逆三人【禍話リライト】
最近の話。
Tくんが夜、一人暮らし中の自室でダラダラとしていると、外から若者たちが盛り上がっているような声が聞こえてきた。
……盛り上がってんなあ。
最初はそう思っていただけだった。
しかし、5分経っても10分経っても、声は同じ場所から聞こえてくる。
Tくんのマンションの近くには公園はないけれども、大通りに面してはいるので、そのどこかにいるのだろうと思われた。
飲んだ後別れ難くてダラダラ話してるんだろうな、と思っていたがだんだんとあることが気になり始めた。
喋っている言葉がわからないのだ。
日本語ではない。
さりとて、聞いたことがあるような外国語でもない。
全く聞き覚えがない言葉なのだ。
あまりにわからなすぎて気になったTくんは、若者たちの姿を確認しようと、ベランダに出て声の方を見た。
すると。
高架下の横断歩道の途中にある安全帯に、三人の若者が静かに立ってこちらをみつめていた。
声は聞こえなくなった。
どうやら話していたのは彼らで間違いないようだが、今は一言も発さず、直立不動の姿勢でTくんを見上げている。
ゾッとしたTくんは、すぐにベランダから引っ込んで、カーテンを閉め、窓に鍵をかけた。
ええ?
何なんあいつら?!
しかし、それ以降声は一切聞こえなくなったので、そのうちTくんはその若者たちのことをすっかり忘れてしまったそうだ。
その週末のこと。
Tくんの部屋に友達が来る予定になっていたのだが、部屋で友達を待っているときに、ふと思い出した。
そういえば、このあいだ気持ち悪いことあったな……あれなんだったんだろうな?
そんなことを思っていると、不意にマンションの外廊下から騒がしい声が聞こえてきた。
あの、訳のわからない言葉だった。
明らかに三人の若い男の声で、意味不明な聞いたことのない言葉を話している。
おそらくは、エレベーター脇の階段のところに屯しているような位置から声が聞こえてきていた。
何これ?!
急なことに戸惑うと同時に、前回よりも声が近いため、明瞭に聞こえてくる。
そのためTくんは、前回は気づかなかったことに気づいたのだという。
確かに彼らが何を言っているのか、全くわからない。
しかし、何となくその響きは、以前どこかで聞いたことのあるものだった。
何だっけ何だっけ?
なんか……日常生活じゃなくてテレビで聞いたことがあるぞ。
あれあれあれ……?
これ……逆再生の音じゃないの?
人が喋っている言葉を録音し、逆再生する。
そんな場面をテレビで見た記憶が蘇る。
その時聞いた音と、彼らが喋っている言葉と、確かに雰囲気が似ているような気がした。
だが。
一発芸ならともかく、逆再生された言葉で会話などできるのだろうか?
ええ、何で??
そう思っていた、その時だ。
ピンポーン
うわ、来た!!
呼び鈴の音にビクッとする。
彼らがやってきたのかと思ったからだ。
「おーい、来たぞぉ」
友達の声だった。
「お、おお、すまん」
玄関まで慌てて駆けていくと、チェーンを外し、ドアを開いた。
「何だよ、ずいぶん慌ててんな」
「あ、いや……」
そう言いつつ友達の肩越しに、声のしていた方向を見やる。
しかしそこには誰もいない。
「あのさ、今、誰かいなかった?」
友達は靴を脱ぎながら、「いなかったよ」と答える。
だが、部屋に入ってくると同時に、思い出したようにこんなことを言い始めた。
「ああ、そうそう。誰もいなかったけどさ。お前んとこ、なんだろうな?風とか突発的に吹くのかな?」
「はあ?何言ってんの?」
「いや、下から見上げたんだよ、着いたとき。何気なく、お前の部屋はあの部屋だな〜くらいの感じで。そしたらさ」
外廊下に、大きな黒いゴミ袋のような物体が三つか四つほど、ひらひらと舞っていた、というのだ。
まるで旋風に巻かれるような飛び方だったのだが、外には風など吹いていない。
このフロアにだけ、ビル風が吹き付けるなんてことはあるのかな……と思いながら来たというのだ。
「でもエレベーターでこの階に着いたらゴミ袋はないしな。風も吹いてないし……そもそもゴミ袋が舞ってるみたいな特殊な飛び方するのかね?」
「いやあ……科学的にどうなんだろうね……?」
それからも、Tくん曰く、ちょくちょく廊下で逆再生のような話し声はするという。
ただ、お金の問題もあり、いまだになかなか引っ越せないで困っているのだそうだ。
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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「ザ・禍話 第27夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。
ザ・禍話 第27夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/642853862
(34:47〜)
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