こっくさん【禍話リライト】
平成の頃のこと。
Wくんの通う中学校では、当時ブームだった学校の怪談の影響で、こっくりさんが流行ったのだという。
といっても、さして本格的なものではなく、こっくりさんが来る時には来るらしいよ……という程度の、ゆるいものではあったのだが。
Wくん自身はといえば、周りのそんな様子を半ば冷めた目で、ちょっと斜めに見ていたという。
最初は頭から馬鹿にしていたのだが、ブームが広がっていくと、彼が一目置くような真面目な女の子や賢い女の子たちも、こっくりさんの輪に加わっていく。
彼女たちが口を揃えて、こっくりさんもバカにしたものではない、などというので、やがてWくんも内心ではそうかなあ……と思わないこともなかったという。
そうはいっても、表向き、友達には、シニカルなキャラで通っていたので、信じてないよ、というポーズは崩さなかったそうだ。
そのうちに、隣の学区の学校で事件が起きた。
こっくりさん中におかしくなってしまった生徒がいたとかで、定規で相手の顔を傷つけてしまったのだ。
被害者は軽くほっぺたを切った程度で、傷跡が残るようなものでもなかった。
加害者側もパニック状態に陥っていて、自分のやったことを全く覚えていない、といっていたそうだ。
そうした事情もあり、Wくんの通う学校でも、こっくりさんは自己暗示になって、よくない結果に陥るからという理由で禁止されることになった。
その時に、こういう事件が隣の学区の学校でありました、と概要を聞いたのだ。
「でも自己暗示で気づかないうちに友達の顔を傷つけるなんてねえ」
「そんなことあるのかな?っていうか本当にお化けっているのかな?」
「本に載っている、いわゆる低級霊みたいなものがきたのかな?」
そんなことをこっくりさんをやっていた連中は、コソコソと話していたそうだ。
その週の土曜日のこと。
放課後。
クラスメイトたちが帰った後も、Wくんたちのグループは、教室で駄弁っていた。
そんな時に、何かの拍子で冗談めかして、友達の1人がこんなことを提案してきたのだという。
「なあ、俺たちもやってみるか?」
「何をさ?」
「こっくりさん」
「はぁ?!やめたほうがいいだろ。みんなやめてるのに、今更」
「だからやるんじゃん」
「でもダメだって。先生に見つかったら怒られるし」
「んー、じゃあ、こっくりさんがダメなら、“こっくさん“ならいいだろう?」
つまらない冗談だったが、思わず皆が吹き出してしまう。
「何だよ、“こっくさんこっくさんいらっしゃいましたら〜“とかやんのかよ?来ねえわ、そんなの」
「でもそれならいいんじゃない?馬鹿馬鹿しいし」
「じゃあ、こっくさんしよう、こっくさん」
そういうわけで、即席「こっくさん」が始まった。
紙に50音とはい、いいえと鳥居を書く。
ここまでは記憶を辿りつつ、見様見真似で簡単にできた。
「で、どうやるんだ?」
「確か十円をここに置いて」
皆で鳥居の上に置いた十円玉に指を乗せる。
「こっくさんこっくさん、いらっしゃいましたら〜」
……くるわけがない。
何回か繰り返すうちに、だんだん馬鹿馬鹿しくなってきたそうだ。
「これを真面目にやるのはおかしいな」
「だな」
「こっくさん、こっくさ〜ん」
そんなことを言ってはゲラゲラ笑う。
結局、そのくだらないお遊びでひとしきり盛り上がってから、“こっくさん“を終わりにして、じゃあ帰ろうか……という運びになった。
「外、完全に暗いよ」
「ほんとだ。野球部も灯り消してるな」
「外なんか誰も……あれ?」
友達の一人が声をあげる。
「女の子いるぞ」
「何?誰?」
ちょうど校門のあたりに街灯があって、その下に小さい女の子が立っている。
おそらくは、小学校低学年くらいだろうか。
彼女はこっちをじっと見ている感じがする。
「あれ?小さい子があんなところにいるな……」
Wくんの中学校は、田んぼの中にあるといっても過言ではないような立地で、わざわざ子供が来るような場所ではないだけでなく、そもそも通りがかるようなところでもない。
何だろう……と思って見ていると、背負っているカバンから、モゾモゾと何かを無造作に取り出した。
どうやら、画用紙のようだった。
真っ白なその表面が、街灯を少し反射しているようだ。
女の子は相変わらず顔をこっちに向けながら、手にした画用紙を、手元も見ずに鋏のようなもので切り始めた。
何だ?
考えるまもなく、すぐにわかった。
料理人、つまり、コックさんの帽子の形だった。
女の子は画用紙からそれを切り取り終えると、両手でそれを額につけて、昇降口に向かって走ってきた。
「ヤバいヤバい!!」
「なになに?!」
その勢いも雰囲気も、到底尋常なものではなかったので、Wくんたちは脱兎の如く教室を飛び出して、職員室に駆け込んだ。
「なんか、知らない小さい子が来てます!!」
職員室には担任がいた。
「何だそれ?本当か?」
「はい、知らない女の子がこっちに向かって走ってきました」
「ええ〜?」
面倒くさそうに担任は昇降口までついてきてくれたが、そこには数人の生徒が屯っているだけで、小さい女の子の姿などなかった。
「でも、絶対走ってきたよな……」
Wくんのグループの面々は、全員がその女の子を見たのだ。
しかし、その女の子が走ってきた先である、昇降口にいた連中は、誰もそんな女の子を見ていないと言っていたそうだ。
「何だかわからないですけど、やっぱりああいうのって、バカにしちゃいけないんですよね。もう少しで危ないところだったんじゃないか……そんな気がしています」
こっくりさんをふざけてやってはいけないですね、とWくんはつぶやいた。
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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「禍話X 第13夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。
禍話X 第13夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/662051000
(19:40頃〜)
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