「北匈奴の軌跡 草原の疾風」第三章(2)
三
緑洲一帯は、果樹の香りに家畜の臭いが混ざり合い、人々の交わす声々に家畜の鳴き声が交ざって、独特の空気を醸している。
「ここを発つと当分の間、緑洲はないそうです」
ボルテがいろいろ仕込んでくる。鷲亞留は頷くと、緑洲の彼方に視線を投げた。
(水は、どこかから来てどこかへと流れる。緑洲とは、その流れがたまたま地表に顔を出したものであろう。さすれば、この近くに異なる緑洲があってもよさそうなものだが、ここにしか水はないという。やむなく大量の水を携えるとしても、旅を続ける限り