(甘味さん譚)大黒柱【禍話リライト】

津々浦々の廃墟に出掛けて行ってはそこで寝泊まりすることを趣味にする、甘味さんから伺った話だ。

とある廃墟に向かう途中にあった廃集落に、甘味さんは立ち寄ることにした。
集落自体が打ち捨てられてからだいぶ時間が経っているようで、ぶらぶらと集落内を見てまわっていたところ、大きな家の前に出た。
どうやらそこが、集落の中で一番大きな家のようだった。
建物はボロボロになっていて、そこかしこに穴も空いている。
玄関からでなくても、どこからでも入れるような状況だった。

これ、多分庄屋さんとか有力者の家だったんだろうな。
どういう感じか、見てみよう。

そう思って、甘味さんは敷地内に足を踏み入れた。
もとより、そこの家に泊ろうとは思っていない。
だから、特にあてどなく周囲を見回った後、玄関から建物に入ってみた。

すると。

玄関を入ったところ、靴箱の上のところに、紐で留めた帳面が置かれていた。
おそらくは昭和の頃のものだろう帳面で、パッとみたところ旅館の宿帳のように思えた。

ここは旅館じゃないだろうし、なんだろう?

そう思って、帳面を手に取る。
表紙を捲ると、そこには大きな文字でこう書かれていた。

「この家の大黒柱に傷をつけないように気をつけること」

正確な文面は覚えていないが、そういう趣旨のことが書かれていたという。
達筆な文字で、大黒柱に礼儀を尽くせという趣旨のことが、古めかしい表現で書かれている。
うち捨てられているこの家も、建てられたのは昭和の時期だろう。
帳面だって、100年も昔のものではない。
にもかかわらず、その文章の古めかしさに、違和感を覚える。

昭和のものとは思えないな、これ。
気持ち悪い……

そう思いつつも、書かれている内容に若干の好奇心も抱いた。

大黒柱ってどこだろうな?

もっとも、先ほども述べたように、家の風化度合いは著しいので、どこにその大黒柱があるとは、はっきりとわからない。
どこにあるのかと思いつつ、屋内をぐるっと見回っていると、とある部屋の前で足が止まった。

そこの部屋だけは、襖が閉まっていて、開けないと中が見えなかった。
他は全部襖なり扉なりが開きっぱなしになっていたので、労せず中を見ることもできたし、入ろうと思えば部屋の中に簡単に入れたのだ。
もっともそれは、安全性という観点からすれば考えもので、いつ野生動物などが忍び込んでこないとも限らない、ということも意味している。
だから、ここまでみたところこの家には泊まれないと思っていたのだが。

……泊ろうと思えば、ここに泊まれるかな。

そんなふうに思いつつ、無理矢理ガッと襖を開けると、部屋の真ん中に大きな柱がブチ抜きで鎮座していた。

……何だこれ?

近づいていくと、柱が畳を貫通している。

これじゃないの?大黒柱って。

そう思いつつ上を見ると、柱は天井板をぶち抜いてその上にまで伸びているようだ。
果たしてそこから先がどうなっているのかはわからないが、屋根の辺りまで伸びているんじゃないかというような雰囲気だったという。

……何これ。
御神木みたいなものの周りに家でも立てたのかな?

そんなことを考えてみるが、そうだとしても神木の周りに部屋を作った意味がわからない。
もし神木を残したまま設計するなら、そこは中庭にでもすればいいのだ。
実際、敷地は十分にある。
何なんだろう、これは……と思いつつ、柱の下の穴の縁を懐中電灯で照らしてみると、硬貨がたくさん落ちているのが見えた。
お賽銭のようなものだろうか。

うわー、気持ち悪いなぁ。
帰ろうかな。

その瞬間だ。

玄関から、何の音も声もしていなかったのに、一気にふわっと人がたくさんいる気配が伝わってきた。
玄関に何十人もの人がひしめいているようなイメージが脳裏に浮かぶ。
例えて言えば、ニュースで見るコミケ会場のような感じだった。
むろん、何の声もしないし、音もしない。
しかし、感覚的にわかったのだそうだ。

人がいっぱいいる……!

それと同時に甘味さんは、その人びとの群れが、自分が部屋を出ていくのを待っている感じがした。

うわ!!

甘味さんは慌ててその部屋を出ると襖を閉めて、玄関には行けないので、裏側から崩れた壁の隙間を通って外に出た。
そしてそのまましばらく走って、十分に距離をとってから振り向いてみたところ、人の姿こそ見えないものの、順番に1人ずつ、大黒柱の周辺を巡っているような、そんなイメージが脳内に流れ込んできたそうだ。

ああ、順番待ちしてるんだ……

勘違いだとか、そんなものでは断じてないと甘味さんは言う。
もし廃集落に一軒一軒人がいるとしたら、おそらくはその全員が集まっているのだろうと彼女は直観したという。

「もう生きている人はいない集落なんだろうけど、住人は『まだいる』んですよね。時々その家に集まっては大黒柱の部屋まで行って、挨拶か何か知らないけど、村のルールで決まっている何かをやっているに違いないですよ」

甘味さんはそう言っていた。
その後彼女はメインの目的地について、そこは楽しい廃墟だったので予定通り一泊すると、帰り道はそこを通りたくないので迂回して獣道を進んだのだという。
そして、すっかり道に迷ってしまい、危うく遭難するところだったそうだ。

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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「ザ・禍話 第27夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

ザ・禍話 第27夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/642853862
(14:29〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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