ねこあらい【禍話リライト】

30代の女性であるAさんは、先日、妙な夢を見た。
夢の中で子供になっていたAさんは、小学校5、6年生の頃の同級生たちと全然知らない田舎の家の縁側に座っている。
どうやら、夏の夕方というシチュエーションのようだった。
Bくんという男の子が、その家の人らしい老夫婦を「おじいちゃん」「おばあちゃん」と呼んでいたので、Bくんの親戚の家なんだな……と思っていたそうだ。

さて、夢の中でAさんたちがスイカを食べているうちに、日がだんだんと落ちてきて、あたりが薄闇に包まれていった。
と、その時のことだった。
その家のおじいさんとおばあさんが、人数分の「たらい」を持ってきて、Aさんたちに配りはじめた。
大きな金盥で、ドリフターズのコントに出てくるようなものだったという。
配られた「たらい」の中には、濁った水がいっぱいに入っていて、中は見えない。
なんだろうと思っていると、周りの子が洗濯でもしているかのように中の水をジャバジャバと掻き回し始めたので、Aさんは、自分も合わせなきゃいけないのか、と思いながら、一緒になってジャバジャバと水を掻き回し始めた。
周りの様子を伺いながら洗濯の真似事を続けているうちに、途中で気づいた。

Bくんだけが、何かを実際にジャバジャバと洗っているのだ。

何を洗っているのだろうと注意をBくんに向けていると、彼は水の中からそれを取り出した。

猫、だった。
生きている猫のように見えた。

Bくんはその猫を、まるで雑巾のように力一杯絞りはじめた。
そんなことをしたら、猫が死んでしまうというほどの勢いだった。
しかし予想に反して、猫はそれだけ絞られても、どこ吹く風といった様子で平気な顔をしている。
しかしその猫の顔と足の動きに対して、体は何周にも捻られているのだ。
Bくんも、いかにも力一杯といった様子で気合の入った声を漏らしていた。

え、なんだ??

戸惑っていると、奥からその家のおじいさん、おばあさんが、両手に大量の猫を抱えてやってきた。
普通であればそんな抱えられ方をしたら猫は大暴れしそうなものだが、こちらもおとなしく抱えられたままでいる。
にゃあにゃあ鳴いてはいるが、嫌がっている様子ではなかった。

ひょっとして、あれ、絞らなきゃいけないのかな……?
やだな……

子どもたちひとりひとりに、おじいさんとおばあさんが猫を配り始めて、そこでAさんは目が覚めたそうだ。

Aさんは猫がものすごく好きなわけではないが、それでも不快な気持ちで朝を迎えることになった。

嫌な夢を見たなぁ……そんなストレスも溜まってないはずなのに。
ひょっとして同窓会が今週末だから、同級生の夢を見たのかな?

そんなふうに思いつつ、週末、同窓会に向かった。
気になっていたので夢の中で見た同級生の面々をひとりひとり確認してみると、夢の中で猫を絞っていたBくんだけがいない。

「あれ?Bくんいないね?」

Aさんが何気なくそう言うと、同級生の一人が少し顔を顰めてこう言った。

「ああ、Aさん知らないの?」
「何を?」
「実はさ、あいつ去年の年末に仕事で大失敗して、もう会社に行けないって言って引きこもっちゃって……今は連絡取らないほうがいいってことになって」

どんな仕事上のミスだったのか、Aさんは尋ねてみたが、その同級生は「それは、まあ」と言葉を濁す。
ひょっとすると人命に関係するミスなのかもしれないと、Aさんは思った。
それでも気になるので、Aさんは事情を知っていそうなその同級生に重ねて尋ねる。

「それでBくんは、実家に引きこもってるの?」
「いや、親元は出てて、近所ではあるけど一人暮らししてるんだよ」
「そうなんだ。でも仕事しないで一人で暮らしてて、色々大丈夫なのかな……」
「それだよ」

同級生はそう言って、少し声のトーンを落とした。

「俺さ、仲良かったし、就職してからも何回か飲んでたからさ、流石に様子を見ない訳にはいかないと思って、こないだあいつのアパートに行ったんだけどさ」

仕事終わり、夕闇の濃くなってくる時間帯のことだったという。
Bくんの住むアパートは、記憶よりもボロボロになっているような気がして、敷地に入るのも躊躇われるくらいだった。
Bくんの部屋の明かりはついていたが、周りの部屋の住人はまだ帰ってきていないのか、真っ暗である。

「それであいつの部屋のドアの前まで行ったんだけど……ノックもできなかったんだ」
「なんで?」
「あいつさ、勝手に猫を飼ってるみたいでさ」

部屋の中から、何十匹もの猫が鳴く声が、一斉に聞こえてきたのだそうだ。

「それでゾワっと鳥肌たっちゃって、逃げ帰ってきたんだよ」

それから一年近くが経つが、相変わらずBくんは引きこもっているようだ。
Aさんはそれ以来、猫を絞る夢は見ていないが、なんとなくあの時見た夢の内容と現実のシチュエーションに呼応する部分があるような気がして、時折ひどく不安になることがあるのだという。

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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「禍話X 第14夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

禍話X 第14夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/663274953
(9:06頃〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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