周術期領域のシミュレーショントレーニングに関する論文の要約①
2023年にpublishされた麻酔看護に関するトレーニングに関する準実験研究に関する論文を紹介します。
文献情報
Albooghobeish, M., Rahimpour, Z., Saidkhani, V., & Haghighizadeh, M. H. (2023). Scenario-based training versus video training on pre-hospital triage knowledge and skill of nurse anesthesia students. Trauma Monthly, 28(3), 815-822. https://doi.org/10.30491/tm.2023.390642.1580
シナリオベースのトレーニングとビデオトレーニングの比較: 麻酔看護学生の院外トリアージ知識とスキルに対する影響
要約
本研究は、麻酔看護学生の院外トリアージ知識およびスキルに対する2つの教育方法(シナリオベースのトレーニングとビデオトレーニング)の効果を比較しています。Ahvaz Jundishapur University of Medical Sciencesの45名の学生が研究に参加し、3つのグループ(シナリオベースのトレーニング、ビデオトレーニング、コントロールグループ)に分けられました。
方法
• 参加者: 平均年齢21.57歳の45名の麻酔看護学生。
• 研究デザイン: 準実験的研究として、介入前後にテストを実施。参加者は無作為に、シナリオベースのトレーニング群(15名)、ビデオトレーニング群(15名)、コントロール群(15名)に割り当てられました。
• ツール: 知識のアンケートおよびスキル評価チェックリストを介入前後に使用。
結果
• シナリオベースおよびビデオベースのトレーニングは、いずれも学生の院外トリアージ知識およびスキルを有意に向上させました(p<0.001)。
• シナリオベースのグループは、ビデオグループよりも知識とスキルの平均スコアが高くなりました。
• トレーニングを受けなかったコントロールグループでは、特に改善は見られませんでした。
• シナリオベースのトレーニングは、学生の積極的な参加、クリティカルシンキング(批判的思考)、および創造性を高める効果があり、ビデオトレーニングよりも効果的であることがわかりました。
結論
本研究の結果、シナリオベースのトレーニングは、ビデオトレーニングよりも麻酔看護学生の院外トリアージ知識とスキルを向上させるのに効果的であることが示されました。シナリオベースの教育は、学生がより積極的に参加し、学習成果を向上させるため、トリアージのような緊急スキルの指導に適していると結論づけられます。
Limitation
教育施設の制限や学生の参加不足、シナリオの複雑さの不足、サンプルサイズの小ささなどの問題がありました。今後の研究では、より大規模なサンプルと高度なシナリオを用いて、結果の一般化可能性を高めることが推奨されます。
それぞれのトレーニングの内容
シナリオベースのトレーニング
シナリオベースのトレーニングは、学習者が積極的に参加する形式で行われ、リアルな危機シナリオをもとに学習が進められます。この方法の主な目的は、問題解決能力を高め、知識を実践的な状況に応用できるようにすることです。具体的には以下のプロセスで行われました。
1. 理論的な講義: 最初に4時間の講義が行われ、パワーポイントを使用して理論的な内容が提供されました。この講義では、院外トリアージに関する基礎的な知識が教えられ、START(Simple Triage and Rapid Treatment)トリアージアルゴリズムが解説されました。
2. グループ分けとシナリオの実施: 学生たちは複数のグループに分けられ、それぞれのグループに事前に決められたシナリオが与えられました。シナリオは、講義で学んだ内容を実践するもので、事故や災害時の患者の優先度判断や適切な対応をシミュレーションする内容です。
3. ディスカッションとフィードバック: 各グループは、シナリオをもとに議論し、最も適切な対応を模索しました。グループ内で出された答えをまとめ、代表者がプレゼンテーション形式で発表し、その後、トレーナーからフィードバックが提供されました。トレーナーは、トリアージの実施方法を監視し、介護の質に関するフィードバックを提供しました。
このシナリオベースのトレーニングは、学生が実際に危機的な状況においてどのように行動すべきかを体験しながら学習する形式であり、理論的な知識と実践的なスキルの両方を高めることが目的です。学生は学んだ知識を基に、自らの判断で行動し、その結果についてフィードバックを受けるため、問題解決能力や批判的思考が養われやすいとされています。
ビデオトレーニング
一方、ビデオトレーニングは、視覚的な学習方法に基づいています。学習者は、トリアージに関する映像教材を視聴し、その内容を学習します。このトレーニング方法では、以下のステップが含まれています。
1. 理論的な講義: シナリオベースのトレーニングと同様に、まず4時間の講義が行われ、パワーポイントを使用して院外トリアージに関する基礎的な知識が教えられました。講義内容はSTARTトリアージアルゴリズムや患者の優先度評価に焦点を当てました。
2. ビデオ視聴: 次に、トリアージに関する教育ビデオが学生に提示されました。このビデオは研究者が選定し、ペルシャ語に翻訳されたもので、院外トリアージにおける適切な対応手順や方法が詳細に描かれています。ビデオの内容は専門家によって承認されており、学生が緊急事態におけるトリアージ手順を学べるように設計されています。
ビデオトレーニングの利点としては、情報が映像として視覚的に記憶されやすいことや、繰り返し視聴できる点、コスト効率が良い点が挙げられます。また、学生がビデオを視聴しながら学ぶため、インタラクティブな学習要素は少ないものの、知識の定着を図ることができるとされています。
トレーニングの比較
シナリオベースのトレーニングの特徴
• アクティブな参加: 学生がグループディスカッションやプレゼンテーションを通して積極的に参加する。
• フィードバックと実践: トレーナーから直接のフィードバックを受けることで、リアルタイムで知識とスキルを改善する機会が得られる。
• 批判的思考と創造力の向上: シナリオをもとに自ら問題を解決するため、創造力や判断力が向上しやすい。
ビデオトレーニングの特徴
• 視覚的学習: ビデオによって情報が視覚的に提供されるため、知識の定着を促進。
• 自己学習: 学生が個別にビデオを視聴する形式で、反復学習が可能。
• コスト効率: ビデオは一度作成すれば繰り返し使用できるため、コスト効率が高い。
所感
結果には特に新奇性は感じないが、準実験的に比較した事でそれぞれのトレーニングの教育的強みを明らかにしている点が興味深い。学習内容が院内トリアージなので、シナリオトレーニングの方がその心理的負荷やストレスなども学習できる。シナリオトレーニングはコストも認知的負荷も高いので、ビデオトレーニング→シナリオトレーニングと段階的に難易度を上げて実施する方法も、対象者のレディネスによっては適しているように思う。