向こうのパパ【禍話リライト】

2021年の話だ。
30代の社会人Hさんは、大学卒業と同時に結婚したパートナーと、一軒家で暮らしていた。
郊外ということもあるがなかなか家は広く、寝室は夫婦別々だった。

その日もひとり、Hさんが寝室で寝ていた時のこと。
Hさんの寝室は、レイアウト的に足元側に作業机があるのだが、そちらの方から声が聞こえてきて、目が覚めた。
寝ぼけた頭で耳を澄ますと、何やら複数人の人間がザワザワしているような声が聞こえてくる。
みると、男か女かわからない、幼稚園児くらいの子供たちがこっくりさんのようなことをやっているようだった。

ちなみにHさん夫妻には、まだ子供がいない。
家にはハムスターを飼っているだけだ。

だから足元にいる子供たちは、自分の見知らぬ子たちであった。
子供たちは机を取り囲むようにして、「すごいすごい」などと言っている。

この子ら、誰?

体を起こそうとしたが、半金縛り状態で酷く動きにくい。
痺れているような感覚があるのだ。

これ、何?

真っ暗な部屋の中、作業机を囲むように子供たちが降霊遊びをやっているのだ。

「すご〜い」

机の上には紙が広げられていて、それがメッセージを伝えているような雰囲気である。

なすすべなくHさんがその光景を眺めていると、そのうちの一人がこんなことを言い始めた。

「パパ〜、これどういう意味だろう?」

そう言いながら、くるりと自分の方を見た。
やはりどう見ても見覚えのない子供だった。

え?

そもそもHさんには子供がいないのだから、そんなことを言われても戸惑うだけだ。
動けないままでいると、もう一人子供が振り向いて、こんなことを言ってきた。

「これ難しい言葉だからさぁ、大人の言葉だから、教えて〜」

え、何なに??
この子ら、俺の将来の子供??
んなわけないよな?!
そもそも、俺、パパじゃないし……

何と答えたら良いかわからず、Hさんが硬直したまま脂汗を垂らしていると、その二人の子供が急に怒り始めた。

「おめえじゃねえよ!!」
「おめえの後ろのパパに言ってんだよ!!」

はあ?!
後ろ壁なんですけど!!

Hさんからすれば、訳のわからない経験をしている上に、幼児にキレられるのも生まれて初めてだった。

するとその子供たちが、「あー、しょうがないなあ!」というが早いか、他の子達がまだこっくりさんをやっているのであろうその紙を強引にひったくって、Hさんの方に向かって、“どっどっどっど“と足音を立てて近づいてきたところで、Hさんは気を失った。

どうやらそのままの体勢で寝てしまっていたようで、気づけば少し起き上がりかけただけの不自然な姿勢でHさんは固まっていた。
時計を見ると、朝5時である。
あまりに不自然な体勢を長時間続けていたため、肩がバキバキに凝っていた。

えー、何??

怖かったので起き上がったHさんは、家中の明かりをつけて、顔を洗って、リビングで塗る湿布を塗布していた。
するとそこに、奥さんが「どうしたの?」と言いながら起きてきた。
物音で起こしてしまったようだった。
Hさんは物音を立てたことを謝りつつ、奥さんに状況を説明する。

「いやぁ、疲れてるのか訳わからん感じになってさ。子供が出てきてこっくりさんっぽいことをして、で言葉が難しいとか何とか言って俺に聞いてきて……」

そこまで言ったところで、奥さんが「ええー!!」と叫んで目を見開いた。

予想以上の大きなリアクションに、話したHさんも戸惑う。
お化けの話が苦手だとしても、ずいぶんリアクションが大きすぎないか?!
そう思っていると、奥さんがこんなことを聞いてきた。

「え、どこで?」
「どこって……寝室の足元の机のところで」

それを聞いた奥さんは、少し考え込むようにして、こんなことを話し始めた。

昔、まだ奥さんが子供時代に、こっくりさんをしたことがあるのだという。
人気者の子の家に集まってやるということで、知らない子も含めて結構な人数が集まっていたそうだ。
しばらくはわいわいと楽しげにこっくりさんをしていたのだが、急にこっくりさんが何か難しい言葉を使ってきたらしい。
皆で、どういう意味かな、と首を捻っていると。

「これ、聞いてみるわ」

言うが早いか、紙をひったくるように取って、二人の子供が部屋から出ていった。

「誰に聞いてくるんだろうね?」
「大人、家にいたっけ?」

しばらくはそんな話をしていたのだが。

そのまま二人は帰ってこなかったそうだ。

「……ずいぶん遅いなあ」
「っていうか、そもそもあの子たち、誰?」
「知らない」
「俺も……」
「私も……」

その場にいた、誰も知らない二人組だったのだ。

それ以来、奥さんはこっくりさんをすることがあまりにも怖くなりすぎてしまったそうだ。
少なくとも、間違いなく記憶違いではないと奥さんは言う。
その場にいた他の子達もこの出来事を覚えていて、その頃の友人たちが集まると、しばしばこの話になるからだ。

「で……そういうすごく怖いことがあったから、そういう関係のことからは縁を切っていたんだよね……」

急な話に、戸惑ったのはHさんである。
思わず奥さんにこんなことを聞いてしまった。

「念の為に聞くけど、マジで言ってるの?」
「マジで言ってる」

真剣に奥さんがそう言って頷くので、ゾッとしたHさんは、怖さを紛らわすため、その日は休日であることをいいことに、二人で朝からビールを開けたのだそうだ。

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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「禍話X 第16夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

禍話X 第16夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/665805270
(13:20頃〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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