うしろの予言者【禍話リライト】
公園のトイレの話である。
そこは、かなり大きな公園で、立派なトイレが設置されている。
男子トイレには個室が二つ並んでいて、それぞれ和式と洋式になっていた。
その正面には、小便器が3個くらい並んでいる。
Aくんはその時、和式便器のある個室に入っていたという。
彼が用を足していると、トイレの中に子どもが入ってきた音がした。
なぜ子どもだとわかったかと言えば、中に入ってくるなり彼が大きな声を出したからだそうだ。
「そこにいてよぉ〜」
外に向かって呼びかけるような、男の子の声が聞こえる。
外にはお母さんがいるようで、女性の声が聞こえてくる。
「早く済ませなさいよ〜!私は入らないからね〜」
若いお母さんのようだ。
「うー、緊張する〜」
「早くしなさい、緊張しないでしょ?」
そんなやりとりを聞きつつ、Aくんはぼんやりと思う。
……まあ、普通は緊張しないよなぁ。
ところがその男の子は、こんなことを言うのだ。
「だって後ろに人がいるんだもん〜」
ああそうか。
Aくんは納得した。
この子、俺の個室の前の小便器で用を足してるんだな。
音は立ててないが、ドアを閉めてるから人がいるのは分かってるんだろうなぁ。
「緊張するよぉ」
「あんたのことなんて誰も見てないんだから〜!」
「えー……」
「手を洗ってきなさいよ」
男の子はさっさと用を足すと、手を洗って外に出ていった。
……まあ、それを俺のせいにされてもな。
そんなことを思いながらドアを開ける。
すると。
目の前に、人がいた。
こちらに背を向けて、小便器の方に体を向けている。
人が入ってくる気配は全くなかったので、Aくんはひどく驚いた。
目の前に立っている人物は、中肉中背、上下黒の服に身を包んだ男性だった。
不自然な服装ではなかったが、異様であったのは間違いない。
何せ、小便器と個室のあいだの通路に立っているのだ。
ただ、立っているだけだった。
……おかしい。
自分が出てきても、何のリアクションもないのだ。
男はぴくりとも動かない。
Aくんはとりあえず男の存在を無視して、体に触れないように気をつけながら手洗い場に向かう。
手洗い場で手を洗いつつ、Aくんは考えた。
さっきの子が言ってた、後ろの人ってこいつのことか?
それならお母さんに言えばよかったのに……後ろに知らない人がいるって。
にしても気持ち悪いなぁ。
その瞬間だ。
視界を黒い影がよぎった。
驚いてその影の方向に視線を向けると、自分の後ろに先ほどの男が立っているのが見える。
パーソナルスペースを無視して、体に触れんばかりに近い位置に立っている。
顔も見えた。
若い男だった。
おそらくは大学生くらいだろうか。
取り立てて特徴があるわけでもない、今時の若者風の男性だった。
ただ、自分の後ろに立って、体がこちらを向いているにも関わらず、顔は外の方向を向いている。
その視線の先を追うと、ブランコが見えた。
キャアキャアという歓声が聞こえる。
さっきの子どもとお母さんが遊んでいるようだ。
……あの親子の会話を聞いてるのかな?
そんなことを思っていると。
後ろの男がポツリと言った。
「ねぇ、ほんとねぇ」
楽しそうですね、と言わんばかりの穏やかな口調だった。
それにしても、あらためて思うが、近すぎる。
何だ、こいつ?
こわ、どうしよう……
男は、「楽しそうですねえ」と言った後、急にこちらを向いて、相変わらず穏やかな口調でこう言った。
「でも、二年後ですからね、二年後」
Aくんには、そこから先の記憶がない。
気がつくと、少し離れたところのベンチにAくんは座っていた。
「うわ?!なになになに??」
びっくりしたAくんは、そのまま這々の体で家に逃げ帰ったそうだ。
それからAくんは、周りに「超絶不思議体験」と称してこの話をした。
「白昼夢というかなんというかわからないんだけど、でも、疲れてたりしたわけじゃなかったしね……あのトイレ、なんかあんのかなぁ?」
そんなふうに話していると、友人の一人がこんなことを言い出した。
「お前、知らなかったのか」
「何が?」
「あのトイレ、新しいだろ?公園に比べて」
「ああ、外壁とか内側とか、確かに綺麗だね」
「うん。あのトイレ、全面的にリフォームしたんだ、一回」
「あ、そうなの?」
「ああ。ニュースで出ちゃったから」
「ニュース?」
「やっぱりお前知らなかったか。ニュースに出ると外観が映されたりするから、場所が特定されて悪戯の標的とかに……」
「いや、それはわかるけどさ。ニュースって何?」
「あのトイレの中で、ホームレスが死んでたんだよね。だいぶ前の話だけど」
「はあ?」
「それもさ。なまくらな刃物で死のうとして、あちこち傷つけてひどい死に方をしたんだよ。それでニュースになって、全面的にリフォームしたってわけ」
「そうなんだ……若かったの?その人」
「いや。死んだのは結構年のいったホームレスだったと思う。お前が見たのは若い男だろ?」
「そうだな……じゃあ違う人なんだな」
「うん。まあ、でも一度そういうことがあったから、変なのが寄り付きやすくなっているのかもしれないなぁ」
友人のその言葉であらためてゾッとしたので、Aくんはそのトイレに二度と行くことはなかったそうだ。
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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「ザ・禍話 第28夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。
ザ・禍話 第28夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/644100599
(14:09〜)
※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。
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