にぎられる【禍話リライト】
社会人のYくんは、マンションで1人暮らしをしている。
「俺、最近湯船に入ってないんですよね。シャワーだけで済ませることが多いっていうか」
そんな前置きで彼は話し始めた。
つい先日まで、Yくんは一週間に一回は湯船に湯をためて入っていたという。
「元々、風呂に入るのが好きなんで。リラックスできるんですよね、やっぱり」
そんなYくんは、湯船に入るときは電気を暗めにする習慣があった。
その日も浴室の灯りを暗くして湯船につかっていたのだが。
突然、何かに腕を握られた。
「うわ!!」
叫んで飛び上がったYくんは、電灯のスイッチのところまで走っていって灯りをつける。
浴室には、誰もいない。
……え?
こういう経験に慣れていれば、腕を握られる感触がするくらい、たいしたことないと思えるかもしれない。
しかし、Yくんからしてみれば、初めての経験である。
混乱しつつも、なんとか納得できる説明をつけようと思って、後々考えれば馬鹿馬鹿しいながらも、大きな声で屋内に向かって呼ばわったそうだ。
「誰かいるぅ!?」
一人暮らしなので、誰かがいるわけもない。
だが聞かないことには気持ち的に納得できなかったのだ。
「ねえ、誰かいるの?!」
そう言いながら、浴室から廊下に繋がるドアを開ける。
すると。
風呂場から玄関の方に向かって、濡れた足跡がはっきり、2、3歩続いていた。
Yくんはドアを閉めて、変な声を出してしまう。
「ええ?!ちょっと??はぁ?!」
その後再びそろそろとドアを開け、足跡を確認する。
確かに足跡は玄関まで続いていた。
もっとも、玄関のドアを開けてみたところ、その先までは足跡はなかったそうだ。
「あれは、自分の足跡ではありませんでした」
Yくんはそう言い切る。
というのも、その足跡はひどく小さかったからだ。
「それだけじゃなくて、握ってきた手の感触も小さかったんですよ」
だからYくんは、握ってきたのは子どもじゃないかと思っているそうだ。
もちろん、Yくんの部屋は事故物件というわけではない。
部屋で子どもが死んでいる、などということもない。
ただ、そのマンション自体が周辺に比べると、相場よりもちょっと安いのだそうだ。
「多分、隣が寺だからだと思います」
あの晩経験したことは、隣の寺が関係しているのかもしれないと、Yくんは言う。
「ちょっと安いだけなんだけど、やっぱりそういう場所って良くないのかなって思いますね」
それ以降、Yくんは湯船にお湯はためず、シャワーだけを使っているので、何者かに体の一部を握られるような経験はしていないそうだ。
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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「ザ・禍話 第28夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。
ザ・禍話 第28夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/644100599
(9:52〜)
※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。
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