アニソンではない【禍話リライト】

あるとき、SNSのDMに、こんな話が届いた。

「そんな大した話じゃないので採用されないと思いますが、不思議なことがあったので。昨日、彼女と九州の某有名観光地の近くに泊まったんですが、隣がうるさかったんです。夜中にアニソンか何かをアカペラで大合唱しているみたいな感じだねって言ってたんですが、朝確認してみたら、僕らの部屋は角部屋で、夜中にアニソンみたいなのが聞こえてきた側には部屋なんてなかったんですよ。ありがちな話ですけど、僕としては不思議だったので、送ってみました」

確かに、言われた通りありがちな話ではある。
しかし私も、ホテルで泊まっているときに隣から声が聞こえてきて、翌日確認したら部屋がないとか、不自然な布団部屋になっているとか、そういう経験をしたことがあるので、体験者当人の当惑については大いに思い当たるところがあった。

このDMを受け取った日に、ちょうど昔からの知り合いと飲む予定があったので、飲みながらその友人にこの話をしてみた。
まあよくある話だよな、でもアニソンを大合唱しているなんていうのはオタクの霊というかちょっと面白いな……そんなふうに話していると、その友人の表情がどんどん真剣になっていく。

「何?どうしたの?」
「その場所って○○じゃないか?」

友人がそう尋ねてくる。
実はDMには地名が書かれていて、それは友人が口にした地名とドンピシャだった。

「え?何で知ってるの?」

私が驚いて尋ねると、友人は真剣な顔をしてこんなことを言い出す。

「それ、やめた方がいいよ。その話はあまりしないほうがいいかもしれない」
「なんで?アニソン霊が来るってこと?」

冗談めかして尋ねてみたのだが、どうも冗談ではないようで、真面目な顔をして友人は話し続ける。

「それはアニソンじゃないんだよ」
「……アニソンじゃない?」
「それはアニソンを知らない人が、アニソンかなって思ったってことなんだよ、多分な」
「なるほどね。じゃあ何を聞き間違えているの?」
「うーん……お前この話、他の人にもするだろ?」
「するね」
「じゃあぼかして言うからな。あのさ、特定のやばい宗教とかカルトとかが行きすぎちゃうとそうなるんだけど、そのカルトで歌われてる歌の歌詞が厨二病っぽくなるってことがあってな」
「ああ……」
「○○にな、学校の行事で泊ったことがあるんだ。高2の時だな」
「同じホテルなのかな?」
「そこまではわからんが……外がうるさいな、何か騒いでるのかなって、アニソンに興味のない同級生が言い出したんだよ。『アニソンを歌ってるよ、男の人たちが』って。だけど俺らには聞こえなくてさ。『へえ、そう』って感じで。こいつは窓際だから聞こえてんのかな、結構遅い時間だけど歌ってんのかって思ってたんだよ。もう2時くらいになってたからな。で、外を見たけど誰もいないんだわ。誰もいないけどな……と思ってたら、その友達がしばらくしたら『アニソンじゃないよ、これ』って言い出してな。よくわからないけど、アニソンじゃないって。そこまで言われるとさすがに気になるから、場所代わってくれっていって、代わってもらったんだ。そうしたら聞こえるんだよ。はっきりとは聞こえないけど、魂をどうするとか、自らを犠牲にして何かを浄化していくよ、みたいな歌詞がさ。やばいって思ったね。『これ、アニソンじゃないよ。やばいよこれ』ってなって、みんなを起こして確認してもらって、引率の先生に言いに行ったんだ。やばいって。先生もその歌を聞いて、外にカルト集団がいるって言って見回りに行ったんだよ。でも、どんだけ探しても、誰もいなかった。俺らは中に残ってたんだけど、歌声は聞こえてくるんだ。先生たちが探し回っているあたりからな。でも先生らはいないっていうし、中にいると声だけが聞こえるしで、もうどうしようもなくなって。怖いから、とりあえず窓から離れて寝ることになったんだ。で、翌日だよ。ホテルの人に聞いたら、こんなことを言うんだ。

『そうなんですか?実は、ウチじゃないんですけどこの近所で、サークルとか団体に部屋を貸していたところがあって、それこそ例の宗教テロ事件が起こる前に、オカルト雑誌で前世がどうとか、魂がどうとかで集まる人たちが使っていたらしいんですよ。ただ、たしか何かあって、その施設内で亡くなったわけじゃないんですけど、泊った翌日に別の場所でその人らが集団で亡くなることがあって、警察が入って施設も経営難ってことでなくなったんですけど。その施設があったのが、さっき声がしてたって仰ってたあたりなんですけどね』

ってさ。だからさ、外とか変なところでアニソン合唱してるなと思ったら、そこで済ませておくのがいいよ。気にしたり、この歌詞おかしくないかと思うと、だいぶそいつらと距離が近づいちゃうかもしれないからさ。もし次そういう話が来たら、”アニソン歌ってるなぁ、へえ”くらいで、違うことに興味を移したほうがいいってアドバイスしてあげなよ」

そう言って友人は、軽く肩をすくめた。

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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「忌魅恐NEO 第1夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

忌魅恐NEO 第1夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/625554757
(16:11頃〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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