時価総額10兆円企業「Stripe」はいかにして生まれたのか
ご無沙汰しています。小林豪と申します。
先日、こんな記事を書きました。
この中でPayPalの強力なライバルとして出てきたのがStripeです。
今年3月16日のニュースではStripeの想定時価総額が10兆円に上るとされました。
時価総額10兆円というと中国のBytedanceやアメリカのUber、SpaceXを凌ぐ規模です。ちょっと化け物すぎますね。
自分はStripeの名前は知っていましたが、具体的にどんなことを提供しているのかをあまり知らなかったので、今回はStripeを深掘りしていきたいと思います。
※前回の記事はとっ散らかりすぎたのでちょっと体裁は整えます!
Stripeとは?
早速Stripeについて調べてみましょう。
Wikipediaによると、
Stripe, Inc. は、カリフォルニア州サンフランシスコとアイルランドのダブリンに本社を置く、金融サービスおよびSaaS企業である。
同社は主に、eコマースウェブサイトやモバイルアプリケーション向けに、決済処理ソフトウェアとアプリケーションプログラミングインターフェース(API)を提供している。
であるそうです。
創業者はジョン・コリソンとパトリック・コリソンという起業家兄弟です。2010年設立ですね。
概要はこの辺りにして、具体的なサービス内容をみていきましょう。
提供サービス
Stripe Payments
Stripeのサービスの中心ですね。基本的に他のサービスはこのサービスの周辺をカバーしているイメージでいいでしょう。
このサービスはAPI連携によってサイトに数行のコードで決済機能を埋め込むことができるもので、プログラミングに関するリテラシーが高くなくとも簡単に利用できるのが強みです。
また、対応通貨は135以上、支払いフローのカスタマイズ性なども高く評価されており、今ではGoogleやFacebookからWantedlyやSmartHRまで幅広い企業に導入されています。
手数料は月額費用や導入費用などは無料、トランザクション当たり3.6%のみと非常にシンプルになっています。(追加サービスや国際送金の場合は追加費用が必要)
このStripe Paymentsを軸にさまざまな関連サービスも提供しています。
これもみていきましょう。
Stripe Billing
これは主に定期支払いの効率化を進めるツールです。
月額課金や従量課金など多様な請求モデルが現れて広まっている昨今において、このBillingの機能は非常に重宝されています。
Stripe Billing APIを用いることにより、定額料金、複数料金、ユーザー数ベースの料金、使用料ベースの料金など様々な支払いパターンを導入できます。
手数料は定額課金の一回あたり0.5%です。わかりやすくていいですね。
Stripe TERMINAL
※提供国はアメリカとカナダのみ
Stripe TERMINALはオムニチャネルでの取引を効率化するためのサービスです。
オムニチャネル…
ネットだけでなく店舗などリアルの場を含めたあらゆるチャネルを連携させて顧客との接点を持って売上をアップさせる方法
オムニチャネル戦略とは?事例・メリット・成功する4つの ..
少し紛らわしく言いましたが、簡単に言えばPOSシステムですね。
対面での決済をこのStripe TERMINALで取りに来ていると言うことでしょう。
ただこの領域にはSquareがいますから広まっていくかはわからないですが、決済全体を司る存在になろうとしてるStripeの野望が伺えますね。
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このほかにも様々なサービスがあります。
例えば、プラットフォーム方ビジネスの決済を効率化するStripe Connectや会社設立を効率化するStripe Atras、会社のデータをまとめサイロ化を防ぐStripe Sigmaなど。
全部紹介しようと思ったのですが、多すぎて諦めました笑
それくらい多様なニーズに応えられるサービスが整っているということですね。
ちなみに最近で言うと、Stripe Pressという出版社や気候変動に対する研究などを支援するサービスStripe Climateなど、決済に留まらない活動をしています。
非上場企業とは思えない規模に成長してきているStripe。この先の主役になりそうですね。
Stripeなぜ成功したの?
正直この問いに少しの文章で答えるのは不可能だと思うんですが、いい記事を見つけたので引用させてもらいたいと思います。
2つの英語記事の共通認識等をまとめています。また意訳や追加情報がありますので、ご了承ください!
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要因①:【開発者優先の製品開発】ーーーPayPalやGoogle Walletらと市場の間にギャップを発見した。
Stripeが2010年に参入した決済業界はかなり競争が激化して居ました。業界トップランナーのPayPal、巨大企業Google、Appleなどブランド企業がひしめいていたのです。
しかし、コリソン兄弟はサービス提供者と市場にはギャップがあると感じていました。開発者が苦労していたのです。
手軽にECサイトが作れたり、個人でのインターネットビジネスが広まるなか、決済システムを導入することは容易ではなかったのです。
そこに目をつけたコリソン兄弟。たった7行のコードで決済システムを導入できるサービスを一年以上をかけて作り出しました。またこのサービスは決済時に利用者のWebサイトから決済業者のサイトに行くことなく、決済を完了させることができます。よりスマートというわけです。
簡単なAPI連携で導入できるバックエンドの優位と、利用者のWebサイト内で決済をできるフロントエンドの優位がStripeを急成長させたと言えるでしょう。
要因②:【クチコミでの成長】ーーーレガシープレイヤーへの潜在的不満
要因①と通じる話ですが、Paypalなどのレガシープレイヤーに対し、利用者は潜在的な不満を持っていました。解決されることによって露見した不満はクチコミとなって大きく広がりました。
また、YCombinatorの緊密なネットワークからも恩恵を受けました。Stripeの初期顧客となりうるアーリーアダプターに対してYCombinatorのパートナーらのツイートは効果を発揮しました。
要因③:【プライシング】ーーー圧倒的にシンプル
事業規模、地域、回数、どれもStripeの料金には影響しません。支払う必要があるのはトランザクションの2.9%+30セントです。
他の決済業者とは違い、圧倒的にシンプルになったプライシングも魅力でした。
このようなシンプルなプライシングは他のSaaS企業の良い手本となっています。
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こう見ると非常に理に適ってますよね。すごく美しい戦略とビジネスモデルって感じがします。
創業者どんな人?
前述の通り、Stripeの創業者はパトリック・コリソンとジョン・コリソンという起業家兄弟です。それぞれを詳しくみていきましょう。
Patrick Collison
名前:Patrick Collison
出身:アイルランド
生年月日:1988年9月9日(32歳)
学歴:キャッスルツロイ大学、マサチューセッツ工科大学中退
純資産:115億ドル
アイルランド感溢れるイケメンの兄・パトリック。
個人的には映画アバウトタイムやレヴェナント、ピーターラビットなどで知られる俳優ドーナル・グリーソンに似てるなぁと思いました。
👆ドーナル・グリーソン
話を戻すと、創業時は22歳ですね。めちゃくちゃ若い。
10歳の頃からパソコンに親しみ、MITへ入学。
MITを辞め、1個目の会社を立ち上げて買収された後にStripeを創業したそうですね。買収額は500万ドル。ちなみに当時16歳だった弟のジョンも参画しています。
ちなみにめちゃくちゃ読書家らしいです。
John Collison
名前:John Collison
出身:アイルランド
生年月日:1990年8月6日(30歳)
学歴:ハーバード大学
純資産:114億ドル
ジョンもまた若い頃からパソコンに親しみ、8歳の時にリムクック大学でコンピューターコースを受講しています。小さい頃からITに親しんでいるのは羨ましい限りです。
2007年には兄パトリックと共に起業、売却。
2010年にStripeを創業。
また、30代以下の億万長者トップ10のなかの一代で金持ちになった3人の中の1人です。あと2人はスーパーモデルのカイリージェンナーとSnapのエヴァン・シュピーゲルです。錚々たる面々。
ちなみにピアニストでもあり、パイロットでもあるそうです。は?
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こういった前世どんだけ徳を積んできたんだよ系兄弟が創業者です。ちなみにお父さんは電子技術者、お母さんは微生物学者らしいです。
世の中にはこんな人間がいるんですね。嫌になります。
Stripeの歴史
ここからはStripeがどんな歩みをたどってきたのかを紐解いていきます。
【2008年】
決済に革命を起こしたPayPalがeBayに買収されたのち、Eコマース業界は成長を続けていました。一方その成長スピードは決済サービスのそれよりも高く、決済に関する悩みは尽きませんでした。
それに課題意識を持ったパトリックとジョンは1つ目の会社Automaticを500万ドルで売却し、誰もが一日でアプリやサイトに7行のコードで決済システムを導入できる構想を考え始めました。実現すれば、数週間かかっていたものをコピペで済ますことができるようになります。
【2010年】
兄弟二人は大学を中退、YCombinaterからシード資金を確保し、サンフランシスコでStripeを立ち上げました。
7行のコードで決済システムを導入でき、細かい修正なども不要なサービスの提供開始です。
【2011年】
彼らはある二人の人物に近づきます。PayPalの創業者ピーター・ティールとイーロン・マスクです。
ジョンは「PayPalの創業者に現状の決済システムには欠陥があると言うのは気が引けた」と後日談で話していたらしいですが、無事二人に認められ、ピーター・ティールはセコイアキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツと共に200万ドルのシードラウンドを主導しました。
ちなみに評価額はおよそ2000万ドル。この時はプライベートベータ版だったというから驚きです。
【2012年】
2月にはセコイアキャピタルを主導としてシリーズAの調達を完了。評価額が1億ドルで1800万ドルの調達と言われています。
7月、StripeはシリーズBラウンドの調達を完了したと発表しました。
この時はGeneral Catalystが主導、ピーター・ティールやセコイアキャピタル、Elad Gilなどが続き、およそ2000万ドルの出資を受けました。
ある情報筋によるとこの時のStripeの評価額は5億ドル程度だったようで、早くも非常に高い評価を受けています。
業績に関する数字はStripeは公表しようとはしなかったものの、Squareのように伸びていると言及したようです。
Squareの初速も半端かったらしいので、同レベルで伸びているとなるとすごい速度ですね。
またパトリックは10万のアカウントがあると言っており、会社としても規模を拡大しています。まさに急成長ですね。
また9月にはいくつかの新機能を発表しています。その中の目玉は請求書処理の機能とサブスクリプション機能(定期決済機能)でした。
またマーケットプレイス型決済に対応したStripe Connectも提供を開始しています。
これは有名どころでいくとハイヤー配車サービスのLyftが導入しているサービスです。Lyftでは「乗客からLyft」と「Lyftから運転手」への2つの決済が発生します。
これをモバイルアプリ一つで完結できるのがStripe Connectです。決済という大枠の中を全部取ろうとする姿勢がわかりますね。
また地理的な拡大も進んでおり、手始めにカナダに進出しています。
【2014年】
シリーズBの調達以降はヨーロッパに進出したり、ビットコイン決済のテストをするなど急速にその勢力を伸ばしていく中、1月にはピーター・ティールなどによって組織されたFounders Fundが主導してシリーズCの8000万ドルの資金調達を行いました。
また同年7月にもシリーズCラウンドで医療系ユニコーンOscarの創業者Josh KushnerのVCであるThrive Capitalを主導に7000万ドルの調達を完了させています。この時のバリュエーションはなんと35億ドルです。
【2015年】
この年、ついに日本にStripeが上陸します。5月、三井住友カードと提携、加盟店契約業務を委託することとなりました。
7月にはVisaと連携し、50億ドルのバリュエーションでシリーズCの調達を行います。
この時の投資家は、GoogleやAmazonなどに投資実績があり、有名投資家のジョン・ドーアが在籍するKPCBやVisa、Amex、セコイアキャピタルなどでした。
【2016年】
Stripeの2016年はAtrasのリリースから始まりました。
この新サービスAtrasはスタートアップ向けのツールで、法人設立、株式発行、取締役の追加、銀行口座の設定などを効率化するものです。
決済の枠を飛び越えて、より大きなプラットフォームを提供し始めたことになります。
また10月には日本の招待制ベータ版を終了し、本格的にサービスを提供し始めています。またこれにより三井住友銀行が投資家として参画しています。ちなみにこれでStripeが本格的に存在している国は26カ国です。
またシンガポールにも参入していて、アジアも本格的に取りに行っています。
そして11月には、90億ドルの評価額で1億5000万ドルのシリーズD調達を完了させました。
この時に主導した投資家はGoogleの傘下であるCapitalG、General Catalystです。
【2017年】
Stripeは2016年、4月には起業家のための知識共有コミュニティのIndieHackers、7月にはオンデマンド企業が税務報告管理支援を行うPayableを買収しています。
また、6月は完全カスタマイズ可能なSQLツールであるSigmaをリリースしました。これにより本格的なデータ分析が可能になりました。これも開発者目線のサービスですよね。
【2018年】
Stripeはまず4月にビットコインのサポートを停止しました。
これはビットコインが通貨よりも資産としての要素が強くなったことで数分程度で処理しなければならないトランザクションには不適切だと考えたからだそうです。
そして8月にビッグニュースが流れました。Stripeが対面支払い用の新製品を発売したのです。
ジョンはSquareとは顧客属性が違うと説明していますが、僕は正直Squareと競合していると思います。
オンライン決済に続き、対面決済の競争も熾烈を極めています。どこが覇権を握るか見ものですね。
また翌月にはキャッシングサービスも検討しているというニュースも出ました。PaypalやSquareに続いての参入で、ここも競合するかもしれないですね。バチバチだ。
また同じ月にタイガーグローバルマネジメントからシリーズEラウンドで2億4500万ドルの調達を行なっています。評価額は200億ドルです。前回が90億ドルなので伸びが半端じゃないですね。
【2019年】
Stripeは1月にタイガーグローバルマネジメントからシリーズFラウンドで1億ドル調達し、2019年をスタートしました。
4月にはTouchtech Paymentsを買収します。これは銀行と協力して強力な顧客認証の構築と管理を支援するアイルランドのスタートアップです。
そしてこのあたりからStripeが出資する企業も増えてきます、一つは10代用銀行を提供するStep。モバイルベースの銀行サービスでミレニアル世代を狙い撃ちしています。
そして9月。Stripe Capitalの登場です。テストをしているというニュースの一年後の発表です。このサービスではStripe上のデータを元にローン額を決定します。Stripe上に眠っているデータを活用する良いサービスだと思います。
そして同月に法人用クレジットカードもローンチします。これもStripe上のデータを活用して限度額を決めています。ちなみに手数料や金利はなく、トランザクションに応じての交換手数料で収益を上げるモデルです。
またまた同月に360億ドルのバリュエーションでシリーズG調達を行なっています。調達額は6億ドルで、セコイアキャピタル、General Catalyst、アンドリーセン・ホロウィッツを主導に行われました。
【2020年】
2020年になってもStripeの勢いは止まりません。それどころか加速し続けます。
まずは投資家としての動きです。Stripeは2020年にカスタマーサポートプラットフォーム(CRMソフトウェア)を提供するAssenbledやフィリピンの支払い処理スタートアップPayMongo、ECサイトへのログインや支払いを効率化するプラットフォームFastに出資しています。
またナイジェリアのAPIベースの決済サービスであるPaystackを買収しています。ある情報筋では価格は2億ドルを超えているようですね。アフリカへの進出への足掛かりでしょうか。
また4月にはシリーズGエクステンションで6億ドルの調達。バリュエーションは360億ドルで、主導はセコイアキャピタル、General Catalyst、Google傘下のVCであるGV、アンドリーセン・ホロウィッツでした。
10月にはStripe Climateを立ち上げます。これはStripeを使用している企業が各トランザクションの手数料率を設定して、気候変動への貢献をできるというシステムです。寄付する企業とされる企業がいるのも面白いところです。
そして12月。まだ招待制であるようですが、Stripeはかなり野心的なサービスを打ち立てます。それがStripeTresuryです。これは銀行と連携してサービスとしての銀行APIを提供するものです。
これは組み込みファイナンス(Embedded Finance)と言われるFintechの新しい大きな潮流のことで、FinatextのCFO伊藤さんがnoteで説明しているのを引用させていただくと、
「Embedded Finance」とは、直訳すれば「組み込み金融」で、「金融以外のサービスを提供する事業者が金融サービスを既存サービスに組み込んで金融サービスを提供する」ということだ。
日本語にすると「プラグイン金融」というのがニュアンスとしては近いだろう。金融サービスに必要な基幹システムをAPIベースで提供することで、誰もが低コストに金融サービスをエンドユーザーへ提供することが可能になる。
これはかなり野心的ですよね。金融以外のサービス提供者が金融サービスをシームレスに組み込んでサービスできるということらしいですね。具体例も出してくれてます。
例えば、顧客が「洋服を買いたい」と考えた時、購入の瞬間にそのショップがお金を貸す選択肢を提示し、購入者が簡単にお金を借りて購入資金に充当できるようにするといったものだ。
めちゃくちゃ面白いですね。そのうちそれを管理するSaaSとかも出てくるのだろうか。「Embedded Finance」今後注目です。
【2021年】
2021年は少しですが動きがありました。
3月15日の資金調達です。バリュエーションは950億ドル、調達額は6億ドルです。ラウンドはシリーズH。聞いたことない笑
調達元はAllianzとAxaという二つの保険会社とBaillie Gifford、Fidelity Management&Research Company、セコイアキャピタル、母国であるアイルランドの国庫管理局(NTMA)です。
評価額はForbesによると2月17日時点で1150億ドルだと言われていましたが、この調達ラウンドでは950億ドルとバリュエーションが下がっています。要因は不明です。
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低迷の時期もなく、企業価値が上がりまくるStripe。決済という競争も多く、ニッチでもない分野で圧倒的スピードで勝っているのは、天才コリソン兄弟のプロダクトセンスと経営センスの賜物でしょう。いつかこんな企業作ってみたい。
まとめ
今回の記事では決済業界に風穴を開けたモンスター企業「Stripe」を紹介しました。
リサーチが楽しくて8500文字近く書いてしまいましたが、自分の勉強にもなりました。
今後のStripeの注目も期待してみていきたいですね!
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参考文献
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