忠告者【禍話リライト】

四国の話。
当時女子大生だったNさんは、実家から大学に通っていたこともあり地元との結びつきが強く、高校時代の友人たちと集まって遊ぶことが多かった。
その日も、いつも集まっている仲間たちと大きめのバンに乗り合わせて、肝試しに向かったのだという。
そこは不良がホームレスをリンチして殺したという噂が囁かれている山の中の廃墟だった。
とはいえ所詮は噂にすぎず、Nさん自身も実際に何かがあるなどとは思っていなかったのだが。

その山中に入ってから、どうも妙だったとNさんは振り返る。
Nさんは、いわゆる「霊感」などないと自認している。
この世ならざるものを見たこともなければ、そうした妖の気配を感じることもない。
にもかかわらず、何か嫌な気配をずっと感じ続けていたというのだ。
嫌だなあ……と思いつつ、車は廃墟に到着する。
ゾロゾロと車を降りる皆に続いて、外に出た時だった。

異様な臭いが鼻腔を突いた。
鉄錆のような臭いだった。

「ねえ、なんかさ、血みたいな臭いしない?」
「?いや、全然」

周りの皆は、本当に何も感じないようで、Nさんのその言葉に首を捻るばかりだった。
だが、Nさんからすると、鉄錆の臭いはあまりに濃厚で、勘違いでは到底済まされないほどである。
あまりの臭気に、えずいてしまったくらいだ。
しかし周りの皆は本当に何も感じないようで、うずくまるNさんに馬鹿にするような言葉を浴びせてくる。

「なんだぁ?盛り上げようと思ってそんなことしてんのか?」
「臆病だなぁ」

「……私、怖いから車に残るね」

Nさんはそう言うと、助手席に座って仲間たちの帰りを待つことにした。
仲間たちも、早く廃墟に向かいたいようで、Nさんをその場においてさっさと廃墟に入って行ってしまった。
結果的に、暗闇の車中に、一人Nさんが残された。
臭いは遮断されたようで車内には一切漂っていないことに安堵したNさんは、やることもないので携帯をいじって皆の帰りを待っていたそうだ。

しかし、である。

廃墟はそこそこに大きいようで、探索には時間がかかりそうなことはわかるのだが、実際のところ肝試しに何分かかるかなどは待っているNさんには一切わからない。

どれくらいかかるのかなあ……と思いながら待っているうちに、15分ほど経った。
元々電波状況も良くないので、携帯をいじることにも疲れたNさんがふと意識を廃墟の方に向けると、何やら騒がしい。
ドアを開けて様子を伺ってみると、肝試しをしている仲間たちが絶叫して廃墟の中を走り回っているような、何かからてんでバラバラに逃げ回っているような音が聞こえてくる。
物を倒したり、ガラスの割れるような音も混じっていた。
最初は、誰かが趣味の悪い悪戯でも仕掛けたのかと思った。
しかし、それにしては長い。
絶叫も、逃げ回る音も、仲間が悪戯を仕掛けたにしては、持続しすぎているのだ。
全身が総毛立つような悪寒に襲われたNさんは、思わずドアを閉めて頭を抱えた。
取り止めもない思考が脳裏を駆け巡る。

どうしよう?!
警察でも呼ぼうかな??
あれはふざけてないよね?
ドッキリって感じじゃないよね?

その間も、ドアを隔ててではあるが、廃墟内から激しい物音は聞こえ続けている。

これは冗談じゃないよね!?
どうしようかな?
警察かな、どうしようかな??

廃墟からはギャーギャー叫び声が聞こえ続けている。

こんな長いのおかしいよね?!
どうしようかな、近くまで様子を見に行こうかな……

意を決して、Nさんがドアに手をかけたその瞬間。

自分一人だけしかいないはずの車内で、後ろから誰かに肩をポンと叩かれた。

思わず振り向くと、真っ暗な車中の後部座席から身を乗り出すようにして、同世代くらいの見たことのない女の子がNさんの肩に手をやり、顔をじっと見つめていた。

目が合う。

女の子は口を開いた。

「いいからいいから。あなたが行ったらややこしくなるから」

その女の子は、夏場なのにスキーウエアのようなものを着ていて、手には分厚い手袋をしていたという。

Nさんの意識は、スウっと遠のいた。

次に気づいたとき、車は猛烈なスピードで山を下っていた。
驚いて周りを見回すと、行った時と比べて半分くらいしか人がいない。

「……他の子は?」

後ろの席に座っているリーダー格の仲間に尋ねる。
彼は憔悴し切った表情で一言だけポツリと言葉を漏らした。

「先輩を呼ぶから」

結局詳しい説明を受けることなく、山を降りるとNさんはすぐに帰らされた。
車中は重苦しい沈黙が支配していて、何があったのかを誰もNさんには教えてくれなかったという。

それ以降、Nさんはその仲間たちとの付き合いを絶った。
いや、絶たれた、と言う方が正確かもしれない。
Nさん自身も彼らのことを思い出すと、一緒にあの恐怖体験も思い出してしまうので、自分から彼らに連絡を取ることはなかったが、彼らの方からもNさんに連絡が来ることは一切なかった。
Nさんとしてもこれを機に付き合う友人関係を大学の方にシフトしていったため、地元の友人たちとのつながりは希薄になってしまった。
だからNさんは、いまだに廃墟で何があったのかを知らないのだそうだ。

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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「禍話X 第11夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

禍話X 第11夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/659636896
(38:31頃〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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