足で来る【禍話リライト】
大学生のWくんはその日、男友達の家に遊びに行っていた。
夕方からゲームを楽しんでいたのだが、20時くらいになるとお腹も空いてくる。
「コンビニでも行く?」
家主の友達がそう提案してくるが、Wくんはコンビニ飯が好きではなかった。
「なんか作ってもいいけど、材料とかある?」
料理上手なWくんは友達にそう提案した。
「なんもねえけどな……」
家主がそう言いながら冷蔵庫を開けたので、Wくんも一緒に覗き込む。
「……まあ、チャーハンなら作れるけど、食べるか?」
「おお、お前チャーハンうまいって評判だもんな!」
「じゃあ作ってやるよ。俺のチャーハンうまいぞ?」
そういうわけで、なぜか家主が座ってくつろいでいて、遊びに来たWくんの方がチャーハンを作るという状況になった。
と、その時だ。
ピンポーン
インターホンが鳴った。
オートロックのマンションなので、エントランスに来た人物がコールしてきたのだろう。
配達にしても遅いな、とチャーハンを作りつつWくんが思っていると、家主が立ち上がり台所にあるインターホンの応答ボタンを押す。
「はーい」
「俺だけど。足立だけど」
インターホンから聞こえてきたのは、共通の友人である足立の声だった。
今日のゲーム会に足立も誘っていたことは誘っていたのだが。
「お、足立か。あれ?でもお前今日、別の友達とどっか行くって言ってなかった?」
足立は先約を理由に誘いを断っていたのだ。
「ああ。その用事、済んだんだ。で、近くに来たから寄ってみたんだけど」
「おお、そうか。じゃあ今自動ドア開けるから」
「おう。じゃあ、俺、足で行くから」
「おおわかった。足で来るのね」
そう言って家主はエントランスの解錠ボタンを押す。
「ちょっと待てよ」
Wくんは違和感を覚え、思わず家主に声をかける。
「何?今の。足立はいいけど、何?今の会話」
「は?」
「何?『俺、足で行くから』って。お前も『ああ、足で来るのね』って」
Wくんがそう指摘しても、家主である友達はキョトンとしている。
「いやいや、キョトンとされたら困るよ」
「……なにそれ?」
「いやいや、足で来るの当たり前じゃん。他に何で来るの?エレベーターで来るんだろうけど、歩くことは歩くでしょ」
「……そうだよな。え?俺、なんで普通に返しちゃったんだろ……気持ち悪い」
「なんでじゃねえよ。足立、気持ち悪いな」
「大丈夫なん?あいつ」
「そもそもあいつさ、友達と心霊スポット行くっつってたけど」
「そうだよな」
「20時に終わるか?肝試しがよ」
「……確かに」
「なあ、そいつ本当に足立だったか?」
「……声は足立だったけど……」
「そうだよなぁ。でも、足で来るってなんだ?エレベーター使わないってことか?」
結局考えてもそれ以上はわからないので、そのままただ、足立が来るのを待つことにした。
しかし、一向に足立は来ない。
エレベーターでなく階段を上ってくるにしても、時間が経ちすぎていた。
そのうち、チャーハンが出来上がる。
しかし、足立はまだ来ない。
テーブルにチャーハンを置いて、向かい合わせに座っても、足立が来ないのでなんとなく手をつける気にならない。
Wくんが家主に尋ねる。
「……エントランス、開けたよね?」
「開けた開けた」
「だとしたらまあそこで入ってきて……とっくに来てるはずだけどな」
「悪いけど、お前のぞき窓から見てくれない?」
「なんで俺なんだよ。家主お前だろ。……まあ、いいけどさ」
そう言って立ち上がって、ドアスコープからWくんが外を覗いてみると、人がいた。
ただ、その人物はドアのすぐ近くに立っていたため、Wくんは足立かどうかを判別することができなかった。
「おい、誰か立ってる」
部屋に戻って、外に声が漏れないよう小声で家主に告げる。
「誰か立ってるって、何?」
「誰だかわからないんだよ。俯いてるし、近すぎるし」
「足立?」
「いや、足立かどうかわからない」
「でもさ、どっちにしても、そいつなんで何もしないの?ノックとかインターホンとか、あるだろ」
「知らないけどさ……来いよ、お前が家主なんだから」
友達の手を取って立ち上がらせると、Wくんはドアまで連れて行く。
「ほら、見ろ」
促されて友達がドアスコープを覗く。
そしてすぐ目を離すと、引き攣った表情でWくんの方を見た。
「ほんとだ、どうしよう?」
「どうしよう、じゃないよ……おい、待て。なんか言ってるぞ?」
ドアの向こうから、その人物が何かをぼそぼそと話している声が聞こえてきた。
二人は黙って耳を澄ます。
「足で来たから
足で来たから
足で来たから」
それだけを、ドアの向こうの人物は延々と繰り返していた。
ノックもしない。
インターホンも押さない。
ただ俯いて、「足で来たから」「足で来たから」と繰り返していた。
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「それ、22時くらいまでやられました」
Wくんはそう言う。
本物の足立は、その時間、実際に心霊スポットに行っていた。
病院廃墟だったということなのだが、そこでは特に何も起きなかったらしい。
ただ、二人としてはこの経験があまりにも怖かったので、それをきっかけに足立とは距離をとるようになってしまったそうだ。
朝までそいつがいたらどうしよう……とWくんたちは恐怖に震えていたが、2時間くらいでふっといなくなったという。
「ただねえ……怖かったのは、夜、帰るときですよ。そいつの部屋を出るときも、エレベーターを出るときも、外に出たときも、家に入るときも。そいつがいたらどうしようって思ったら、もう、全部怖かったですね……」
Wくんはそう言うと、その時の恐怖を思い出したように身震いした。
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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「禍話X 第1夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。
禍話X 第1夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/648918046
(59:14〜)
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