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映画『イエスマン』は本当に実践的だったのか?行動心理学で考察してみた


映画『イエスマン “YES”は人生のパスワード』は、ジム・キャリー演じる主人公カールが人生を変える物語です。物語の始まりで、カールは何に対しても「ノー」を言い続けることで、仕事もプライベートも停滞していました。しかし、あるセミナーをきっかけに「どんなことにも“イエス”と言う」というルールを決めた途端、彼の人生は大きく動き出します。予想外の展開や新しい人間関係、さらには恋愛まで、すべては「イエス」を選び続けた結果です。でも、この映画で描かれる「イエス」を言い続ける生き方は、現実でも本当に効果的なのでしょうか?科学的に検証してみます。

「イエス」と言うことの心理的効果


行動心理学では、「イエス」と言うことで新しい行動が起こりやすくなるとされています。人間は本能的に、リスクを避けるために「ノー」と言う傾向があります。これを「現状維持バイアス」と呼びます(Samuelson & Zeckhauser, 1988)。つまり、何か新しいことに挑戦するよりも、現状を維持する方が安全だと脳が判断するのです。しかし、「ノー」を選び続けることで得られるのは安心感だけで、新しい経験や成長の機会を逃してしまうことになります。

一方で、「イエス」と言うことは、脳に新しい刺激を与えると同時に、可能性を広げる効果があります。研究によると、予期しない状況に対応するためには、柔軟な思考と行動が必要であり、その柔軟性を高めるのが「イエス」と言う選択だとされています(Fredrickson, 2001)。さらに、新しい経験を積むことで、脳の報酬系が活性化し、ポジティブな感情が生まれることもわかっています。これが、映画の中でカールが「イエス」を選んだことで人生が劇的に好転した理由の一つと言えるでしょう。

「イエス」が成功の確率を上げる理由

「イエス」と言うことは、統計的にも成功の可能性を高める行動と考えられます。心理学者の研究によれば、新しい機会に飛び込むことで得られる成果の確率は、挑戦しない場合よりも圧倒的に高いと言われています(Grant & Sandberg, 2013)。例えば、職場で新しいプロジェクトに「イエス」と言うことで得られる経験やスキルは、後々のキャリア形成に役立つ可能性が高いのです。

また、ネットワーク効果も重要です。人は新しい人と出会うことで、情報やチャンスの幅が広がります。映画の中でカールが様々な人と関わることで人生が豊かになったように、現実でも「イエス」と言うことで生まれる人間関係が、ポジティブな結果を生むことが多いのです。これは「弱いつながりの強さ」という理論にも関連しています(Granovetter, 1973)。要するに、普段関わりが薄い人との交流が、意外な形で自分の人生に影響を与えることがあるのです。

「イエス」に潜むリスク

もちろん、「イエス」を選び続けることにはリスクもあります。何にでも「イエス」と言うと、時には負担が大きくなったり、不必要なトラブルに巻き込まれる可能性もあります。映画でも、カールが無理な約束をしてしまったり、後悔する場面が描かれていました。現実でも同じで、無制限に「イエス」と言い続けることは、心身の健康を損なう可能性があります。

重要なのは、「イエス」と「ノー」のバランスを取ることです。行動心理学者は、「戦略的イエス」という考え方を提唱しています(McKeown, 2014)。これは、自分の価値観や目標に合致するものに対して「イエス」と言い、そうでないものには「ノー」と言うというものです。この戦略的なアプローチを取ることで、無理なく新しい経験に挑戦することができます。

「イエスマン」から学べること

『イエスマン』は、極端な「イエス」の生き方を描いていますが、そこには重要な教訓が含まれています。それは、「イエス」と言うことが新しい可能性を広げ、人生を豊かにするという点です。ただし、それを現実に適用するには、自分にとって価値のある選択を見極める力が必要です。映画の中のカールのようにすべてに「イエス」と言うのではなく、自分にとって有益なものに対して「イエス」と言う勇気を持つことが、現実的で効果的な方法と言えるでしょう。

結論として、『イエスマン』の実践的な部分は、「イエス」を選ぶことで得られる新しい経験や人間関係の重要性を教えてくれる点にあります。しかし、それを現実で活用するためには、無条件の「イエス」ではなく、慎重に選び取った「イエス」を言うことが鍵となるのです。映画は極端な例を見せてくれますが、私たちの日常では、そのバランス感覚を持つことが何よりも重要です。

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