いけないんだ!【禍話リライト】

日曜日の昼間のこと。
前週の仕事で疲れ果てていたSさんは、日曜日にようやく久しぶりの休みが取れたということで、ぐっすりと眠っていたのだという。
夏にそろそろ差し掛かろうとする時期のことで、窓を開けて寝ていたのだが、気がつくと道路を挟んだ向こう側にある保育園のあたりから、子供たちの騒ぐ声が聞こえてきた。

日曜は休みのはずだよなぁ……
なんかいつもよりうるさくないか?

そんなわけで、もっと寝ていたかったにも関わらず、Sさんは目が覚めてしまった。

「うるさいなあ……」

ぼやきながら時計を見ると、時刻は昼の2時である。

まあ、寝ている時間じゃないか、こんな時間まで。
それにしてもうるさいな……日曜保育でもしてたっけ、ここ。

そう思いつつ、ぼーっとした頭でベランダに出てみると、保育園の入口は門がしまっている。
建物の方に目をやれば、電気もついていない。

あれ、真っ暗だな?
やってないじゃん。
どうなってんだ?

子供の騒ぐ声は、いつの間にか聞こえなくなっている。
気が付くと、他に誰もいない園庭に、一人男の子がポツンと立っているのが目に入った。
こちらを指さしている。
その男の子は何かを言っているようなのだが、叫んでいるわけではないので、何を言っているかまではわからない。

こっち指さしてるみたいだな……なんだ?

その子はいちいち後ろを振り返っては、誰かを呼ぶような仕草をして、Sさんの方を指さす。
しかし園庭にはその子一人で、大人であれ子供であれ、他の人の姿は見えないし、声も聞こえない。
そのうち、だんだんとその男の子の声が大きくなってきて、何を言っているのか、Sさんの耳に届いた。

「いけないんだ、いけないんだ、あの人いけないんだ」

……いけないんだ?
俺、何もしてないんだけどな。
なんだ?

「いけないんだ、いけないんだ」

周りに触れ回るようにそう言ったあと、またSさんの方を指さして繰り返す。

「いけないんだ、いけないんだ」

そのうちSさんも、だんだん意識がはっきりしてくる。

……どう考えても、おかしい。
保育園、今日やってないぞ。
あいつ、誰だ?
知り合いか?
違うよな……でも、俺を確実に指さして……ん?

そのとき、Sさんはそれまで感じていた若干の違和感の正体に気づいた。

指さされているのは、自分じゃないんじゃないか?
でも、自分じゃないとすれば、誰だ?

Sさんは何気なく振り返る。
すると、台所に見ず知らずの女が立っていて、人差し指を立てて困った顔をしてシーというポーズを男の子の方に向けていた。

「あんたが黙ってたら、ばれないんだから」

女は、おそらくは男の子に向かってそう言っている。

パニックに陥ったSさんは、慌てて中扉を閉めて、混乱した頭のまま考える。

誰?!

女の顔に見覚えはない。

「だから、あんたが黙ってればばれないんだから」

閉じた中扉の向こうから、相変わらず女の声が聞こえてくる。

「いけないんだ、いけないんだ」

窓の向こうからは男の子の声が聞こえてくる。

「あんたが黙ってれば大丈夫だから」
「いけないんだ、いけないんだ」
「黙っててよ」
「いけないんだ、いけないんだ」

その時だ。

大通りを大型トラックが大きな音を立てて通過していった。
道路状況があまり良くないので、凹凸に乗り上げてガタンゴトンと音を出したのだ。

トラックが通過すると、それまでのサンドイッチ状態が嘘のように、音が聞こえなくなった。
Sさんは、おっかなびっくり中扉を開けてみる。

誰もいない。

ついで、窓から外の保育園を見てみた。
先ほどまで男の子がいた園庭にも、誰もいない。

これ、トラックが通らなかったらどうなっていたのかな……

改めてそう思って、Sさんはゾッとしたそうだ。


少し時が経ってから、Sさんは改めてこの時のことを疑問に思ったという。

なぜこんなことが起きたのか。
これまで保育園では何もなかったのに。

調べてみると、前にある保育園に通っていたお子さんが親御さんから暴力を受けて、それが発覚して別のところに引っ越すことになったということがあったという話を近所に住む子持ちの友人から聞くことができた。
その子がいつもつらそうな顔しているので、疑問に思った保育士の先生が、ようやく聞きだすことができたそうだ。
そのあと親が保育園に来て、散々クレームを入れてきたという。


「子供は児童相談所に保護されたらしいんだけど、親とすれば納得がいかなかったらしいな。詳しいことは知らないけど、かなり大変なことになったらしいぞ」
「へえ、そんなことがねえ……」
「もしかするとお前の経験と関係あるかもな」
「は?なんでさ?」
「話によると、親が怒鳴り込んで来たのは日曜日らしいぞ。よく分からんのだが、それが何らかの影響をもたらしたのかもしれん……」

その話を聞いたSさんは、まだそこに住んでいるものの、日曜日はできるだけ早めに外出するようにしているそうだ。

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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「禍話X 第1夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

禍話X 第1夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/648918046
(22:11〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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