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組織改革のためのTOC(制約理論)~組織改革はジレンマから入るべからず!(制約を科学する⑦第3部-3:TOC思考プロセスを活用した組織改革2)

こんにちは、ゴール・システム・コンサルティングです。代表取締役村上悟の、TOC(制約理論)についての連載「制約を科学する」7回目をお届けします。TOCの基本から始まり、制約とは何かを深く考察するシリーズになっています。今回は「TOC思考プロセス」を組織改革に活用する上で避けて通れないジレンマについて理解していきます。

▼これまでの連載は、村上のマガジンからご覧いただけます。


企業・組織の中で直面する「2つのジレンマ」…トレードオフと二律背反

制約の基本構造の項でもお話ししたように、制約を発生させているのはその背後にある「対立」や「ジレンマ」であり、もう一段階掘り下げると、対立やジレンマの裏にも、対立を生み出している様々な「理由」が存在しています。では、ここからは対立やジレンマがなぜ発生するのか、どのように解決してゆけば良いのかについて、順番に考えてゆきましょう。

▼「制約の基本構造」について詳しくはこちらをご覧ください

実は、私たちが企業や組織の中で扱う「対立」は明快で「二律背反」と「トレードオフ」の二つのパターンしかありません。そして、その二つのパターンの「本質」を探ると、ほとんどの場合は有限な「資源」の取り合いに帰着し、どちらもTOC思考プロセスの「クラウド(対立解消図)」を使って扱うことが出来るのです。

クラウド(対立解消図)の例

では、トレードオフと二律背反が実際にどう違うのか見てゆきましょう。

▼ トレードオフ

まずは理解するのが簡単な『トレードオフ』から考えてみましょう、トレードオフとは単純に「両立できないこと」を意味します。要するに、何かを達成するために何かを犠牲する関係のことだと理解してください。

トレードオフの例として良く用いられるのが「売上と在庫」の関係です。損失を減らし、効率的に商売をするためには「在庫」はなるべく減らしたいものです。しかし、品切れさせずに「売上」を増やすためにはある程度の在庫を抱える必要があります。

そして、これらのトレードオフは「時間」や「お金」など物理的に有限な資源を取り合う関係「だけ」で成立し、基本的に背後に企業理念や方針(ポリシー)、評価(メジャーメント)の問題などは存在しない事に特徴があります。

▼ 二律背反

これに対して『二律背反』は、どちらも「正しい」として証明できる2つの主張(命題)が、並立して存在するような状態を指します。典型的なのは、 個と全体、成長と安定、短期と長期など、いずれも一般的には「どちらも大切だよね」というような概念が並び立っているような状況です。

しかし実際にこれを行動レベルに具体化してみると、限りある資源を取り合って対立していることに気づくのが典型的なパターンなのです。

▼ トレードオフと二律背反の違い

トレードオフと二律背反が大きく違うのは、トレードオフが「単純に有限な資源を取り合う関係を意味するだけなのに対して、二律背反は有限な資源の取り合いの背後に、その背景要因ともいうべき「理念」や「想い」、「方針」といった「ポリシー」が存在していることが大きく違います。

二律背反の「律」という漢字を辞書で調べてみると「行動を秩序づけるための掟やさだめ」と説明されている事からも、二律という意味が良く理解できると思います。

具体例で考えてみましょう、例えば育児とキャリアの関係には『時間』のトレードオフが存在します。限りある時間の中で子供を育て、かつ働くという「トレードオフ」です。しかし、その背後には「子育てをしっかりやって」かつ「仕事もキャリアアップを目指す」という「想い」が存在します。このように単純なトレードオフだけでなく、背景にそうしたいと願望する「意思」や「想い」がある場合を、二律背反と呼ぶのです。

クラウドによる構造化例:二律背反の「想い」がクラウドのBとC、
時間というリソースを取り合う「トレードオフ」がクラウドのDとD'で表現されている

クラウド(対立解消図)の一般的な説明は、共通の目的(A)があり、その目的を達成するために必要な条件(BとC)が存在する。この二つの必要条件は対立しないにもかかわらず、その必要条件を達成するための行動(DとD’)が対立するので同時に実行できない、というパターンで説明されます。

二律背反の根が深いのは、有限な資源を取り合う行動を要求する「必要条件(理由)」の存在です。このように、二律背反の本来の意味は、TOCのクラウド(対立解消図)の構造とほぼ同様で、必要条件は対立しないにもかかわらず、その必要条件を達成するための「行動」が対立するという状況を表しているのです。

組織改革でクラウドを解きに行ってはいけない?! トレードオフと二律背反のクラウドを解くための定石

さて、ここまでジレンマについて説明してきましたが、ここからは組織改革の話に戻ります。組織改革でこのような「二律背反」のジレンマに直面した時に、クラウドを解く手順を考えてみましょう。

皆さんは、クラウドの解き方としてA-B、A-C、B-D、C-D’それぞれの矢印を成り立たせている、理由(アサンプション)に着目してウィンウィンの解決策を見つけ出すという方法を習ったかもしれません。

もしくは図のように、P(方針)・M(評価)・B(行動)の因果を分析して、方針と評価を具体的に変えるアプローチを取るかもしれませんね。

PMB(組織において、従業員がとる行動の背後には、その組織が掲げる
方針や評価基準が影響しているというTOCの考え方)

▼ 小説『ザ・ゴール』がお手本!トレードオフを「カイゼン」で解消する

実は「二律背反」のクラウドを解くのに一番簡単なのは、対立をウィンウィンで解くことや、方針や評価を変える事を『あと回し』にすることです。

ポイントは、トレードオフとなっている「資源」に着目し、資源を「カイゼン」して増やせないかを具体的に検討することです。要するにトレードオフが発生しているのは、能力発揮を「制限」されているリソースがあるということ、だから、まずこの能力制限をカイゼンによって解消する方法を考えるのです。

お手本は小説ザ・ゴールの中で、主人公のアレックスロゴ達が取ったアプローチです。アレックス達は、アレックスの大学時代の恩師であるジョナの教えに従って、ボトルネック設備であるNCX10に簡単なカイゼンを実施しました。

それは、ボトルネック設備を止めないようにオペレーターが注意することや、昼休みにオペレーターの休憩に合わせて設備を止めていたのを、休憩時間をずらして稼働させるようにしたこと。お蔵入りしていた旧型設備をメンテして稼働させ、NCX10と同じ加工をさせたこと。ボトルネック前で検査をして、不良品がネック工程で加工される事を防ぐ工夫したこと。それと「今すぐに売上が上がるものだけを投入する」という、投入ルールの変更でした。これによって、スペアパーツや在庫として倉庫に積み上げるものは作らなくなりました。

これら投入ルールの変更とカイゼンによって、納期遅れはなくなりリードタイムも劇的に短縮され、生産性は倍増し工場は見事に蘇ったのでした。

▼ 目に見えない方針や評価は後付けで振り返る

この事をTOCのクラウドというフレームワークで考えてみると、行動の対立を引き起こしている「D ・ D ‘」間に「カイゼン」と「投入ルール変更」を実行して、ボトルネックのキャパシティ(処理能力)を向上させる、これが「定石」の最初という事になります。これらの施策で、生産能力は説明したように、ざっくり言って40%程度の向上が見込める計算になりました。

もしも、カイゼンを行わずに「方針」や「評価」だけを変えたらどうだったでしょうか。小説『ザ・ゴール』では、ジョナとアレックスの謎かけ問答が続くので分かりにくいのですが、アレックスロゴたちが行動を起こした時点では、行動の「理由」をキチンと理解していた訳ではありません。

TOCの考え方や、たくさん作れば売れずとも安くなったように見える、従来の財務会計の問題などは、『ザ・ゴール』では後付けで説明されているので、言い方は悪いですが、アレックスロゴたちはジョナに誘導されて行動しただけだったとも言えるのです。 

目に見えない、方針や文化などは明示的に「こうだ」と分かりやすく表現する事が極めて難しく、理解されにくいもので、組織風土の変革に関しては後付けで「振り返ってみるとこうだった」と表現する事が常なのです。

だからトヨタは「分かるまで現場で立って観察しろ」という教え方をします。しかし、思考プロセスで扱う組織風土や評価の問題は残念ながら目で見ることは容易ではないのです。

ここまでご覧いただきありがとうございました。2023年のGSCのnote記事は今回がラストとなります。本年もみなさまに本noteをご覧いただき大変ありがとうございました。どうぞ良いお年をお迎えください!

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