(甘味さん譚)びっくりしたー【禍話リライト】

廃墟で寝泊まりをすることを趣味にする、甘味さんの話だ。

彼女が廃墟の寝泊まりという趣味をはじめたての頃。
とある山の中にある廃校に、甘味さんは足を踏み入れたのだという。
まだ経験も浅かったので、今ならばもう少し状態のいい廃墟を選ぶのだろうが、その廃校はかなりボロボロになった木造校舎だった。
その中でも比較的状態のいい教室に狙いを定め、今日はここで寝ようと宿泊のセッティングをしているときに、ふと思った。

そういえば、自分のいるフロア……全部見て回ってないな。
まだ行ってなかったところ行こう。

そう思って一旦セッティングを中断し、見回りに向かう。
ギシギシと音を立てる廊下を進んで、曲がり角を曲がったところで、甘味さんは驚いた。

そこには椅子が置いてあって、その上にマネキンが置いてあったのだ。
座らされているわけではなく、立てかけるような雑な置き方ではあったのだが、不意打ちでかつ絶妙なタイミングだったこともあって、甘味さんは「うわ!」と珍しく声をあげてしまった。
しかし驚きはほんの一瞬で、すぐに冷静になる。

これはビビるわ〜……
何これ?

おそらくは家庭科室に置いてあったのを、不心得者が持ってきて、やってきた奴らを驚かせてやろうと思ってやったことだろうと思われた。
少なくとも誰かが人為的に置いていることは間違いない。

初歩的なドッキリに引っかかってしまったような腹立たしさもあり、甘味さんはそのマネキンをそのまま放置して、探索を続けたそうだ。

結局他には何もなく、宿泊場所の教室に戻ってきた。

マネキンはびびったけど他は何もなかったな。
お化けとかそういう感じではないのかな……

そう思っていたのだが。

夜。
教室に陣取って、お湯を沸かしてココアを飲んでいた時のことだ。

急に、“あれ?“と思った。

なんか、怖いな……
何の確証もないし、音もしていないし何もないんだけど、これ、怖いな……

俗にいう、嫌な予感が全身を突然貫いたのだ。
焦燥感を覚えた甘味さんは、特に意味はないと認識しつつ、ドアにつっかえ棒をしたり、窓を閉めたりして、今いる場所の安全性を確保しようとする。

急に怖くなってきたなあ。
こういうの、やばいのかな?
怖いことが起きるんじゃないかな……
気が付かなかったけど、お化け、いたのかな……?

そんなことを考えると、眠れなくなってしまい、どんどん目が冴えてくる。

まずいなあ……
これマジで怖いなあ……

教室にいても怖いのだが、今更こんな真夜中に外に出て山を下りる方がもっと怖い。
仕方がないのでランタンなどに明かりをつけて、できるだけ起きてるようにしよう……と意を決した。

しばらくして。
甘味さんはトイレに行きたくなった。
生理現象なので仕方がないのだが、タイミングの悪さに思わずため息をつく。
いくら何でも教室内でするのは抵抗がある。
そうすると外でするしかないかな……と思い、意を決してつっかえ棒を外し、廊下に出たその瞬間だった。

曲がり角の向こうから、声が聞こえてきた。

「あーびっくりした。こんなとこにマネキンがあるからなあ」

棒読みの、中年男性の声だった。

甘味さんは弾かれるように教室に戻ると、ドアを閉めつっかえ棒をした。

先述した通り、そこは廃校の木造校舎である。
床はボロボロになっていて、人が通るとかなり大きな音がギシギシと鳴る。
神経を尖らせて気配に集中していた甘味さんの耳に、そんな音は聞こえてこなかった。
ただ、やる気のない演技のような一本調子のそのセリフが聞こえてきただけ。

考えているうちに尿意も無くなってきたのは良かったが、こんな状況になった時にどうやって対処をすれば良いのか、経験が浅かった頃の甘味さんにはわからなかった。

その時ふと、山に詳しいと自称する、ちょっと嫌味な感じのする青年に会った時のことを思い出した。
とある飲み会の席で、甘味さんが「廃墟に寝泊まりするのに最近凝り始めて……」と言ったときに、その青年はいかにも物知りげなふうにこう言ったのだ。

「山の廃墟に寝泊まりしてたら、人知を超えた怖いことが起きることがあるんだ。その時は、お香を炊くといいよ。ちょうど今、いい匂いのする素敵なお香を持っているんだ。良かったらこれ、あげるよ」

そう言って、オリエンタルな絵が描かれた紙箱に入っている、スティック型のお香をくれたのだ。

怖いことがあったら……今がそれだ!

そう思った甘味さんは、その人からもらったお香を炊いた。
香りが流れ出た瞬間。

甘味さんはえずいてしまった。

ひどい臭いだった。

そういうものは生理的な好悪に左右されるから、単に合わないものだったのだろうとは思うが、それにしても吐き気を催すほどの悪臭だったという。
しばらくえずいたりのたうちまわったりしていたのだが、ふと気づいた。
お香のおかげか自分が騒いでいたせいかは知らないが、場の空気が変わっていたのだ。
うまく説明できないのだが、何となく空気が緩んだような気がした、という。

これ、寝れそう。

甘味さんは、寝袋に滑り込んで、ぐっすりと寝たそうだ。

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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「禍話X 第15夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

禍話X 第15夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/664540219
(39:30頃〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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