6.月の街② | 달동네
梨花洞壁画村ーリノベの先進地域
東大門駅を降りて少し歩くと東大門が見え、道を挟んで公園があった。公園のエッジには城郭がはるか遠くまで連なっており、城郭沿いに登って行けるようになっている。ソウルの城は基本的に山城で、ぐるりと城郭を巡らして防御を固めるというのが基本的な都市の作られ方だった。その点ではヨーロッパの都市形成の歴史と似ている。
現在も城郭な相当な距離で保存されており、ちょっとしたハイキングコースにもなっている。少し登って振り返ると下には東大門、少し奧には東大門デザインプラザが見え、ソウル都心の風景を眺望することができる。おそらく夜景も月も綺麗に違いない。ちなみにドラマ「マイ・ディア・ミスター〜わたしのおじさん〜」で、主役のイ・ジアンとおばあさんが月を眺めるシーンがあるのだが、その撮影はこの城壁を登った先にあるナクサン公園だという。やはり眺めの良い場所なのだ。
さらに登っていくと古い建物をリノベーションしたオシャレなカフェやレストラン、雑貨屋などが見えてきて街の雰囲気が変わってきた。ここまで歩いてきた城郭はいわば尾根上に建設されており、東西とも街に入ろうとすると緩やかな坂道か階段で下っていくことになる。
城郭の西側は「梨花洞(イファドン)」と呼ばれる地域で、壁画村として有名になった。飲食店やギャラリーなども集積し、観光客も若者も多いという印象だ。
街に足を踏み入れてみると、階段もある狭い通路沿いに多くのカフェやレストランが並んでいる。デッキでコーヒーでも飲むと、眺めがいい。リノベ系の店のデザインは様々だが、色使いが日本より自由という感じだ。かといって調和が取れていないというわけではない。オーナー達のデザインセンスがいいのだろう。
階段を降りていくと随所に壁画というより「壁・塀アート」が出てくる。高齢化が進み、空き家が増えた地域だとしても、街自体を華やかにしていくのは悪くはないだろう。
6月初旬だと言うのにこの日もそこそこ暑く、カフェで休憩していると、向かいの席に座った女性が熱心に本を読みながら、ゆったりとした時間を過ごしている。繁華街にはないスピード感と開放性がこの街にはあるのだ。
釜山・甘川文化村ー観光と住宅地マネジメント
甘川文化村は典型的なタルトンネである。朝鮮戦争後に帰国者が一気に流入してバラックを建て、住み始めた経緯があるという。それにしても上から見ると圧巻の風景である。すり鉢状の地形にびっしり家が建ち並び、谷に向かって幾本もの階段が伸びている。水平に走る曲がりくねった道と、縦につなぐ階段が交差し、街を歩くと何とも言えない迷宮観を感じることができ、楽しい。
正確なことは知らないが、現在甘川文化村は観光地としても人気を博し、年間300万人以上の入込みがある。そうなったのはこの15年ぐらいの取組の成果によるものだという。街には「甘川文化村」と書かれたゲートがあって、そこから街に入ると甘川文化村の歴史博物館がある。地域の歴史と成り立ちが写真や資料で解説されているのだが、この場のデザインもなかなか洒落ているのだ。
更に歩いて行くと、数件のカフェやレストラン、雑貨屋などが並ぶが、奥にはいっていくとお店はなく、基本的には住宅地である。しかし、梨花洞と同じように、随所に「壁画」があり華やかな通りがつくられている。建物1つ1つも色鮮やかにペイントされ、一瞬ヨーロッパ地中海側に来たのかと思わせる雰囲気もある。
このまちづくりには地域で色々議論があったらしい。それもそのはず、基本的には住宅地なのだから、人を呼んで観光地にするのには反対もあるだろう。しかし、この地域では観光客を誘致しマネジメントする組織を設立し、観光収益の一部を地域の生活環境の改善に投じることで地域の了解を得たようだ。このような自立型の地域運営・地域経営ができている背景にはどのような事情があるのか。
梨花洞にしても甘川にしても、アーティストが重要な役割を担って居ることは間違いなさそうだ。アートのレベルについても色々議論があるだろうが、そのあたりも徹底的に議論するのが韓国流のやり方ではないかと想像する。
梨花洞を抜けて下まで降りると、少し寂しい街に出た。もう少し行くと大学路だ。道ばたで地域のおじさんがボードゲームに興じている。何のゲームだったか、名前は知らないのだが、老人達が街でゆっくり時間を過ごしている様子が随所に見られるのも、今の日本にはあまりない韓国の都市の特徴かなと考えかながら再び都心へ戻った。