遠くに立ってた子【禍話リライト】

Fさんは、中学生のころ、こっくりさんを一回だけしたことがある。

平成のころのことだ。
前日にやっていたテレビを見て、見よう見まねでこっくりさんをしてみようということになった。
その番組を見るまではこっくりさんについて知らなかったので、皆、そんなのあるんだとワクワクしながらこっくりさんをしたのだそうだ。
もっとも、正式なやり方も知らず、本気でやっていたわけでもないので、コインはまともに動かなかったようだが。

それからずっと後になって。
Fさんは地元の高校を出た後、地元の企業に就職した。
中学校の頃の同級生も、地元に残っている子が多く、一緒に遊んだり、電話をしたりすることもしばしばあった。
そのうちの一人である、Bちゃんと電話したときのこと。
どういう話の経緯だったか、中学時代のこっくりさんの話になった。

「こっくりさんしたよね、一回だけ」

そう言うと、Bちゃんもすぐにそれを思い出したそうだ。

「ああ、やったね。何にも来なかったけど。思い出すわぁ」
「雰囲気はあったよね」
「そうだよね」

そんな話をしていると、ふっとFさんの頭の中に回想シーンが浮かんだ。

確かに怖かったよなぁ。
先生が来たら怒られるから、電気をつけないで薄暗い中でこっくりさんをやってたんだ。
だから四隅がやたらと暗かったっけ。
……あれ?
ちょっとまって?
こっくりさん自体は3人でやって、1人解説役の子がいて……
ん?
もう一人いたな?

脳内イメージで再生された映像を基に、Bちゃんにその話を振ってみる。

「あの時いたのは、BちゃんとCちゃんとDちゃんと私で……もう一人いたよね?」
「いたいた~」

Bちゃんが応える。

「私とCちゃんとDちゃんの三人でやってて、Bちゃんが解説役してくれて、で、ちょっとまって?後ろのロッカーのとこに立ってた子いたよね?遠くから声かけてたよね、『どう動いてる?』とか」
「うんうん」
「あれ、隣のクラスの子だっけ?名前思い出せないわ」

脳内にその時の映像が再生される。
教室には他に誰もいない。
その後ろにいる女の子も近くに来ればいいのに、えらく離れたところから、ロッカーに背中を預けて、「来てる?来てない?」などとこちらに聞いてくる。

あれは、誰だっただろうか?

「えーっと……その子も友達みたいに盛り上がってたけど、あの子誰だっけ?思い出せないの」

Fさんがそう言うと、Bちゃんは笑う。

「え、Bちゃん分かるの?最近忙しくて、私記憶失ってるのかなぁ。あれ、誰だっけ?」

するとBちゃんが笑いながら答えた。

「隣のクラスの○○○○ちゃんじゃない」

ゾッとした。

というのも。

それは、Bちゃん自身のフルネームだったからだ。

何言ってんだ?とは思ったが、「それ、あんたの名前じゃない」とは言えないような雰囲気をFさんは感じていた。

なんで自分の名前を言ったんだろ?

そうは思ったが、そのことには突っ込めないまま、電話は終わった。

もちろんこれだけでは気持ち悪い。
Bちゃんが自分の名前を言ったことも気持ち悪いし、その女の子が誰なのか一切わからないままなのも気持ちが悪かった。

Fさんは、CちゃんとDちゃんの電話番号を知っているので、かけてみた。
世間話をしてから、本題である「あの場にいたもう一人の誰か」について、聞いてみたのだそうだ。
すると、二人とも。

「なんで忘れてんの?~~ちゃんじゃない」、と。

自分自身の名前をフルネームで言ったという。

二人にそう言われ、Fさんは混乱と驚きと、肌が泡立つような恐怖に襲われた。

全員でからかっているのか、とも考えたが、そんな高度などっきりは聞いたことがない。
第一、それがどっきりだとしたところで、全く面白くないだろう。
もやもやした気持ちは抱えながらも、再度確認することもできないまま、ただ無為に時間が過ぎていった。

その年の夏に、クラス会が催された。

その三人は、来なかったという。
幹事も連絡がつかないということで、Fさんが電話をしたけれども、着信拒否されているのか、つながらなかった。
最後にメールしたのちょっと前だったな、と思いつつメールでも連絡を試みたが、アドレスを変えられているようで届かなかった。
クラスの他の面々も、Bちゃんたち三人には連絡がつかないのだという。

どうしたんだろう、と話をしているときに、「実は」と言って、その三人の近所に住むクラスメイトが、彼女たちの現状について話してくれた。

「それが、三人ともそろいもそろって私と電話した後……春先くらいから引きこもりみたいな生活を急に始めちゃったらしくて。仕事も辞めて、外に出てこないんだそうです」

そう言った後、Fさんは真剣な表情で私に問いかけてきた。

「これって私のせいなんですかね?それとも私は危ないところを助かったんですかね?」
「……ちょっとわからないですね」

私はそう答えることしかできなかった。

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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「ザ・禍話 第28夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

ザ・禍話 第28夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/644100599
(33:42〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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