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【ストーリーとしての競争戦略編17:一貫性と非合理的な選択】

今回のマガジンでは、一橋大学の楠木健教授の「ストーリーとしての競争戦略」について対話形式を使って解説していきます。本マガジンのこれまでの投稿は上記に入れています。

 前回のザゴール2編マガジンで製造から事業管理部への兼務となり、思考プロセスでの問題解決をについて学んだ紫耀(ショウ)は、関連子会社の社長をしている健にたまたま会います。お互いたまた本社出張だったようです。そこで、よい戦略とは何かについて議論を開始します。そして、オンラインで、勉強会をしていくことになり、オンラインで毎日実施しています。これでで第4章まで学びました。今回は第5章「キラーパスを組み込む」の第二回目(全4回)解説をします。

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🧒;おはようございます。

◆一貫性の基盤

👱🏼‍♂️:前回、「店舗の雰囲気」「出店と立地」「オペレーション形態」「スタッフ」「メニュー」の五つのグループごとに、スターバックスの戦略ストーリーの構成要素と、それらとコンセプトの間をつなぐ因果論理を見てきた。第三の場所というコンセプトの実現に向けて実にさまざまなパスが繰り出されていることがわかったと思う。

🧒:はい。そしてそれぞれのパスがコンセプトと明確な因果論理でつながっていることもわかりました。この意味でスターバックスの戦略は「強いストーリー」になっているというわけですね。

👱🏼‍♂️;そうだ。じゃあ、ここで質問だ。この五つの中で、戦略ストーリーの中核に位置するクリティカル・コアはどれだろうか。第三の場所というコンセプトを起点に、WTPの増大という競争優位に向けてストーリーを組み立てている創業者シュルツさんの立場になって考えてみてくれ。

🧒;え?この五つはすべて大切な要素です。どのパスが欠けても、第三の場所は実現できなかったですよね。結果としてWTPのシュートも打てなかったと思います・・。

👱🏼‍♂️;あえて優先順位をつけるとすれば、創業者のシュルツさんにとって「キラーパス」に相当する決定的な構成要素はどれだっただろうかね。

🧒;本当に売っているものが第三の場所だとすれば、最初の「店舗の雰囲気」がキラーパスなのではないでしょうか?いや、他社に簡単にはまねできないという条件を重視すれば、「スタッフ」に体現された組織能力、特に手間ひまをかけたバリスタの育成こそがキラーパスか・・。でも、「出店と立地」がクリティカル・コアだと考えるかもしれません。第三の場所を効果的に伝える条件を備えたところに出店しなければ、その後のストーリーは始まらないですし。。。うーん。わからないっす!

👱🏼‍♂️;「店舗の雰囲気」「スタッフ」「出店と立地」、いずれもそれなりに「決定的に重要」であるという理屈は確かになりたつ。しかし、パスをつなげていく因果論理をじっくり考えてみると、直営方式による店舗運営がキラーパスとして浮かび上がってくるんだ。

🧒;おー、、直営方式なのですか。

👱🏼‍♂️:それぞれの構成要素の間にある因果論理を示したものが下記の図だ。

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「店舗の雰囲気」「出店と立地」「スタッフ」「メニュー」のそれぞれがコンセプトにつながる因果論理(実線の矢印)については、わかるよな。

🧒;はい。そしてこの図を見るとこうしたパスを繰り出し、きちんと維持するためには、直営方式でなければならないということがわかりますね(点線の矢印a〜d)。つまり、フランチャイズ方式では、コンセプトにとって不可欠ないくつかのパスを出しきれなくなってしまうということなのですねかね・・。

👱🏼‍♂️;そう。要するに、「直営方式できちんとコントロールしないと、第三の場所が絵に描いたモチになってしまう」というという話なんだよ。

🧒;でも、本当に直営でないとやりきれないのですかね・・。直営方式のほうが相対的にきちんとコントロールできるのは確かですけど、チェーン展開で事業を営んでいる多くの企業はフランチャイズ方式をとっていますよね・・。考えてみると、フランチャイズ方式でもある程度までは契約できちんとコントロールできると思うんですよね。むしろ一方で、直営方式はフランチャイズ方式と比べて問違いなく大きなコストがかかりますよね。

👱🏼‍♂️:確かに、スターバックスは一九九二年のIPO以降、新規出店を加速させ、三年間で全米に出店しましたんだが、初期投資だけでも一店舗当たり平均で二三万ドルを要したんだ。フランチャイズ方式であれば、建物や土地は各店舗のオーナー持ちになるので、格段に出店コストを抑えられるのは確か。

🧒;ということは、スターバックスの戦略ストーリーには、それほどの負担を覚悟しても直営方式でなければならないという「切実な理由」があるってことですよね。

👱🏼‍♂️;改めて上図の矢印a~dで示されている論理を一つひとつ検討してみよう。まず、「メニュー」に伸びる矢印dだ。これは、本部が一括してコーヒー豆を供給し、コーヒーを淹れるマシーンを据えつけ、オペレーションのプロセスを標準化すれば、「メニュー」にかかわる要素はフランチャイズ方式でも実行できそうだな。

🧒;次に「スタッフ」とつながるcの矢印ですが、これもバリスタの二四時間の教育のプログラムにしても、それにかかるコストを本部で一括して負担することにすれば、フランチャイズ方式でもある程度までバリスタを育成できるかもしれませんね。

👱🏼‍♂️;次に「出店と立地」につながる矢印b、これはフランチャイズ方式では難しいだろう。フランチャイズ方式では、手を挙げる人々の中には、松戸とか錦糸町とか鷺沼といった「非プレミアム立地」の人が数多く含まれているはずでコントロールができない。ここには直営方式でなければならない強い理由があったのだろう。

🧒;では、「店舗の雰囲気」につながる矢印aはどうなのでしょうかね。

👱🏼‍♂️;実はここで直営方式の必要性は最も大きくなるんだ。

🧒;え?そうなのですか?スターバックスのコンセプトからして、店舗の雰囲気を形成しているいくつかのパスが重要な意味を持っていることはいうまでもないですが、ソファや照明、店内のレイアウト、エクステリアは、わざわざ直営方式にしなくても、フランチャイズ契約でそれなりのコントロールができますよね?

👱🏼‍♂️;そこなんだけどさ。フランチャイズ方式だとしたら、店舗を日々運営する立場にいるオーナーはどのような動機を持ち、どのような行動をとるかな。そんなに外装やソファーにお金をかけようというモチベーションがあるか?

🧒;確かに回転率ですね・・。

👱🏼‍♂️:そこがスタバのストーリーとは大きく異なるんだ。直営だからこそ、社員は第三の場所の実現に全力で取り組めるというわけ。見過ごしてしまいがちなことですが、第三の場所にとって最も重要なのは、そこでコーヒーを飲んでいるお客さん自身が醸し出す雰囲気なんだ。忙しいお客さんがせわしなくコーヒーを飲み、出たり入ったりワサワサしてしまえば、第三の場所はぶち壊しというわけ。

🧒;そうでした。スターバックスは忙しい人々にあえて嫌われようとしているわけです。しかし、別の視点から見れば、これは「わざわざ人件費をかけてお客さんを待たせ、回転率を悪くする」というとんでもなく非効率な話というわけですね。そりゃフランチャイズは無理だ。

◆クリティカルコアはストーリーに一貫性を与える

👱🏼‍♂️;直営方式がストーリーのクリティカル・コアになっているということは分かったと思う。このくだりで強調したかったことは、クリティカル・コアがストーリー全体に一貫性を与えているということなんだ。クリティカル・コアとコンセプトはストーリー全体の一貫性を高めるうえで、車の両輪のような役割を果たしているんだ。数多くの構成要素と同時につながりを持つクリテカルコアがあれば、ストーリーを太くすることによって一貫性を強化することができというわけ。

◆一見して非合理な要素 

👱🏼‍♂️;さて、次にクリティカル・コアの第二の条件に話を進めていこう。それは「一見して非合理」ということだ。競争相手が非合理だと考えるような要素をあえてストーリーの中に組み込む。これがクリティカル・コアの文字どおりクリティカルなポイントになるんだ。

🧒;スタバの直営方式はこれも満たしているということでしょうか?

👱🏼‍♂️:そう。フランチャイズ方式と比較した場合、直営方式は明らかに「一見して非合理」な選択だろ。スターバックスの戦略ストーリーは、短期間のうちに数百店規模でコーヒーショップのチェーンを展開しようという話なんだから、客観的に見れば、少なくとも以下のいくつかの理由でフランチャイズ方式のほうが合理的なはず。

🧒;そうですね。確かに、まず低コストですしね。フランチャイズ方式のほうが、少ない初期投資で急速に店舗数を拡大できます。

👱🏼‍♂️;まだまだある。第二に、低リスクという合理性です。フランチャイズ方式であれば、もし失敗したとしても、全部を本部で被る必要はない。第三に、深い知識という合理性だ。フランチャイズ店のオーナーは何らかの理由でその商圏に関係があるはずで、そこにいるお客さんについてよりよく知っているはず。さらに第四に、高いモチベーションという合理性だ。フランチャイズ方式であれば店長は独立した経営者として、その店舗と一蓮托生だ。

🧒;そういう意味で、投入できる資源は限られていたはずでしょうし、それにもかかわらず、直営方式を選択したという「非合理」驚きですね。

👱🏼‍♂️;スターバックスの戦略ストーリーの全体像をすでに知っている私たちからすれば、直営方式の合理性はもはや明らかだ。フランチャイズ方式にしてしまえば、周囲のパスをどんなに繰り出しても、意図するコンセプトの実現はままならない。しかし、ここがポイントなのですが、直営方式の合理性は、ストーリー全体の中に置いてみなければ、絶対に理解できないってことなんだ。

🧒:「それだけでは一見して非合理だけれども、ストーリー全体の文脈に位置づけると強力な合理性を持っている」という二面性、ここにこそクリティカル・コアの本質があるということですね。

👱🏼‍♂️;なぜ「一見して非合理」が重要になるのか。その理由は競争優位の持続性に深くかかわってくるんだ。競争相手による「意識的な模倣の忌避」という論理が発生するんだ。われわれのしていることを非合理だと考えていれば、たとえ「まねしてください」とお願いしても「イヤだよ」と向こうから断ってくれる可能性が高い。そして、その後時間が経過し、その一見して非合理なことをやっていた会社(以下、「非合理会社」)が長期利益をたたき出すようになると、当然のことながら競合他社も模倣しようという動機が生まれる。いくつかの構成要素はまねされるかもしれないが、ここでも「非合理」要素についてはまねされる可能性は依然として低いんだ。だからストーリー全体がマネできなくなる。それでは一貫性がなく強いものにはならない。

🧒;なるほど。なぜスターバックスの戦略ストーリーは持続的な競争優位を持ちえたのかという点に関しても、シアトルズベストコーヒーのようなわりとベタな追随企業であっても、その多くがフランチャイズ方式で急速な店舗展開に確か乗り出していました。競争相手の目には「一見して非合理」に映る要素がスターバックスのストーリーに組み込まれていたからこそ、この要素については競争相手も模倣しなかったのですね。

👱🏼‍♂️;繰り返すが、「まねできなかった」のではなく、そもそも「まねしようと思わなかった」というのがポイントなんだ。「動機の不在」と「意識的な模倣の忌避」のほうが、スターバックスの持続的な競争優位をうまく説明する論理なのではないか、という考え方なんだ。

🧒;なるほどです。

👱🏼‍♂️;おっと、こんな時間だ。今日はクリティカルコアがストーリーの一貫性を保つということと、一見非合理であることの重要性について解説した。次回は、このストーリつくりは先見の明なのかという点について解説していく。

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今回は、ここまでです。キラーパスであるクリティカルコアが、良いストーリ一の要素の一つである、一貫性のカギになってくるということがわかったと思います。そして、一見非合理である要素も模倣に対して有効出るということが分かったと思います。次回は、この目の付け所は先見の明なのか、それとも違うものなのかこのあたりを解説していきます。

*下記で、noteのコンセプトと、このマガジンとは別のものづくりに関連するマネジメント理論・書籍のリンクを記載しています。もしご興味あれば、覗いていただければ幸いです。

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