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TOCが前提とした環境
先週は、大野耐一らが築き上げたTPS(トヨタ生産方式)の成立について紹介しました。今週はいよいよTOC、ゴールドラット博士の出番です。
※これまでの連載は、以下の村上マガジンからご覧いただけます。
1980年代になると日本からアメリカに、高品質の自動車が大量に輸出されるようになります。その秘密を学ぼうと、MIT(マサチューセッツ工科大学)のジェームズ・ウォマック博士らは研究を続け、トヨタのものづくりの、製造工程の「ムダ」という「ぜい肉」を落としたスリムな生産方式を「リーン生産方式」と名付けます。そして、その著書『リーン生産方式が世界の自動車産業をこう変える』(1990年)を出版し全米にTPSを紹介しました。
80年代にMITで産業政策を研究していたジェームズ・ウォマック博士はトヨタのオペレーションを研究する中で、企業の競争力を本当に左右するのは、製造をどのように組織化し運営するかというオペレーション・マネジメント(管理技術)であると直感的に感じたといいます。その後博士はMITが中心になった世界的な自動車産業のベンチマーキングプロジェクトの責任者になり、その研究成果をまとめたものが前述の著作だったのです。
この本では品質、生産性、リードタイム等あらゆる側面で日本の自動車メーカーが欧米の自動車メーカーに勝っていることが詳細な定量データで実証されました。そして圧倒的な生産力の差は決して日本の文化的風土ではなく、「リーン生産方式」であると冷静に分析されていました。
リーン生産方式はうまく導入すれば、無駄を省いて効率的な生産ができます。そのため、80年代後半から90年代にかけてのアメリカ企業は「日本に学べ」というスローガンを掲げ、このリーン生産をどう自社内に導入するかということに熱心に取り組みました。これがアメリカにおける「第一次TPSブーム」で、ここからリーン生産のアメリカでの普及が本格化してゆくのです。
しかし、ジャストインタイムはすべての企業に適用できる方式ではありませんし、有効な方式ではありませんでした。製品のライフサイクルが短かったり、季節変動が大きかったり、流通ルートが複雑で価格の変動が大きいなどの特性があったり、繰り返し作業が少ない受注設計製造スタイルや、ほとんどの工程を装置内で行う装置産業などではリーン生産を行うのは比較的困難だとされてきました。
TOCが成立した80−90年代以降の生産環境では、製品ライフサイクルの短命化や顧客ニーズの多様化が進み、それに対応するために、極めて多くの品種を短期間で生産する事が求められました。これによって様々な変動や不確実な事象が発生、結果として製造ラインのアンバランスが生じ、ボトルネックを恒常的に発生させ生産ラインの安定稼働を妨げました。これに対応するため、TOCはTPSを始め、従来の常識であったそれぞれの工程能力がバランスした状態である、バランスラインという発想を捨て、需要の変動がもたらすアンバランスな環境下では、工場全体の生産性(能力)は相対的に能力が一番低い、ボトルネック工程に制約されるという、良く考えてみれば「当たり前」の事実に着目するところからスタートしました。ですから「制約(Constraint)」とは、工場で言えば「ボトルネック工程」であり、企業全体で考えれば、組織が目指す目標(ゴール)の達成を妨げている「キーファクター」という事になります。
日本に学べ、そんな状況の中で、イスラエル出身の物理学者エリヤフ・ゴールドラット博士(Eliyahu M Goldratt, 1948年- 2011年)がTOC(Theory Of Constraints:制約理論)という一見風変わりな理論を主張します。リーン生産が日本の製造業の秘密兵器であったとしたら、TOCという手法はアメリカ製造業が日本企業に追いつくための秘密兵器だったといえるかもしれません。
TOCの始まりは、1970年代後半でした。イスラエルで物理学の研究をしていた博士のもとに、工場を経営していた友人が生産スケジュールの問題を持ち込んできたのです。博士はこの問題に、いくつかの独創的な発想を入れることでそれまでとは違う生産スケジューリングの手法を開拓しました。ゴールドラット博士はそれ以来生産の問題に強い興味を持ち、この手法をさらに進展させて画期的な生産スケジューリングのソフトウェアのアルゴリズムを開発しました。そしてそのソフトウェアを販売するための会社を米国に設立して、自ら会長の座につきました。そのソフトウェアはOPT(Optimized Production Technology)と呼ばれ、一躍世間の注目を集めたのです。
OPTのアルゴリズムは企業秘密を理由に一切公開されなかったため、OPTは神秘のベールにつつまれていました。しかし導入ユーザーからは設備投資を全くしないのに工場の売上が増え、仕掛かりが大幅に減ったといった報告が相次ぎ、OPTは自動車産業を中心に大手企業に順調に売れました。さらに博士はOPTの背後にある考え方を小説の形にまとめて出版することを思い立ちま、「ザ・ゴール」という小説を出版します。ベストセラーとなった小説は思わぬ効果を生み出す事となします。
一部の読者からはOPTを導入しなくても、この小説通りに改善を実行したところ大変な効果が出たという反応がありました。そこで博士は「ザ・ゴール」に描いた、ものづくりのオペレーション・マネジメント(管理技術)の世界を開拓して、継続的改善(Process of On Going Improvement)という活動に広げる方がはるかに大きな成果が出ることに気づきこれをTOCと名付けて普及していったのです。その後「ザ・ゴール」に続き「ザ・ゴール2」「クリティカルチェーン」など、多くのビジネス小説を発表し、クリティカルチェーンと呼ばれるプロジェクトマネジメント手法(CCPM)や、アンリフューザブルオファー(URO)れた、進化版の考え方だったのです。
※今回のコラムは、村上悟の著書「不確実な時代に勝ち残る、ものづくりの強化書(クロスメディアパブリッシング)」から紹介させて頂いています。
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