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【106万?130万?】年収の壁等に関する具体的な議論がスタート


厚生労働省から「第7回社会保障審議会年金部会」の資料が公表されました。今回の議事は、「第3号被保険者制度について」と「女性の就労の制約と指摘される制度等について(いわゆる「年収の壁」等)」です。政府は当面の措置として、短時間労働者への被用者保険の適用拡大による従業員の手取り減少分を穴埋めした企業を支援する制度を令和5年10月にも始める方針ですが、この部会で議論されるのは、その後の抜本的な制度の見直しの内容です。

厚生労働省でも年収の壁等に関する具体的な議論が始まったということで、注目を集めています。同省は、いわゆる「106万円の壁」への対応策として、新たに保険料負担が生じるパート従業員らの手取りが減らないように本人負担分の保険料を減免する案を示していますが、大半の委員から、その案を疑問視する意見(不公平感が強すぎるなど)があがっているということです。

 

ここでは、今回提出された資料に示されている「年収の壁」等への対応策の基本的な考え方を紹介いたします。


いわゆる「106万円の壁」への対応策の考え方

 

  • いわゆる「106万円の壁」では、保険料負担が増えるが厚生年金給付も増える。これは全ての厚生年金被保険者に共通であり、適用拡大に伴う短時間労働者のみ異なる取扱いとなるわけではない。

  • 他方で、給付のことは考えず、「壁」を境にした保険料負担による手取り収入の減少のみに着目すれば「壁」を感じる者が存在することから、これへの対応は「保険料負担による手取り収入の減少をどうするか」を出発点として考えることが基本となる。

 

なお、現在の適用要件の下においては、最低賃金の引上げ等により、適用時点で「106万円」を意識しない水準まで収入が増加していればいわゆる「年収の壁」は解消される。

 

いわゆる「130万円の壁」への対応策の考え方


  • いわゆる「130万円の壁」では、保険料負担が増えても基礎年金給付は同じであり、これは第1号被保険者と第3号被保険者とで負担と給付の構造が異なることによるもの。

  • したがって、これへの対応は、第3号被保険者のあり方そのものに着目した何らかの見直しを行うか、「壁」を感じながら働く第3号被保険者が少なくなるよう、短時間労働者への被用者保険の適用拡大を一層加速化することが基本となる。


いわゆる「年収の壁」の概要とポイント


 

社会保険の適用区分といわゆる「年収の壁」


短時間労働者の社会保険制度上の適用区分は、各自の働き方(労働時間及び収入)や扶養者の有無によって異なっており、いわゆる「年収の壁」はこの適用区分に起因する。具体的には、第3号被保険者が第1号被保険者に移動する際にいわゆる「130万円の壁」、第2号被保険者(短時間被保険者)に移動する際にいわゆる「106万円の壁」が生じる。


いわゆる「106万円の壁」を意識している第3号被保険者の推計

週所定労働時間が15時間以上であって、いわゆる「106万円の壁」を意識している可能性がある第3号被保険者は、企業規模100人超で約45万人と見込まれ、さらに来年10月に50人超へ拡大した場合には新たに約16万人が加わって、合計で約60万人と推計される。

 この約60万人のうちには、就業調整を行わず厚生年金の適用を希望する方や、たまたま年収がこの水準にとどまっている方がおり、手取り収入の減少を回避して就業調整する方は、さらに少ないことが見込まれる。


配偶者がいる女性のパートタイム労働者の就業調整の有無・理由


直近の令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査によると、配偶者がいる女性のパートタイム労働者のうち、21.8%が就業調整をしており、その理由を「一定額(130万円)を超えると配偶者の健康保険、厚生年金保険の被扶養者からはずれ、自分で加入しなければならなくなるから」と回答した割合は57.3%、「一定の労働時間を超えると雇用保険、健康保険、厚生年金保険の保険料を払わなければならないから」と回答した割合は21.4%となっている。


適用拡大の短時間労働者への影響について


  • 被用者保険の適用拡大に対する短時間労働者の認知度については、すでに適用となっている企業の短時間労働者において、75%以上が認知していた。

  • 令和4年10月の適用拡大に伴う被用者保険の加入状況をみると、適用拡大前に国民年金第1号被保険者であった者においては、約77%が加入したが、第3号被保険者であった者については、48%が回避したと答えた。

  • 加入した理由としては、「勤め先から言われたから」が多く、「将来の年金額を増やしたいから」、「保険料の負担が軽くなるから」などが続いた。一方で、加入しなかった理由としては、「手取り収入が減少するから」が多く、「配偶者控除を受けられなくなるから」、「健康保険の扶養から外れるから」などが続いた。


年間総実労働時間の推移

年間総実労働時間は減少傾向で推移しているが、これは一般労働者(パートタイム労働者以外の者)の総実労働時間についてほぼ横ばいで推移するなかで、総実労働時間が比較的短いパートタイム労働者の比率が平成8年頃から高まったこと等がその要因と考えられる。

 総実労働時間を就業形態別にみると、一般労働者はおおむね2,000時間台で推移していたが、平成30年以降、減少傾向にある。また、パートタイム労働者は長期的に減少傾向で推移し、令和元年には997時間と1,000時間を下回った。

 

パートタイム労働者の労働時間が減少している要因

「毎月勤労統計調査」によると、パートタイム労働者の総実労働時間は、減少している。その要因としては、①、②が考えられる。

 

  1. パートタイム労働者の労働時間低下は、65歳以上の高齢かつ短時間の労働者の増加が考えられる

  2. 長時間働くパート労働者の全体に対する構成割合が減少し、ごく短時間で働く者の割合が増加していること

 

  • 短時間労働者(男女計、年齢計)の月間所定内労働時間の階級別構成比の2012年から2019年にかけての変化をみると、90時間以上の階級の構成比は総じて低下し、90時間未満の階級の構成比は増加している。その要因として、パートタイム労働者(年齢計)の月間出勤日数が減少していること(2013年:15.6日 → 2021年:13.9日)が考えられる(1日あたりの所定内労働時間はおおむね横ばいとなっている)。

  • 非正規の高齢雇用者が現在の雇用形態についた主な理由として最も高いのは、「自分の都合のよい時間に働きたいから」(2013年:30.1% → 2021年:34.5%)。

  • 「令和4年労働経済の分析」でも、パートタイム労働者の労働時間の減少傾向について「高年齢者等の労働時間が比較的短く、月間出勤日数が比較的少ない層の労働参加がこの間進んでいることが背景にあると考えられる」と分析。

 

全世代型社会保障構築会議報告書(令和4年12月16日)(抜粋)


女性の就労の制約と指摘される制度等について

女性就労や高齢者就労の制約となっていると指摘される社会保障制度や税制等について、働き方に中立的なものにしていくことが重要である。この点に関し、被用者保険が適用されることのメリットを分かりやすく説明しながら、適用拡大を一層強力に進めていくことが重要である。


 被用者保険適用拡大の更なる推進に向けた環境整備・広報の充実

今後、被用者保険の更なる適用拡大を実現するためには、新たに対象となる事業主や労働者に対して、被用者保険の適用に関する正確な情報や、そのメリットについて、分かりやすく説明し、理解を得ながら進めることが極めて重要である。厚生労働省のみならず、業所管省庁もメンバーとする政府横断的な検討体制を構築し、事業主の理解を得て円滑に進めるための具体的な方策を検討すべきである。

また、いわゆる「就業調整」の問題に対しては、被用者保険適用に伴う短時間労働者の労働時間の延長、基幹従業員として従事することによる企業活動の活性化などの好事例を、業所管省庁の協力を得て積極的に集約するとともに、これらの好事例や具体的なメリットを労働者や事業主が実感できるような広報コンテンツやその活用法について、広報実務の専門家、雇用の現場に詳しい実務家などの参加も得た上で検討・作成し、業所管省庁の協力も得て広範かつ継続的な広報・啓発活動を展開するべきである。

 

被扶養者認定基準(いわゆる130万円の壁)と被用者保険の適用拡大

被用者保険の適用拡大により、被扶養配偶者である短時間労働者が被用者保険加入となった場合、保険料負担が新たに生じるものの、給付も充実するため、年収130万円の被扶養者認定基準を意識せず働くことができるようになる。


年末の就業調整と被扶養認定基準(130万円)と被用者保険適用基準(106万円)について

被用者保険適用基準(106万円)については、①雇用契約を結んだ時点で適用の有無が決定すること、②時間外手当等は判定に用いないことから、例えば年末の残業を抑えて106万円を超えないように就業調整しても適用には影響しない。

 また、被扶養認定基準(130万円)についても、将来の収入の見込みを総合的に判断することから、年末に一時的に収入が増加したとしても、直ちに被扶養の認定を取り消す要因にはならない


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