夜の女子会【禍話リライト】

彼女と同棲をしているという、社会人のGさんから伺った話だ。
Gさんたちは少し広めの部屋に住んでいるので、同棲している彼女はまだ大学生とのことなのだが、大学の友人を自宅に招くことがたまにあるのだという。
彼女が友達を呼んで鍋パーティーをやるなどという場合には、自分が顔を出すのも腰が引けるところがあるので、リビングで彼女たちが談笑している間、自分は自室に引っ込んで趣味に没頭するなどということもよくあるそうだ。

その日もGさんの家では、彼女と友人たちによる女子会が行われていた。
本来翌日は土曜日で、Gさんも仕事が休みのはずだったのだが、あいにく仕事が急に入ってしまい、挨拶だけして寝室に引っ込んだのだという。

「俺は早々に寝るけど、好きにしてていいよ。割とうるさくても寝られるから、騒いでくれて構わないので」

彼女にはそう言って、Gさんは早々にベッドに潜り込んだ。

ところが。

その日に限って、夜中2時くらいに目が覚めてしまったのだという。
騒音で目覚めたわけではない。
むしろ家の中はすっかり静かになっている。
ただ単に、トイレ行きたくなってしまったのだ。

そういうわけで、廊下に出てトイレに行こうとして部屋を出たのだが、翌日が休日なのでまだ盛り上がってるかな、と思ってリビングの方を見てみると、電気が消えている。
ドアがすりガラスになっているので、灯りがついているかどうかくらいはわかるのだ。

あれ?今日は早めに切り上げたのかな。
で、雑魚寝をしているとか。

そんなことを思いつつ、トイレを済ませ手を洗っているときに、ふと思い至った。

今日は少し冷えるよなぁ。
もし酔っ払って雑魚寝をしているなら、掛け布団くらい必要だよな。

彼女が寝室に布団を取りに来る気配はなかったので、きっと彼女たちは掛け布団もなく寝ているのだろうと思ったのだ。

一応声かけといたほうがいいかな。
中、覗いてみようかな。

そう思って寝室に向かい、リビングのドアに手をかけた、その時だった。

リビングの中から声が聞こえてきた。
小さな、押し殺したような声だった。

あれ、映画でもみてんのかな?

最初はそう思ったが、もしそうなのであればすりガラス越しにテレビの明かりくらい漏れてきそうなものだ。
ところがその時には、どうも間接照明一つ分くらいの灯りしか漏れていないように見えた。

ん?

ノブに手をかけたままの状態で耳を澄ますと、声が何を言っているのかがわかった。

「こっくりさんこっくりさん」

えええ?!

Gさんは耳を疑った。
だが、耳が慣れてきて、声はよりはっきりと聞こえてくる。

「こっくりさんこっくりさん、なんとかですか」

間違いなく、何かを聞いている。

なんでこっくりさんなんかやってんの?!

そうは思うのだが、おおかた深夜テレビでこっくりさんでもやっていて、それに触発されてやろうやろうみたいな感じになったのかもな、と納得した。
というのも、聞こえてくる声はボソボソ声ではあるが決して陰気な感じではなく、「キタキタ〜」などと楽しそうに盛り上がっているのだ。

まあ、盛り上がってるなら行かないほうがいいか。
童心に戻ってこっくりさんしてんだろうし……

そんなふうに考えて、戻って寝たそうだ。


翌朝。

普段はGさんを起こしにやってくるような彼女ではないのだが、少し焦った様子で寝室に駆け込んできた。

「ちょっとちょっと」

体を揺さぶられて起こされる。
時計を見ると、朝の6時だ。

「……どうしたの?」
「ちょっと来てきて」

彼女に腕を引っ張られ、リビング行ってみるとその場にいる全員が青ざめている。

「ねえ、これ何?」

彼女がそう言いながら机の上を指差す。
そこに置かれていたのは、適当に書かれたこっくりさんの用紙だった。

「これ、何?」
「何って、こっくりさんの紙だろ?」
「紙だろじゃないよ。どういう悪戯?」
「え、お前ら覚えてないの?昨日たまたま夜中にトイレに起きたら、お前らがしている声が聞こえたよ?そりゃドア越しだからなんとも言えないけど、確かにみんなの声だったと思うけどね。「動く〜」とか、「意味が通ってる」とか「面白い」とか言ってたよ」

そう答えると、彼女たちはさらに青ざめる。
全員、記憶が飛んでいるというのだ。
彼女たちはそんなにお酒を飲んではいない。
そして、酒に弱いわけでもない。
それが揃いも揃って、記憶がないというのだ。
彼女たちはすっかり悄然としてしまい、黙り込んでしまった。

Gさんは、「ちょっと洗面所行くわ」と言ってリビングを出た。
洗面所で顔を洗いながら考える。

自分だけでもいつも通りにしよう。
怖がってても仕方がない。

そう思い、リビングに戻りかけたところで声が聞こえてきた。
泊まりに来た彼女の友人の一人の声だった。

「あ、今日、マツナガさんの命日じゃん」

マツナガさんの命日?

首を捻りつつリビングに戻ると、全員が“そうかそうか“と納得している。

「ああ、マツナガさん、今日か」
「そっか、マツナガさん、そうだよなぁ……」

怖がるでも怯えるでもなく、皆が悲しそうに納得している。
それがなんとなく怖くて、Gさんは何も聞けずに仕事に行ってしまい、それ以降も彼女にその件については聞けていないのだという。

マツナガさんに、何があったのだろうか……Gさんはいまだに時折そのことを考えてしまうそうだ。

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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「ザ・禍話 第25夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

ザ・禍話 第25夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/640255119
(27:30〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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