切った女【禍話リライト】
Uくんの知り合いに、彼が「最低のクソ野郎」と公言して憚らない男性がいる。
あるときそのクソ野郎は、付き合っていた彼女を捨てた。
その顛末も最低のクソ野郎の名に違わぬもので、彼の方が浮気をしたうえに、それを非難されたら、あろうことか彼女の方を非難し返したのだ。
曰く、お前の魅力がなくなったのが悪い。
俺を遊ばせたお前が悪い。
女として自分を磨くことを怠ったお前が悪い。
そんな意味のことを並べ立てて、彼女の方を散々非難したそうだ。
責任転嫁も甚だしい。
しかも、なまじ口がうまいだけに余計たちが悪かった。
彼女がなかなか言い返せないままでいるうちに、クソ野郎は「じゃあ、もう別れるから。電話してくんなよ、2度と」と言うと、彼女の部屋から自分のものを持って、出ていったそうだ。
そいつはそのまま家に帰ると、家の中の電気をつけないまま、すぐにトイレに入った。
あーあ、さっぱりしたな。
後悔の気持ちなど微塵もないままトイレで用を足していた、その時だった。
トン。
トイレのドアから音がした。
……なんだ?
ドアを凝視する。
「ねえ、ねえ」
そいつは一人で家に帰ってきた。
一人暮らしの部屋である。
他に誰もいるはずがない。
にもかかわらず、ドアの向こうから、女の声が聞こえてきたのだ。
「ねえねえ」
女は声をかけてくると同時に、どうやら体ごとドアに当たってきているようだ。
「ねえねえ」
……何、こいつ?!
「あたしさあ、手首切った」
ええ?!
クソ野郎は驚きのあまり声も出せない。
「手首切ったけど、死ねない」
ドン、ドン
その瞬間、トイレの電気が消えた。
個室の中は真っ暗になる。
えええ?!
「これくらいじゃ死ねないのかなあ」
ドン、ドン
「私、動脈とか静脈とかわかんないからさあ。どこ切ったらいいのかなあ」
ガチャ
何かが中に入ってくる。
そして、べとべとした手で、そいつは体中を撫でまわされた。
そのままそいつは意識を失った——
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「……その彼女、大丈夫だったの?!」
私は思わずUくんに尋ねる。
「かあなっきさん、その女ってねぇ、全然知らない女だったらしいんですよ」
「彼女じゃないの?」
「彼女はそのあと友達と近くのバーにやけ酒を飲みに行ってたらしくてですね。一切知らないんだそうです」
彼女じゃない女に体中を撫でまわされたその男は、すっかり魂が抜けたようになってしまったそうだ。
「そいつ、仕事辞めて、今は実家帰ってます」
Uくんは、一切同情のない口調で、そう言っていた。
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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「禍話X 第1夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。
禍話X 第1夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/648918046
(50:27〜)
※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。
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