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組織改革のためのTOC(制約理論)~ステップと全体像(制約を科学する⑧第3部-4:TOC思考プロセスを活用した組織改革3)

こんにちは、ゴール・システム・コンサルティングです。代表取締役村上悟の、TOC(制約理論)についての連載「制約を科学する」8回目をお届けします。TOCの基本から始まり、制約とは何かを深く考察するシリーズになっています。今回は連載最終回として、組織改革でのTOC活動のステップと全体像をお話します。

▼これまでの連載は、村上のマガジンからご覧いただけます。


クラウドを最初に解こうとする「愚」

念を押しておきますが、TOCを活用するに当たっては、環境や前提条件を確認することが大切です。ですので、目の前の問題点を整理するといった話と、組織改革の話は決して混ぜないで欲しいのです。前者の場合は、手軽にクラウドを書いて役に立つこともありますが、それなりの規模があって、たくさんの人や部門が関与している組織改革は、クラウドひとつで解決できるほど単純な場合ばかりではないのです。

クラウド(対立解消図)の例

組織改革において、一般的にクラウドの解き方として教えられている「B-D」「C-D‘」間の「アサンプション(理由)」に解を求めるやり方は、ほとんどの場合には時間のムダで、解決のためのアクションを薄め、先達の知見をムダにしてしまいます。

考えていただきたいのは「今あなたが解決しようとしているその問題は、今まで誰も遭遇したことがないものですか」という事です。もし、そうでないならば、クラウドを眺めて自分で考えるより、過去の事例を学んでマネをする方が早く確実です。

そして、今回お話している、組織の改革を進めるための最初の一歩は、トレードオフを引き起こしている「リソースの取り合い」について、リソースの能力を広げて解消することなのです。

TOCによる組織改革の進め方

▼ まずはボトルネックの徹底活用から始める

ここから改めて、改革の流れを押さえておきましょう。
組織改革を始めるに当たって、多くの場合、まず物理的な制約にパワーを集中して制約を押し広げて改善を進めること、これが出来れば問題の大部分は解消するはずです。

これまでも紹介したように、ボトルネックを徹底活用するという視点で活動すると、かなりレベルの高い工場でも20-30%のカイゼンは不可能ではありません。人の能力がボトルネックになりやすい、設計や開発などのいわゆる知的作業でも、分析して改善を実施すると25%から30%のスループット向上が実現するケースも多く、決して難しい事ではないのです。

▼ 慢性化問題に対して、制約の基本構造を使う

そのようにして「カイゼン」が成功して多くの問題が解決すると、同様に組織風土も良い方向に向かうはずです。しかし、何かのきっかけ、例えば不況で業績が急降下したりすると「二律背反対立」が復活してしまうことがあるので注意が必要です。人間の成人病のように、慢性化して地下に潜った問題は、別途慎重な対応が必要という事です。

二律背反問題は、双方の考え方(必要条件)のどちらにも妥当性があるので、状況が変化すると白か黒かの議論が復活しがちです。ですから、二律背反問題は時間をかけながら、変化させるべき組織風土や文化を徐々に明確にしながら、カイゼンと風土変革の両方を狙った活動を行うべきなのです。

ここで、今までの組織変革のコンサルティングを振り返ってステップを整理してみると、このような流れになっています。まとめるとこういう流れになりますが、実際は、現場の状況をよくみて様々な調整をしながら適用していくことになります。

①   TOC思考プロセスの手順を援用して、「制約の基本構造」を作成する
②   物理的な「制約資源」を明確にし、逸失利益を測定する
③   フローコントロールの仕組みを導入する
  (例:S-DBR、DBM、CCPMなど)
④   制約(ネック)の徹底活用法とモニタリングの方法を決定する
⑤   成果(スループット)が上がることを確認し、UDEsの解消度合いをモニタリングする(UDE⇒DE)
⑥   概ね、半分のUDEsがDEsに変化したことを見極めて、制約の基本構造上のP(方針)とM(評価)をどう変えるべきかを構想して実行する

「制約の基本構造」で二律背反を深く理解する

▼ 二律とは組織の大切な価値観

あらためて理解しておきたいことですが、実は二律背反対立は本当の意味では対立していません、対立しているように見えるのは、「限りある資源」がトレードオフ関係にあり、二律の背後にある「理由(Assumption)」の解釈に誤りがあるからなのです。

B-D,C-D',D-D'にアサンプション(理由)を追記したクラウドの例

ですから、まず制約資源の使い方を改める「カイゼン」を実行する事ができれば、問題の多くは解決します。その上で、対立していると思われる主張(クラウドのBとCのボックス=必要条件)の裏側にある「理由(Assumption)」を明確にして、なぜその「必要条件」が大切なのかを明確にします。

次に、どちらも否定せずに、どういうルート(道筋)ならば両者を組み合わせた新しい「必要条件(主張)」として活かせるかを考えてみるのです。

二律背反対立を解くにあたってまず確認したいのは、二律とは「組織の大切な価値観」二つであるという事です。もしかすると、その二つは「今まで」と「これから」というように新旧の象徴かもしれませんが、いずれも今のところは大切にしてゆかなくてはならない価値観であるはずです。

その「二律」が明らかなになったならば、トレードオフを発生させた「経営的な方針」や「組織風土」などを抽出して、二律を統合する明示的な対策を明らかにする必要があります。

▼ 対立から、次元の高い新しい知恵を見出す

これは私の想像ですが、ゴールドラット博士はクラウド(対立解消図)の構造を考えたときに、弁証法の考え方を参考にしたのではないかと思います。弁証法とは、2つの対立する主張をどちらも否定することなく、両者を組み合わせた新しい主張として生かしていくという考え方で、「対立していると思われる事柄から、次元の高い新しい知恵を見いだす」方法ともいえる考え方です。

2つの考え方は対立しないと考えるのは、「弁証法」のアプローチそのもので、クラウドのボックス(B)を「正(テーゼ)」と考え、その反対(C)のボックスを「反(アンチテーゼ)」、インジェクションを「合(ジンテーゼ)」と考えると分かりやすいと思います。

▼ TOCのフロー改善と、組織の問題をバラバラに取り扱わないために

組織改革における一連のプロセスや我々のアクションは、当然つながっています。ですから、組織改革のアプローチを行うときに、物理的な「制約」はDBRやCCPMなど「TOCのフローマネジメント手法」で解決する一方で、見えないたくさんの問題(UDEs)は、風土や組織の問題として「TOC思考プロセス」を使って別の解決策を考えるようなことは、厳に慎むべきです。

制約の基本構造

ここで「制約の基本構造」をもう一度見てみましょう。「制約の基本構造」で問題の全体像を正しく認識した上で、多くのUDEs(問題)は制約に繋がっていると考え、組織的、系統的な対策を打つことが必須です。多くの組織に存在する「慢性的な問題」を生み出すメカニズムが、「制約の基本構造」そのものだという事です。

だから、制約を徹底活用するためには、制約を生み出した「PMB…方針(Policy)・評価基準(Measurement)・行動(Behavior)の論理構造」をどうやって打破するかを、「TOC思考プロセス」と「フローマネジメント」をシームレスに行き来しながら考えてゆくことが大切なのです。もっと具体的に言えば、フローマネジメントで制約の処理能力を押し広げて、得られた新しい能力を、二律背反におけるウィンウィンを実現するために投資するという事です。

さて、今回はトレードオフと二律背反の話から組織改革について考えてきました。結局のところ、時間やお金という有限な資源に囲まれて生きている我々は、無から有を生み出すことはできません。だからこそ有限な資源を100%使い切るために、TOCという手法を上手く使う、TOCはそういう手法なのだということを確認して、この回を締めくくりたいと思います。

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