どっちがいい?【禍話リライト】
平成のころ、九州での話。
田中君が通う中学校で、ある時期、こっくりさんが流行っていたという。
もっとも田中君はこっくりさんに参加したことはなく、主にクラスの女子たちが中心になってやっていたのだそうだ。
彼女たちはワイワイきゃあきゃあと、健全な、と言ってはおかしいかもしれないが、こっくりさんの「お告げ」を真に受けて悪い方向に進むわけでもなく、楽し気にこっくりさんをやっていた。
先生も、まあ無害なもんだ、と寛容に見守っていたという。
実際、他愛のない、子供のころの通過儀礼のようなものだと思っていたのかもしれない。
田中君自身も、こっくりさんにいそしむクラスメイト達を馬鹿にするでもなく、まあ自分は興味ないからしないけど、楽しいのかもなあくらいの距離感で接していたらしい。
当時水泳部に所属していた田中君は、普段、授業が終わったら水泳部で練習をして、そのまま帰るというルーティンだったので、直接目にすることがなかったから、ということもある。
ところが。
ある日田中君は、部活後に帰ろうとしたところで、教室にものを忘れたことに気づいた。
「みんな先に帰っていいよ。俺、忘れ物したから」
いつも一緒に帰る友達にそう告げて教室に戻ると、明かりもついていない真っ暗な教室から話し声が聞こえてくる。
女子たちがこっくりさんをやっていたのだ。
「何やってんの?明かり、つければいいじゃん」
そう言いながら教室に入ると、女子の一人が「いやぁ、でも」と答える。
ごく普通のトーンだった。
いつもは帰ってたから知らなかったけど、こんな真っ暗ななかでやってるのか……と思いながら自分の机に向かい、忘れ物を取る。
女子たちは、「どっちかな、どっちかな?」とわくわくしたような感じでワイワイ話し合っている。
ん?こっくりさんに二択迫られてるのかな?
田中君は少し興味がわいて、女子たちのところに近づいた。
「何?どうしたの?」
すると女子の一人が、「悩んでたけど田中君の意見も聞いた方がいいんじゃない?」と言い出した。
女子に頼られるのは悪い気はしない。
「まあ、俺でよければ」
と少し気取って答え、「何?」と聞いたところ、女子が妙なことを聞いてきたというのだ。
何を聞いたらこっくりさんにそんなことを言われたのかわからないが、こんなことを言っていたのだという。
「血まみれか血だらけか、どっちがいいかっていうんだよね」
「え、何?」
「だから、~~についてこっくりさんに聞いたんだけど、お前たちは血まみれがいいか血だらけがいいかって」
「~~」の部分が全く聞き取れないが、冗談で言っているとは思えないような様子だった。
「えー、どっちかなあ?どっちだと思う?」
彼女たちは、演技ができるタイプではない。
何より、そんなに異様なことを聞かれているにも関わらず、それほど嫌そうでもなかったのだ。
「血まみれかなあ、血だらけかなあ。ふつうどっちかな?」
真顔でそんなことを聞いてくるのだ。
「ん?いや、あの……どっちも良くないんじゃないかな?」
「ええ?!そうかな??でもさ、どっちか選ばなきゃいけないんだったら……」
そこで田中君も耐えられなくなる。
「ごめんね、何聞いたのかいまいちよくわからないんだけど……俺にはわからないんだけど、怒ってると思うんだよね」
「ええ?!そうかな??~~について聞いただけだよ」
「いや、その~~が聞き取れないんだけど……血まみれか血だらけかって、正直変わらないしさ……これやばいって気持ちはないの?」
「え、なんで?」
目を真ん丸にして彼女は答える。
ほかの子たちも、心底「何を言っているのかわからない」という表情をしていた。
……これやばいな。
先生呼ぼうかな?
ひょっとすると集団心理みたいなのでおかしくなっているのかもしれない。
これ、血まみれがいいっていったらどうなるの……?
とにかく職員室に行って先生を呼んでこよう。
田中君は適当な理由をつけて、教室を出て職員室に向かう。
教室は三階にあったので、まずは階段を目指す。
歩きながらも、頭のなかでは先ほどの彼女たちのことをぐるぐると考えていた。
やばいだろ??
血まみれか血だらけかって、おんなじじゃん!!
真っ暗な廊下を進み、階段を降りるために角を曲がったところで、女の人とぶつかりそうになった。
「あ、すいません」
思わず謝ってその女性を見る。
大人の女性だ。
先生かな、と最初は思ったが、どうやら違う。
暗いからよくわからないが、知らない人であることは間違いなかった。
その女性は、何も言わずジーっと田中君を見ている。
見下ろされている感じがしたそうだ。
この人、目は俺をじっと見てるけど、口元は笑ってるな。
妙に冷静にそんなことを思ったその瞬間、女性が口を開いた。
「まあ、選べるだけいいんじゃない?」
そこで田中君の記憶は途切れた。
次に気が付いたときには、職員室奥の休憩スペースみたいなところで田中君は寝かされていた。
「大丈夫か?!おい!!」
先生方に介抱されていたのだ。
「大丈夫か?!練習しすぎか?」
「……や、違います」
そう答えたところで、一連の出来事をパーッと思いだした。
「あ、やばい!血だらけ!」
思わずそう言うと、先生方が訝しげな表情を見せる。
「血だらけ?何が?」
「えーっとですね……」
頭のなかを整理して話し始める。
「うちのクラスの女子連中が教室でこっくりさんをしていて、やばいことばかり言ってます」
「え、そうなのか?」
「ところで、俺はどこに?」
「階段上がったところで倒れてたから連れてきたんだけど……静かだったけどな、教室」
「でも、あいつら血まみれだとか血だらけだとか、訳の分からないこと言ってたんですよ」
「……それは良くないな」
「俺は大丈夫だから見に行ってきてください」
田中君のその言葉に、先生が教室に見に行ったところ、クラスメイト達は確かに教室に残っていたそうだ。
ただ、ずいぶん妙な様子だったという。
後で聞いたところによると、彼女たちは10円玉に指を乗せて、全員うなだれていたのだ。
「何やってるんだ!!」
そう言いながら先生が明かりをつけて問いかけるが。
「そうなんだ」
「そうか」
彼女たちは、それしか言わなかったという。
「とりあえず職員室に来なさい」
そう言うと彼女たちはおとなしくしたがったが、どうも沈んでいるというか、元気がなかったそうだ。
「そうか」
「そうなんだ」
結局彼女たちの親が呼ばれ、彼女たちは親に連れられ帰らされたという。
彼女たちは、田中君のことも、こっくりさんに何の選択を迫られたのかも覚えていなかった。
結局、集団ヒステリーだろうということで処理され、こんなことが起こるならもう看過できないということで、こっくりさんは禁止されることになった。
翌週の全校朝会で、こっくりさんの禁止が発表された。
こっくりさんのような降霊遊びは良くないからやめましょう、と生徒指導の教師が言っているときに、田中君が、あいつらどんな表情をしてこの話を聞いているんだろうと気になって見回した際に、気づいた。
こっくりさんのメンバーが、一人、いなかったのだ。
「……で、どうなりました?」
急に田中君が黙ってしまったので、私は彼に問いかけた。
すると彼は首を横に振って、こういった。
「すいません。やっぱりここから先は詳しくは言えません」
決然とした口調だった。
とはいえさすがにここで話を切られては尻切れトンボである。
私は食い下がった。
最終的に、田中君はあきらめたように、一つだけ教えてくれた。
「そいつ、朝会の後に、血だらけになって教室に入ってきたんです」
彼女がなぜ血だらけだったのか。
その後どうなったのか。
繰り返し尋ねたが、田中君はもうそれ以上のことは教えてくれなかった。
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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「禍話X 第12夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。
禍話X 第12夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/660826868
(18:32頃〜)
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