【ストーリーとしての競争戦略編13:始まりはコンセプト】
今回のマガジンでは、一橋大学の楠木健教授の「ストーリーとしての競争戦略」について対話形式を使って解説していきます。本マガジンのこれまでの投稿は上記に入れています。
前回のザゴール2編マガジンで製造から事業管理部への兼務となり、思考プロセスでの問題解決をについて学んだ紫耀(ショウ)は、関連子会社の社長をしている健にたまたま会います。お互いたまた本社出張だったようです。そこで、よい戦略とは何かについて議論を開始します。そして、オンラインで、勉強会をしていくことになり、オンラインで毎日実施しています。これでで第3章まで学びました。今回から第4章「始まりはコンセプト」解説してき行きます。
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◆4章「始まりはコンセプト」
🧒;おはようございます。
👱🏼♂️;おはよう。今日から第4章「始まりはコンセプト」に入っていくぞ。
◆起承転結の「起」
👱🏼♂️;戦略ストーリーの支柱となるのが、前章で話しした五つのCだった。長期利益というゴールに向かって最終的に放つシュートが「競争優位」(competitive advantage)に結果としてなる。
🧒;はい。それが最初のCでしたね。そして、ストーリーはそれに向けてさまざまな他社との違いとしての要素(Components)を因果論理でつなげたもので、そして、ストーリーの「筋の良さ」とは因果論理の「一貫性」(Consistency)を指していました。
👱🏼♂️;3つのCまで前章で解説していて、この章では、残りの二つのCのうち、コンセプト (concept)について話をしていく。
🧒;コンセプトですか。お願いします。
👱🏼♂️;一貫性の高いストーリーを構想するためには、終わりから逆回しに考えることが大切だということはすでに話したな。つまり、意図する競争優位のあり方を先に決めるということです。シュートの軸足をWTP(Willingness To Pay)顧客が支払いたいと思う水準)の増大に置くのか、コスト・リーダーシップをねらうのか、はたまたニッチでの無競争をもくろむのか、ここがはっきりしていないと、それに向けたパスの出しようがない。
🧒;はい。そうでした。
👱🏼♂️;サッカーにたとえると、シュートと並ぶ「ツートップ」の片割れがコンセプトなんだ。個別具体的なパス(構成要素)を繰り出す前に、コンセプトを固めておく必要がある。戦略ストーリーはこのツートップから始まる。
🧒;コンセプトと言葉が何を指すのかわかるようでいまいちわからないのですが・・・。
👱🏼♂️;そうだな、コンセプトとは、その製品(サービス)の「本質的な顧客価値の定義」を意味しているんだ。本質的な顧客価値を定義するとは、「本当のとこれ、誰に何を売っているのか」という問いに答えることになる。競争優位はこちらが儲けるための内側の理屈だ。顧客価値という外側の理屈が成り立たなければ、シュートは打てない。競争優位とコンセプトのツートップはあくまでもセットで考える必要があるんだ。
🧒;イマイチまだわからないです・・。
👱🏼♂️;ストーリーの起承転結の「起」に当たるのがコンセプトだ。紙芝居でいえば、「はじまり、はじまり……」のところで出てくるタイトルに相当する。「結」が最終的に構築される競争優位ということになるんだ。筋の良い戦略ストーリーを構築するためには、その起点として本質的な顧客価値を独自の視点でえぐり出すようなコンセプトが不可欠なんだ。
🧒;なるほど、となるとコンセプトが本質的な価値を捉えていなければ、話は始まらないわけですね。「起」がきちんとしていなければ、 「承転結」にどんなに工夫を凝らしても、筋の良い話にはならないですもんね。
👱🏼♂️;そう。リコーの例が本書には載っている。紹介しよう。リコーは一九七〇年代から長期低落傾向にあった業績を、一九九〇年代に入ってV字回復させることに成功したんだ。
🧒;リコーって複写機がメインですよね。
👱🏼♂️;そう。リコーの業績回復を担った主役はデジタル複写機だったんだ。しかし、ここで大切なのは、リコーの戦略ストーリーの起点が、「画像処理のデジタル化」という独自のコンセプトにあり、デジタル複写機という製品はそのストーリーの産物にすぎないということなんだ。
🧒:製品が個別に顧客価値をもたらしているのではないということでしょうか?
👱🏼♂️;そう。さまざまなリコーの製品が画像処理という共通の役割を果たすことによって顧客価値を生み出しているんだ。これが当時の浜田広社長の発想だったんだ。「文書」や「情報」ではなく「画像」の処理という視点は、IPS (Image Processing System)というコンセプトへと昇華されていったんだ。
🧒;なるほど。IPS面白いですね。
👱🏼♂️;このコンセプトが、各事業でそれまでバラバラに製品開発にあたっていた技術者を喚起する力を結果としてもたらした。「要するにIPSの会社である」というコンセプトを得たリコーは、未知の領域だったソフトウェア技術の研究開発に果敢な先行投資を続けたんだ。
🧒;なるほど、その結果として花開いたのが、高収益をもたらしたデジタル複写機だったというわけですね。
👱🏼♂️;コンセプトはストーリーの起点であると同時に、顧客への提供価値という終点でもあるんだ。コンセプトがきちんと詰められていれば、ストーリー全体がシンプルになり、全体を貫く柱が明確になり、それにかかわる人々が共有しやすくなる。
◆本当のところ、誰に何を売っているのか
🧒;でも、やはりコンセプトを作っていくって難しいですよね。
👱🏼♂️;ああ難しい。なぜならば、それは「見たまま」ではないね。
🧒;「見たまま」でない?
👱🏼♂️;誰に何を売っているのか。見たままであれば、答えは自明です。しかし、「本当のところ、何を売っているのか」というのがポイントなんだ。PCの会社は見たままでいえばPCを売っているわけだが、本当のところ、売っているものはPCではない。
🧒;そうですよね。本当のところ顧客が何にお金を払っているかというと、PCを使うことによって得られる何かなんですよね。
👱🏼♂️;「本当に売っているもの」を考えれば、同じPCメーカーであっても、デルとHPではコンセプトは異なります。アップルはもっと違うよな。
🧒;はい。「何を売っているかって? 見ればわかるでしょ、PCだよ……」という見たままの答えであれば、その時点で面白いストーリーはつくりようがないですよね。
👱🏼♂️;コンセプトは顧客に対する提供価値の本質を一言で表現した言葉だ。それを耳にすると、われわれは本当のところ誰に何を売っているのか、どのような顧客がなぜどういうふうに喜ぶのか、要するにわれわれは何のために事業をしているのか、こうしたイメージが鮮明に浮かび上がってくる言葉でなくてはならないんだ。
🧒;リコーはそれをIPSという言葉にしたというわけですね。
👱🏼♂️;このことは、前章でお話ししたベネッセの通信教育事業にも当てはまるんだ。「コミュニティを大切にした継続型ビジネス」というベネッセの発想は、人を軸に戦略ストーリーを組み立てるということを意味している。
🧒;なるほど、その継続性を突き詰めると、「モノ」や「機能」を軸にしたビジネスの組立てから、「人」を軸にしたストーリーへと転換することは必然だったわけですね
👱🏼♂️:一九九〇年代のベネッセの事業は、書籍出版などの単品の切り売りから、継続性を基盤とした事業へと傾斜を深めていった。そのきっかけとなったのが通信教育事業の方向転換だったんだ。ベネッセの通信教育事業は、前身の福武書店の時代の収益源だった「進研模試」の延長に生まれたものです。当初の進研ゼミの顧客価値は「教材」といったモノや「添削指導」という機能で定義されていたんだ。ところが進研ゼミの立ち上がりは失敗続きで、計画どおりに会員数は伸びなかった。それが大きく飛躍することになるのは、会員とその家族を含めた顧客との双方向コミュニケーションの重要性を認識したときだった。赤ペン先生の添削指導も会員とのコミュニケーションを志向したものに徐々に変わり、会員向けの教材だけでなく、『中学生のお母さん』といった雑誌も届けられるようになった。
🧒;おお、つまりモノや答え合わせの機能を売るのではなく、添削を会員や家族とのコミュニケーションを促進するツールとして定義したわけですね。
👱🏼♂️;このように、優れたコンセプトを構想するためには、常に「誰に」と「何を」の組合せを考えることが大切だ。「誰に」と「何を」を表裏一体で考えることによって「なぜ」が初めて姿を現すからね。「なぜ」は、戦略ストーリーにとって一番大切な問いかけだ。「誰に」だけ、「何を」だけでは静止画になってしまい、肝心の「なぜ」についての思考が甘くなりがちなんだ。「なぜ」についての因果論理は「動き」の中にしかない。
🧒;「誰に」と「何を」をペアで考えれば、なぜが発言しコンセプトが動画になっていくということですね。
👱🏼♂️:そう。顧客がその商品なりサービスを認知し、反応し、購人を決断し、使用し、価値を認め、継続的に利用し、利用経験を蓄積し、さらに満足を大きくしていく、こうした一連の動きが見えてくるってことが重要なんだ。
🧒;おお。なるほど。そうした動きのあるイメージを思い浮かべ、実際にそのような動きが生まれるかを突き詰めることによって、なぜその顧客がその商品なりサービスに食いつくのか、なぜお金を払うのか、なぜ喜ぶのか、ぜ喜びが持続するのか、いくつもの「なぜ」が見えてくるということですね。
👱🏼♂️;コンセプトを動画で構想するというと、多くの人が「どのように」という方法論に傾きがちになる。しかし、コンセプトから「誰に」と「何を」が抜け落ちて、「どのように」ばかりが前面に出てくると、コンセプト不全に陥るのが常なんだ。気を付けなければならない。
◆「明日来る」の価値
👱🏼♂️;もう一つ例を出しておこう。アスクルって知っているよな?
🧒;もちろん知っています。明日来るアスクルですよね。
👱🏼♂️;アスクルの強みが、オフィスの消耗品のほとんどすべてが手に入るという利便性と、「明日来る」という翌日配送を約束したサービスにあるということはよく知られいる。
🧒;でも、それだけなら、要するに「品揃え」と「スピード」という話ですよね。ストーリーが優れているというのは読み取れないですね。
👱🏼♂️;そう。これだけではアスクルの顧客価値の本質は捉えきれない。まず、アスクルは、ターゲット顧客を従業員三〇人以下の小規模事業所に絞り込んだんだ。特に一〇人以下のごく小さなオフィスがアスクルの中核的なターゲットだ。こうした小規模事業所で、どういう人が、どういう文脈で、どういう思いで、どのようにオフィス消耗品を買っているのかをよくよく突き詰めたあげくに出てきたのが、「明日来る」だったんだよ。
🧒;小規事業所がターゲットだったのですね。
👱🏼♂️;こうした事業所で実際に消耗品の補充や購入をするのは、典型的なイメージでいえば、パートで事務を任されているスタッフだ。仮に久美子さんとしておこう。その事業所には久美子さん以外に五人しかいません。久美子さんはこまごまとした経理事務を一手に任されて、パートといっても忙しい毎日です。周りの人たちは、文具や消耗品が切れると、久美子さんに買い物を頼むんだ。頼まれると、久美子さんは文具店に買出しに行く。
🧒;ペンやクリップだったら軽いのでまだよいのですけど、コピー用紙を頼まれだりしますよね。それで文房具店が遠かったら最悪です。。。
👱🏼♂️;そう。めちゃくちゃ大変。だし、はっきり言って面倒だと思う。久美子さんにとって、オフィス消耗品を買うとはこういう仕事だ。でも、文具店は「どうしても必要なときに、仕方なく行くところ」だったわけだ。
🧒:なるほど、それでアスクルのコンセプトは、久美子さんのような小規模事業所の消耗品の補充担当の人々の状況や気持ちや行動を見て、絶対に喜ぶだろうという価値を構想したものなんですね。
👱🏼♂️:注文すれば、次の日には届くからね。事前に買い物の計画を立てておく必要もない。消耗品をストックしておくスペースもいらない。重たいコピー用紙の入った袋を提げて階段を上らなくてもよい。きっと担当者は喜んでアスクルを使い始めるよな。簡単に想像できる。そして、なぜが浮かび上がってきてるだろう。
🧒:つまりアスクルは確かに価格でも競争力を持っているが、顧客にとっては単純な価格の安さ以上に、こうした価値のほうが大きかったのですね。
👱🏼♂️;改めだけど、本質的な顧客価値を突き詰めるとは、「誰が、なぜ喜ぶのか」をリアルにイメージするということなんだ。それをするために久美子さんに頼む周囲の人々の心情、こうしたレベルで顧客の問題をリアルにイメージできるかどうかにかかっていまるんだ。戦略ストーリーが動画である以上、その起点にある顧客価値も動画で構想されなくてはならない。その言葉を聞いたときに、ターゲット顧客を主人公にした動画のシーンが見えてくるようなコンセプトでなければ、ストーリーの発火点にはならないんだ。アスクルも一般的な品ぞろえだけでは勝てなかったはずだ。
🧒;なるほど。その意味でもコンセプトが重要になってくるわけです。
👱🏼♂️;おっと、もうこんな時間だ。今回は顧客価値に対するコンセプトの重要性と実用例について解説した。次回は、戦略の因果論理におけるコンセプトの重要な役割について解説していこう。
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今回はここまでです。コンセプトを構築することが起点であること、そのために誰に何をを考えることでなぜを発現させることが重要だとことでしたね。次回は、引き続き4章で、戦略ストーリー全体のつながりにおけるコンセプトの重要性を解説していきます。
*下記で、noteのコンセプトと、このマガジンとは別のものづくりに関連するマネジメント理論・書籍のリンクを記載しています。もしご興味あれば、覗いていただければ幸いです。
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