【ストーリーとしての競争戦略編20:戦略ストーリーを読解する1”ガリバーのアクション” 】
前回、上記リンクで第五章まで総集編を投稿しました。引き続き一橋大学の楠木健教授の「ストーリーとしての競争戦略」について対話形式を使って解説していきます。残りは6章と7章ですが最後までよろしくお願いします。
前回のザゴール2編マガジンで製造から事業管理部への兼務となり、思考プロセスでの問題解決をについて学んだ紫耀(ショウ)は、関連子会社の社長をしている健にたまたま会います。お互いたまた本社出張だったようです。そこで、よい戦略とは何かについて議論を開始します。そして、オンラインで、勉強会をしていくことになり、オンラインで毎日実施しています。これでで第5章まで学びました。今回は第6章「戦略ストーリーの読解」の第1回目解説をします。ガリバーのケースを読解していきます。
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🧒:おはようございます。今日から第6章ですね。
👱🏼♂️;ああ、第六章はこれまでの章で説明した内容を理解した上で実際のケースを読解していく。
◆戦略ストーリーを読解する
👱🏼♂️:これまで事例として取り上げてきたマブチモーター、サウスウエスト航空、スターバックスコーヒーといった企業の戦略ストーリーは、いずれも「戦略ストーリーの殿堂」として楠木さんが紹介している事例だ。
🧒;素晴らしいストーリーばかりでした。
👱🏼♂️;本章で取り上げる、ガリバーインターナショナル(以下、ガリバー)の戦略ストーリーは、こうしたクラシックとでもいうべき戦略ストーリーに並ぶ「殿堂入り」に値すると言っているんだ。
🧒:非常に目立つ、新たな試みをしたのでしょうか?
👱🏼♂️:いや、これから事例を解説していけばわかるんだが、ガリバーのストーリーは、取り立てて新しい要素で構成されているわけではないんだ。まず、中古車業界はガリバーの創業の時点ですでに相当に成熟しており、たいして魅力のある業界とはいえなかった。ガリバーは画期的な技術の開発に成功したわけでもない。
🧒:それまでに誰も手をつけていないような新興市場に乗り出したわけでもないのですね。それに、「インターナショナル」という言葉が社名に入ってはいますが、今のところはわりとドメスティックな会社ですよね。
👱🏼♂️;そう。だから、中古車業界に新しいストーリーを持ち込んで成功した、といえばそれまでなんだが、言い換えれば、ガリバーの武器は独自の戦略ストーリーにしかなかったわけなんだ。ガリバーの戦略ストーリーは従来の中古車業界が当然のものとして受け入れていた「つながり」を大きく変えるものだったんだ。
🧒;シュンペーターのいう、イノベーションですね。
👱🏼♂️;一見してたいして利益ポテンシャルがなさそうな成熟した業界でも、ストーリーだけでここまで成功できるということで、楠さんはこの事例を取り上げたということなんだ。
🧒;内容がまだわかっていないので何とも言えないですが、そこまでストーリーが洗練されていたということなのですね。
👱🏼♂️;その通り。この章では、その事例を解説する。最初は分析や読解に立ち入らず、あえて淡々とした解説をする。それが今回だ。次回、ガリバーのストーリーがなぜ、どのように優れていたのかを詳細に読み解く。最後に、2004年以降のガリバーにも触れつつ、この読解から得られるインプリケーションについてお話していく。計三回でこの章を解説していく。
🧒;わかりました。
◆事例‐ガリバーインターナショナル
👱🏼♂️;じゃあ、事例に入っていこう。2004年のガリバーインターナショナルの業績には目覚ましいものがあった。売上高は前年比28%増の1218億円、営業利益は46%増の七六億円となり、これで1994年の設立以来、10年連続で増収増益を達成することになったんだ。ROE(株主資本利益率)は29%、ROA(総資本利益率)は33%と高水準にあり、財務基盤も安定していた。
🧒;今ググると、ガリバーは2003年八月一日に東京証券取引所一部上場を果たたしているのですね。1998年12月に会社設立からわずか四年で店頭公開、2000年12月に当時としては最短記録で東証二部上場を果たし、東証一部上場も8年12カ月という異例のスピードでの実現だったのですね。
👱🏼♂️:ガリバーの成功の最大の理由は、中古車流通業界に「買取専門」という独自の戦略を持ち込んだことにあったんだ。ガリバーの前身は、創業者で代表取締役社長(当時)の羽鳥兼市が1975年に設立した「東京マイカー販売」であった。東京マイカー販売は従来のやり方で中古車を販売していた。羽鳥さんは20年近く手がけてきた従来の中古車流通に限界を感じ、ガリバーを創業したというわけ。ガリバーのミッションは「自動車業界の流通革命」であったんだ。
◆日本の中古車業界
🧒;「自動車業界の流通革命」ですか。中古業界に対してということですね。
👱🏼♂️:日本の新車販売台数は2003年度には約580万台であり、これは前年度とほとんど変わっていなかったんだ。この年の中古車登録台数は約820万台であった。中古車登録台数は新車販売台数に比べて大きな数字になっているが、実際の中古車の販売は中古車登録台数よりもずっと少ないと考えられた。
🧒;登録台数より、販売数が少ないというところがポイントだったのですね。
👱🏼♂️;そう。そこで流通に目を付けるというわけだ。元の所有者から売却されて新しい所有者に購入されるまでの過程で、中古車の流通には、次の三つのタイプの取引があった。下記だ。
1,中古車を消費者から買い取る「CtoB取引」
2,オークションでの中古車販売業者同士の「BtoB取引」
3,中古中を消費者に販売する「BtoC取引」
🧒;ガリバーはこのうちどれを選んだのでしょうか?
👱🏼♂️;ガリバーの「買取専門」の戦略は、このうちのCtoB取引に軸足を置いていた。従来の中古車業者の事業の軸足は、BtoC取引、つまり一般消費者への小売にあったんだ。中古車は一台一台異なるので、手元にある在庫と顧客ニーズをマッチングさせ、販売に結びつけるのは容易ではない。そこで、マッチングの可能性を高めるために、中古車業者はなるべく多くの中を展示しようとするのが通常だ。
🧒:でも、中古車価格は二~三週間ごとに下落するのが普通ですよね。一年後には三〇~五〇%の価格低下となってしまいますよね。。
👱🏼♂️:だが、大型の中古車展示場で200台並べたとしても、ひと月で60台売れれば御の字というのがこの業界だ。残りの140台の価格は時が経つにつれて目減りしていく。しかも、販売業者としては『高価買取』をうたうのぼり旗のすぐ横に『激安販売」というのぼり旗を立てざるをえないというわけ。中古車販売業というのは根本的な矛盾を抱えていたんだ。
🧒;非常に苦しいですね。
👱🏼♂️;こうした中古車流通の特性がオークション市場を必要としていた。中古車オークションには、車両が会場に持ち込まれる「現中オークション」と、車両を会場に運ばずに画像を利用する「画像オークション」という二つの形態があった。年間約六〇〇万台の中古車が日本にある約一五〇のオークション会場に出品され、そのうち五〇%以上の中が実際に中古車販売業者へと売却されていた。実は、日本のオークションは世界的に見てもきわめて洗練された仕組みを誇っていたんだ。
🧒:そうだったのですね。
◆「買取専門」
👱🏼♂️;そして、ガリバーの最大の特徴は、それまでの中古車業者とは違い、展示場での小売をせずに、消費者からの中古車買取に事業の軸足を定めたことにあったんだ。買い取った車は、後で話すドルフィネット経由で販売される中古車を除いて、原則的にオークションで売却された。
🧒;なるほど。固定費をなるべく削るということですね。
👱🏼♂️;最も高い値段がつくと見込まれるオークション会場へと機動的に出品するため、ガリバーは車を効率的に陸送する事業部門(子会社の「ハコボー」)を持っていた。ガリバーの出品車のオークションでの成約率は約七〇%と、平均成約率五〇%と比べて高い水準にあったんだ。
🧒:20%でも違うのですか。。。どんな秘訣が。。。
👱🏼♂️;今回は、まず事実だけだからまあ、聞いてくれ。中古車オークションは毎週一回開催されるのが通常であったので、ガリバーの買取から販売までの期間は7~10日間であった。これに対して一般の中古車店における車両の在庫回転期間は平均二~三カ月であったんだ。
🧒;そんなに違ったのですか・・。
◆本部一括査定
👱🏼♂️;さらに、ガリバーの買取価格は、本部で一括して決定され、顧客との接点である店舗には価格決定の権限はなかった。
🧒:交渉の余地なしということですね。
👱🏼♂️;交渉は出来ないが、評価の標準化ができるよな。ガリバーの店舗に持ち込まれた車は、メーカー、車種、走行距離、年式、傷の有無、内装の状態などさまざまな要素がチェックされ、これらの情報が査定票に記入される。すべてのチェックが完了すると、査定票はガリバーの本部に送信され、本部の専門の査定士が買取価格を決定し、店舗にフィードバックするという仕組みでなんだ。
🧒:なるほど。中古車の価格は二~三週間で変化するんですよね。だから変動するオークション相場を見極め、落札価格を見通したうえで買取価格が決められたということですね。それだと本社一括査定じゃないとだめですね。
👱🏼♂️;そうだね。その裏返しでもあるが、オークションである程度売れる価格が見えているから値決めもそこを基準にできる。ガリバーはオークション会場での最新の売買記録を反映させた50万件というデータベースをもとに、本部の査定士が一括査定するシステムを採用してデータベースは週二回更新されたんだ。
🧒;そうすると、各種品質および価格の透明性が確保できますね。また、この地域ではこのモデルのこの色がよく売れる、というようなことがわかるため、より高い買取価格を提示することができるわけですね。
◆出店とプロモーション
👱🏼♂️;そう。次に、急速な出店を達成するために、ガリバーは当初はフランチャイズ方式を活用したんだ。ガリバーのフランチャイズ展開における一つの特徴として、中古車業界の未経験者を中心とした採用があったんだ。
🧒;未経験者の採用??
👱🏼♂️:ガリバーが掲げる「クルマの流通革命」には既存の中古車ビジネスにとらわれない人材が必要だと考えたんだ。中古車業界の未経験者を教育することは時間がかかる。しかし、経験者に染みついた習慣を変えるということは、それ以上に手間がかかる。ガリバーの新しい買い方・売り方は、既存の中古車業界のノウハウとは相いれない部分が数多くあるということなんだ。
🧒;奇抜・・。でも確かにその通り、20年のベテラン社員の習慣を変えるには、20年かかりますからね。
👱🏼♂️:プロモーションもがっつりだ。ガリバーは初期の段階からマスメディアを通じた広告に多額の投資を行ってきた。
🧒;藤原紀香さんとか松井秀喜選手が起用されて、頻繁にCMを流していたのを覚えています。
👱🏼♂️;ガリバーは顧客接点を強化する目的でコンタクトセンターにも多額の投資をし、電話やインターネットを通した顧客からの査定依頼を受けた。依頼を受けると、全国の出張拠点から営業スタッフが直接顧客のもとに派遣され、出張査定が行われた。ガリバーが買い取る中の60%は店舗への持込み、40%は出張査定によるものであった。
🧒;40%も。。知名度を上げていて、インターネットや電話で査定依頼を多く受けようとしたわけですね。
◆ドルフィネットシステム
👱🏼♂️;さっき少し話に出たドルフィネットシステムだ。1998年にガリバーは画像による一般消費者への車販売チャネル、「ドルフィネット」の運営を始めた。ドルフィネットでは車両の画像や基本データはもちろん、過去の修理歴や小さなへこみに至るまで詳細な情報が開示されたんだ。また、外装は100点満点、内装は五段階の評価によってトータルな当該車両の価値が評価された。ガリバー店舗で買い取られた中は、次のオークションへ出品するまでの7~10日間に限って、ドルフィネットに掲示された。この期間が終了すると、すべての車はオークションに出品されたってわけ。
🧒;当時としては画期出来だったわけですね。細部まで状態がわかるということは大きいですね。
👱🏼♂️:2004年4月時点でのドルフィネットの販売台数は、累計で約一五万台に達していた。中古車の価値を見極めることが困難な消害者は、実物を見てなんとか判断しようとするが、従来の中古車販売店では細かな情報が開示されていることはほとんどなかったんだ。現車の展示がなく、画像による中古車販売は一般には浸透していなかったが、一台ごとに価値が異なるという性格を持つ中古車販売においては、ドルフィネットのような画像販売が消費者にとっても最良であると考えたんだ。
◆競合他社
👱🏼♂️;ガリバーの成功によって買取専門店の認知度が向上していくにつれて、「買取専門」を掲げる競合会社も増加していったんだ。
🧒:模倣する人たちが増えるのですね。
👱🏼♂️;中古車業界の収益は人気車種を確保する能力によって大きく左右されるため、既存の中古車販売業者や大手自動車メーカーも買取事業に注目していた。
🧒;でも、ガリバーは他社とのスタンスの違いがあったんですよね?
👱🏼♂️;ああ、競合他社は「買取専門」を掲げつつも、一方で消費者への販売も行っているので、買取後はオークションに出すガリバーとは異なったものとなっている。確かに直接消費者に販売することができれば一台当たりの利益率はガリバーに比べて高くなるが、すべての在庫を直接消費者に売り切ってしまうことはできない。
🧒;なるほど、在庫全体の回転率を考慮に入れれば、ガリバーのやり方に優位があると考える。ただし、一台売れたときの高い利益率に慣れている既存の中古車販売業者は、小売をやめられないのですね。
👱🏼♂️;そう。これらがガリバーの実績、事実としてのポイントだ。このポイントだけでは何のことやらだろうけど、次回これらについて戦略ストーリーの読解をしていく。
🧒;なるほど。いくつか、解説してもらった5Cが入っていたと確かに感じました。お願いします。
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今回は、ガリバーのケースの事実関係を記載しました。次回は、6章の続きとして、ガリバーのアクションを戦略ストーリーとして読解していきます。5Cの振り返りになっていきます。
*下記で、noteのコンセプトと、このマガジンとは別のものづくりに関連するマネジメント理論・書籍のリンクを記載しています。もしご興味あれば、覗いていただければ幸いです。
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