無音とブザー【禍話リライト】

Jくんという、中部地方在住の男性から伺った話だ。

Jくんが自室で寝ていると、急に部屋にブザーのような音が鳴り響き、目を覚ましてしまった。
驚いて飛び起きて辺りを見回すが、奇妙なブザー音は家の中からではなく、外から聞こえてくるようだった。

火事かな?

なんだろうと思ったJくんは、窓を開けて外を眺める。
確かにブザー音は外から聞こえてくる。
しかし、その音がどこから聞こえてくるのか、全然わからない。
外を眺め回しても、音の発生源になりそうなものはない。
工事もしていない。

そのうち、遠くから救急車がやってくるのが見えた。

やっぱりこのブザー音目指して来てんのかな?

時計を確認すると、夜中の2時を回っている。

こんな夜中に大変だな……と思いつつ、見るともなく外を見ているうちに、Jくんはあることに気づいた。

救急車は、無音だった。

非常灯は回っている。
しかし、音は一切鳴っていない。
静かに近づいてきた救急車は、そのままスッと角を曲がっていった。

都市伝説ですでに死亡している時とか、何もなくて帰ってくる時には無音の時もあるとか言ってたな。
あの救急車はどっちかなぁ。
でも、あんなに無音っていうのもねえ……なら赤い非常灯が回っているのを止めればいいのに。
どういうことなんだろうな?

その間もブザー音らしきものは鳴り響き続けている。

気持ち悪いな……止まらないし。
非常ベルじゃないけど、何この音?

仕方がないので窓を閉めて、できるだけ聞こえないようにと、机の引き出しから使っていなかった100円ショップの耳栓を取り出す。
耳栓を入れてみるが、慣れていないので装着感が気持ち悪く、すぐに外してしまう。
諦めて布団に入ってから、(どうしようかな、耳栓つけようかな)とぐるぐる考え続けている間も、奇妙なブザー音は続いている。

「これ、なんのブザーだよ」

Jくんは、誰に言うともなく、思わずそんな言葉を口に出してしまう。

すると。

「人が一人死んだんですよ」

部屋のどこかから、声が聞こえてきた。

「へ?!」

体を起こして、声のしてきた方向に顔を向ける。

来客用のソファに、体育座りをした男がいた。

見たことのない中年男性だった。

その男は、じっとJくんの顔を見つめて、こう繰り返した。

「人が一人死んだんですよ。それも普通の死に方じゃなかった」


……そこから先の記憶が、Jくんにはない。

翌日から、Jくんは昨晩聞いた音について、知り合いに片っ端から聞いてみたそうだ。

こういう音なんだけど、この音知らない?と。

しかし、知り合いはみな口を揃えて、そんな音は聞いたこともないし、思い当たるような音もない、という。
似たような音を聞いたことがあるという知り合いも、少なくともそんな音が長く続くことはないと言っていた。

結局その音の正体はわからないままなのだが、幸いなことにその晩以降、音を聞くことも、体育座りの中年男が部屋に出てくることも、なかったそうだ。
Jくんもその部屋を引っ越すことはせず、そこに住み続けているそうだ。

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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「ザ・禍話 第26夜」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

ザ・禍話 第26夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/641529209
(22:00〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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