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元客員起業家インタビュー:PAPAMO株式会社代表取締役・橋本咲子さん

客員起業家としてGOB Incubation Partnersに参画し、2021年4月に法人化したPAPAMO株式会社代表取締役の橋本咲子さんにお話を聞きました。
*この記事は2022年1月に実施したインタビューをもとに制作しています。

——まずは、現在の事業内容を教えてください。

橋本咲子さん「へやすぽ」という、こども向けのオンラインスポーツ事業を展開しています。

PAPAMOは、「あらゆる初体験を最高にする」をミッションに掲げており、現在はまず「運動の初体験を最高にする」ことにフォーカスを当てています。「へやすぽ」は、世界中どこにいても、どんな子でも運動を好きになれて、自信を持てるようなゲーム感覚で運動できるエンタメ型のオンライン運動教室です。

「こどもがまず運動を始めるならへやすぽ」といったような、こどもの運動のスタンダードになることを目指しています。

——ありがとうございます。初期に考えていた事業内容はどのようなものだったのでしょうか?

当初は、運動が苦手なこどもをメインターゲットとする対面型のスポーツ教室を展開していました。

幼少期に運動が苦手だと、自分自身に否定的な感情を抱きやすく、物事へのチャレンジ意欲も低下することが統計でも明らかになっています。社会環境の変化により、運動が苦手なこどもが増えている一方で、マーケットがそこに対応しきれていないことに問題意識を持っていたのです。

——現在の「へやすぽ」はオンラインサービスですが、対面型の教室からオンラインへ移行したきっかけを教えてください。

対面型の教室の場合、場所や時間の制約で利用者が限定的になってしまうことや、教室として使える物件の確保の難しさ、利益率の低さ、スケール(事業の拡大)に時間がかかることなどが高い壁でした。

その一方で、マーケットや事業自体のポテンシャルは非常に大きいとも感じていました。そのため、対面型ゆえの制約から解放されるソリューションとして、オンラインサービスを検討していたのです。

新型コロナウイルス感染症の拡大前からプロトタイプを作ってトライアルを進めていましたが、感染の急拡大を受けて、対面型の教室はすべてクローズし、「へやすぽ」を前倒しでリリースすることにしたんです。

——かなり大きなピボットですが、迷いはありませんでしたか?

オンラインサービスを検討していたとはいえ、「へやすぽ」一本に絞るのは、やはりそう簡単な決断ではありませんでした。

当時は初めての緊急事態宣言が出て、対面型の教室は休講を余儀なくされ、大半の経済活動も停止。コロナがいつ収まるのか、先行きがまったく見えませんでした。1〜2ヶ月も経てば収束するだろうという見方もあれば、数年に渡って影響が及ぶ、コロナ前後では人の価値観までもが変わるという意見もあったりと、さまざまな情報があふれていました。世の中の流れをどう読むかで意思決定が変わる、そんな瞬間でした。

対面型の教室もまさにこれから拡大のフェーズを迎えたところでしたし、その年のはじめには教室数の拡大も目標に設定していました。通ってくれていた生徒さんや働いてくれているコーチも多かったため、はじめのうちは対面型の教室とへやすぽをどちらも並行してやろうとしていました。コロナの収束予測や起きうる社会変化についても、自分に都合のいい情報ばかり集め、楽観的に捉えていたように思います。

——それでも、最終的にオンラインの「へやすぽ」に一本化したのは、どういった背景があったのでしょうか?

この決定は、GOBのメンターにいろいろな問いかけをいただいたおかげです。スタートアップはリソースが限られているので「選択と集中」が大切です。あの時オンラインに振り切ったからこそ、今があるのだと思っています。

またコロナ禍のような危機を乗り切れたのも、GOBのメンターの存在が大きかったです。例えば経済危機に直面した時には「キャッシュイズキング」だと言われますが、そのためにコストを削り、できる限りの止血をするとか、平時とは異なり、情報を集約してトップダウンで意思決定をすべきであるとか、危機の時にどう対応するかサポートいただきました。

——メンタリングに関しては橋本さんの場合、どのように活用されていましたか。

GOBは、事業に強いメンター、ファイナンス面に強いメンター、組織・リソース面に強いメンターなど、分野ごとに強いメンターがいて、GOBがチームとして支援してくれるのが特徴だと思います。

専任の担当メンターを中心に、何か困った時はその分野に強いメンターに聞けば、具体的な相談に乗ってもらえます。客員起業家としての関わりでしたが、GOBは起業家を「組織の中の人」として迎え入れてくれるので、普段から複数のメンターとの距離が近く、誰に何の相談をしたらいいかわかりやすかったです。ここまでチームで事業を見てくれるインキュベーション組織はなかなかないんじゃないかと思います。

——少し話は変わりますが、客員起業家制度を活用して特に得られたものや良かったことがあれば、教えてください。

経営は、意思決定の連続です。日々、いかにその質を上げていけるかが鍵になります。コロナ禍は、意思決定と経営のハンドルの握り方でゲームチェンジが起きた、わかりやすい事例だったと思います。

客員起業家として活動する中で、メンタリングや日々のコミュニケーションを通じてこの意思決定の精度を高められました。視座を上げたり、自分にはなかった意思決定の軸を複数持てたり、複合的に、そしてメタ的に物事を見られるように支援いただけました。

「起業家の器が事業の器」とはよく言いますが、構想の大きさはもちろん、日々の意思決定や物事、人との対峙の仕方に、結局自分自身の人間性が滲むと思うんです。

でも、人間性を磨く場は、意識的にならないとなかなかないというか、耳の痛いことからしか本質的なことは学べないですし、自分の内省力は限られているので、どれだけそういうことを言ってもらえる環境にいるかがとても大事だと思っています。GOBのなかで事業を立ち上げていると、1人の人としてのあり方を問われたり、事業だけではなく、人間性も含め、時には厳しいフィードバックをいただけたりしたことは、私の礎になっています。

——客員起業家としての取り組みの後半では、事業の実証と並行して組織作りや「経営者」としての準備も重要だったかと思います。そうした組織や経営といった面で、客員起業家という場が役に立った部分はありましたか?

それでいうと、先ほどの話と重なりますが、私だけではなく、PAPAMOチーム全体の視座もあがるような仕掛けがあったのはありがたかったです。

例えば、GOBのSlackで山口さん(GOB代表取締役)から発信される経営メッセージや、他のGOBメンバー、起業家チームからの学びや失敗のシェアなどは、チーム全体の視座を上げ、メンバー各自の内省の助けになりました。

また、そういった情報が流通する中で仕事をしていると、GOBのメッセージを通じて、PAPAMOのメンバー同士でも大切な概念や価値観に関する共通言語ができるので、それによってチームの文化や組織風土のベースが作られていきました。

大切なことの概念化や共通言語化は組織作りにおいて非常に重要ですが、それを自分だけでやるのはとても大変で、時間がかかります。GOBというコミュニティに所属することで、私も含めた組織全体として、世の中を捉える眼差しやマインドセットを磨けたのは、強烈な体験でした。

——なるほど。ありがとうございます。最後に、今後の展望を教えてください。

2021年9月にシードラウンドの資金調達を終え、今はシリーズAに向けてプロダクトマーケットフィット(PMF:プロダクトを適切な市場に投入し、市場で受け入れられている状態)を目指しているところです。まずはユーザーを増やし、「へやすぽ」を立ち上げきることにフォーカスしています。

その後の展開としては、スポーツ競技や部活をしている小中学生に、基礎力をオンラインでコソ練的に育めるサービスを提供したり、肥満児や発達障害児に特化したオンライン運動プログラムを展開したりと、ユーザーの幅を広げていく予定です。

こどもの運動のスタンダードを作ることを目指しているからには、学校や学童などにも入っていきたいですし、日本だけでなく、海外にも展開したいと考えています。

世界中どこにいても、どんな子にも、最高の運動との出会いを届けていけるよう、これからもメンバー皆で勝負を仕掛けていきます。PAPAMOの事業を広げ、社会的インパクトを出すことで、世の中をよりよくし、GOBにも恩返しができたらと思っています。