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【童話】ツバメと小さなお城

むかしむかし、
小さなお城に1人のお妃様が住んでいました。


お妃様は美しいドレスをまとい、
美しい花々と召使いたちに囲まれて優雅に暮らしていました。


お妃様が信頼するのは、なんでもお妃様の言う通りに従う召使いだけ。

少しでも意見を申し立てる召使いが居ようものなら、すぐに遠ざけられ、お妃様のそばには「ご立派です」「お見事です」と褒めたたえる者だけが残っていきました。


ある日、遠い街から一羽のツバメが飛んできました。

ツバメは小さな体で軽やかに空を舞い、お妃様の城の庭に降り立ちました。


「まあ、なんとみすぼらしい鳥でしょう!」
お妃様は鼻で笑いました。


「でも、せっかくここまで飛んできたのだから、少しくらい目をかけてやってもいいわ。」

お妃様はツバメに声をかけました。

「わたくしのお城で暮らしなさい。召使いたちのように、わたくしの言うことを聞けば、パンくずくらいは分けてあげましょう。」

するとツバメはお妃様の瞳をじっと見つめて、こう言いました。

「ありがとう、お妃様。でも、わたしには遠くへ飛ぶ翼があります。わたしは自由に空を駆け、好きな場所へ行くのです。」

そう言ってツバメは、ひとつ羽ばたくと風に乗って遠くへ飛び去ってしまいました。

「まあ!なんて無礼なツバメかしら!」

お妃様は顔を真っ赤にして怒り、真紅の絨毯を地団駄と踏み鳴らしました。

「せっかくわたくしが親切にしてやったのに、あのような態度を取るなんて!」

召使いたちも口々に「本当に失礼な燕ですね」「お妃様のお気持ちを察しないなんて」とお妃様をなだめました。

すると、すっと冷ややかな眼差しに戻ったお妃様の口元はニヤッと微笑み

「なんて愚かなツバメでしょう。わたくしが折角目をかけてやろうとしたのに。今に後悔するといいわ。」


それからも、お妃様は変わらぬ毎日を過ごしました。

相変わらず召使いたちはお妃様を称え、お妃様は自分の正しさを疑うことなく、小さなお城の中で満足げに、何不自由なく暮らしました。


ある日、お城の窓から空を見上げたお妃様は、ふとあのツバメのことを思い出しました。


「そういえば、あのツバメはどこへ行ったのかしら。あんな小さな体では、きっとどこかで苦労しているに違いないわ。」

召使いたちはケラケラと笑って言いました。
「そうでしょうとも。お妃様のおそばにいれば、楽に暮らせたものを。」

お妃様は満足そうに頷きました。

その頃、遠い空の向こうでは、あのツバメが仲間たちとともに自由に空を舞い、見知らぬ土地を巡り、さまざまな景色を見ていました。

しかし、それをお妃様が知ることはありません。


お妃様は自分の世界がすべてだと信じ、小さなお城の中で幸せに暮らし続けたのです。


そして、お妃様はその「幸せ」に疑問を抱くことは、生涯を終えるまで一度もなかったといいます。

小さな小さな、お城の話。


誰も知らない、ツバメとお妃様の物語。

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