」(農林水産省)https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/sinki/r3/index.html
様々な政府補助政策
農林水産省よる農漁村発イノベーション対策があり、政府ではアウトドアやスポーツそして再生エネルギーや教育などで連携された地域イノベーションが予算化されている。新規就農者を増やすため「新規就農支援制度」(農業体験2日~6週間宿泊、旅費を除く個人負担無料、インターンシップの受け入れ、年間150万円の支給)などのプログラムがあり、この制度を使い就農する若者が増えてきた。また、彼らは異業種出身者が多く独自の販売ルートを開拓し、独自目線の商品開発を行い一定の成功を収めている。
「農山漁村発イノベーションの推進について」(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/nousin/inobe/attach/pdf/index-61.pdf
例:都市近郊型就農
*PAKUCI SISTERS https://www.pakucisisters.com/
*高秀牧場 https://www.takahide-dairyfarm.com/
例:地方移住型就農
*白雪農園 https://snow-white-farm.com/
東京から移住。全くの農業素人から新しい発想の農村生活を実施。クラウドファンディングによる資金を集め、古民家をリノベーションしゲストハウスに。様々なイベント開催で田舎でも稼ぐことができると実証。
*日本農業法人協会 https://hojin.or.jp/
農業を営む会員に向けて経営、提案、情報提供などを行う公益社団法人。ホームページでガイドブックなどを製作し支援事業またインターンシップの紹介を行っている。会員数 2,076人(令和3年12月末時点)
*かみなか農楽舎 https://nouson-kaminaka.com/
農業研修生を受け入れ、農業次世代人材投資資金準備型と農学舎奨励金の選択制導入
*熊本県合志市「NPO九州エコファーマーズセンター」 http://asoeco.jp/
学生のインターシップを受け入れ。東海大学の木之下均教授がNPO法人を立ち上げ40数件の農家会員を募り様々なカテゴリーの体験を行うことが可能となる。
何もないと思われた離島に人を呼ぶ試み
*山口県周防大島「瀬戸内ジャムズガーデン」 https://www.jams-garden.com/
周防大島の人口が減り高齢化率51%であったが、現在移住民が増え町の税収が3倍となる。
他方との差別化を図る為、地域農家と連携し栽培果実品目を増やしたコンフィチュールの店を周防大島で開業。新商品の開発、提案や生産も手掛けさらなる販売力の強化を促す。
食、宿泊、農家と観光の連携
若い世代が地域の中で広域連携を試み、販売促進や観光がSNSなどのネットワーク利用により大きな変化をもたらし、囲い込みではなく地域全体にお金を落とさせる政策をとる(水平的マーケティングを実施)。
例:イタリアのアグリツーリズモ的試み
・イタリア アグリツーリズム検索サイト https://www.agriturismo.it/en/
ツーリスト用ガイドブック6か国語対応や再生エネルギー活用など各国の来訪者に満足を与えるサービスを各農村独自に実施している。しかし日本の農村はそこまでの対応がまだ弱い。イタリアにはアグリツーリズムを導入するため補助金1000万円を個人投資する政策もある。国内のみならず海外の来訪者も迎える環境を作る政策である。
例:自治体の人材育成事業
・ここプラ 高知県産学官民連携センター
https://www.kocopla.jp/#gsc.tab=0
行政が県の産業状況データを開示し塾生が勝算を討議。事業計画書を作成し大学や銀行が事業投資するというシステムを確立。塾卒業生から様々(宣伝し、食し、体験し、泊まる)な事業を県内にて展開。
○まち・ひと・しごと総合戦略(内閣府) https://www.chisou.go.jp/sousei/mahishi_index.html
○内閣府 RESAS 地域経済分析 https://resas.go.jp/#/6/06203
○環境省地域経済循環分析ツール
食と宿泊の融合、農家民泊
SDGsの取り組みの強化、国内での有機野菜生産比率の低迷がクローズアップされ有機農業推進策が国策として発表される。空き家を利用し女性の視線によるゲストハウス、農家民泊の運営を行い国内外に対してアグリツーリズムによる有機農業支援に貢献している。
・株式会社Table a Cloth(テーブル・ア・クロス) gochi荘 岡田奈穂子さん https://all.tableacloth.com/
・京都府和束 BLODGE LODGE
プロジェット・マイケルさん 育子さん https://blodgelodge.com/j/
人材育成と人材投資事業
新しい地域の発信・移住・定住・観光誘致対策には人材を育成する必要があり、育成した人材に融資や投資資金のバックアップが必要とされる。産業、官公庁、大学,金融が地方の活性化事業計画をサポートする産官学金融連携が地方で行われている。
・和歌山県田辺市「たなべ未来創造塾」(2016年創設)
https://www.city.tanabe.lg.jp/tanabeeigyou/miraijyuku6.html
20~40代12人限定。役場職員と面接を行い合格後14回の講座を受講し、資金の獲得を得る。様々な業種から人材を発掘し、達成率50%を目標に連携で事業が創出される仕組みを作る(例:ジビエとレストラン経営)。現状、持続可能で地域形成に向けた課題解決に協同、協創する人口創出プログラムを打ち立てることにより、人材が育ち地域年齢の若年化を誘うことになる。また、地域にボトムアップ事業の創設によって雇用の受け皿ができるというモデルができた。
道の駅との連携により地域マネージメントを行う
国土交通省認定「道の駅」は現在1204か所あるがそのうち黒字が30%のみ。 「休憩所」目的だった道の駅だが現在は「地方創世への取り組みへ重点を置く」位置づけにかわる。
・栃木県益子町「道の駅ましこ」http://m-mashiko.com/
・長崎県大村市「おおむら夢ファームシュシュ」
http://www.chouchou.co.jp/
まとめ
地元に今までとは違ったパズルのピースをどの様に組み合わせ集客計画に落とし込んで地域経済に繋げていくか。その解決策として若者はサイトなどを利用し体験や食を外部に発信し、今までにない発想で地域経済に貢献する力をもっている。そのモチベーションを支援する国の補助金制度や行政の人材育成がすでに始まっておりそれぞれの自治体で町おこしイノベーションとして有効的に活用されている。
報告者とレポートまとめ:大阪公立大学大学院都市経営研究科 山川和輝
追記
今回の原稿中で紹介した以下の取り組みは、WAN(ウィメンズアクションネットワーク)の連載のWEB版でもお読みいただけます。
◎「金丸弘美のにっぽんはおいしい!」
http://www.banraisya.co.jp/kanamaru/yotei/yoteidetail.php?&no=768&a=2017
◎千葉県いすみ市 高秀牧場・ミルク工房/牛かうばっか馬上温香(まがみ・はるか)さん
https://wan.or.jp/article/show/10353#gsc.tab=0
◎山口県周防大島「瀬戸内ジャムズガーデン」
https://wan.or.jp/article/show/7396#gsc.tab=0
◎(テーブル・ア・クロス) gochi荘 岡田奈穂子さん
https://wan.or.jp/article/show/9776(パート1)
https://wan.or.jp/article/show/9813 (パート2)
◎長崎県大村市「おおむら夢ファームシュシュ」
https://wan.or.jp/article/show/7172#gsc.tab=0
◎千葉県八千代市「PAKUCI SISTERS」立川あゆみさん
https://wan.or.jp/article/show/10704#gsc.tab=0
参考サイトおよび資料
・金丸弘美ホームページ http://www.banraisya.co.jp/kanamaru/home/index.php
・内閣官房地域活性化伝道師https://www.chisou.go.jp/tiiki/ouentai.html
・総務省地域力創造アドバイザーhttps://www.soumu.go.jp/ganbaru/jinzai/
・一般財団法人地域活性化センター https://www.jcrd.jp/
・大阪公立大学大学院 都市経営研究科 https://www.omu.ac.jp/gsum/
・ウーメンズアクションネットワーク連載「金丸弘美のにっぽんはおいしい!」http://www.banraisya.co.jp/kanamaru/yotei/yoteidetail.php?&no=768&a=2017
・参考文献
『田舎の力が 未来をつくる!ヒト・カネ・コトが持続するローカルからの変革』金丸弘美著(合同出版)
著者プロフィール
金丸 弘美
総務省地域力創造アドバイザー/内閣官房地域活性化応援隊地域活性化伝道師/食環境ジャーナリストとして、自治体の定住、新規起業支援、就農支援、観光支援、プロモーション事業などを手掛ける。著書に『ゆらしぃ島のスローライフ』(学研)、『田舎力 ヒト・物・カネが集まる5つの法則』(NHK生活人新書)、『里山産業論 「食の戦略」が六次産業を超える』(角川新書)、『田舎の力が 未来をつくる!:ヒト・カネ・コトが持続するローカルからの変革』(合同出版)など多数。
最新刊に『食にまつわる55の不都合な真実 』(ディスカヴァー携書)、『地域の食をブランドにする!食のテキストを作ろう〈岩波ブックレット〉』(岩波書店)がある。
金丸弘美ホームページ http://www.banraisya.co.jp/kanamaru/home/index.php
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公開シンポジウム(前編) https://youtu.be/VTW-NfgQBQg
公開シンポジウム(後編) https://youtu.be/-NgBXMJx_S4