文天ゼミ(9/29)ナッジセミナーでの質問にお答えします
9月29日、文天ゼミがオンライン開催されました。120人以上が参加され、福田洋先生(順天堂大学)の座長の下、とても楽しい時間となりました。改めて、ありがとうございました!
たくさんの質問をいただきました。一部の質問が時間内にお答えできず、大変失礼しました。改めましてこちらで回答させていただきます。不明な点はhttps://nudge-takebayashi.jimdofree.com/contact/へ遠慮なく連絡くださるようお願い申し上げます。
【質問1】たくさんのバイアスがあることをご紹介頂きましたが、どのような特性が行動の障壁となっているのか等、分析する先生流のアプローチがございましたらぜひ伺いたいです。
【回答1】健康行動を取れない人の傾向として、「衝動的・せっかち(現在バイアスが強い)」「リスク愛好的」という心理が知られています。現在バイアスが強いと、将来の大きな幸せよりも目の前の小さな快楽を優先してしまい、リスク愛好的だと、リスクを避けるための面倒を嫌がります。私はまずこの2点を押さえるようにしています。
【質問2】高齢男性などは、お話の初めに、「まず、笑顔でうなずいてみてください」と言うと、馬鹿にするな!という反応が考えられます。何か他に案があれば教えてください。
【回答2】私が当日、「笑顔で頷いてください」と申し上げたのは、皆様が受け入れてくださると確信してのことで、TPOによって言わないこともあります。ただし、その場合でも、スライドや表情、ボディーランゲージで「最初に笑顔で頷いて」というオーラをガンガン出します(笑)。
【質問3】ゲノムが最近、現実化しています。行動変容と遺伝について、共存できるか、どうお考えですか?
【回答3】バイアスは脳の機能に基づく本能的な特性と考えられています。どんなにテクノロジーが変化しても、人はバイアスに影響される限り、あまり合理的ではない意思決定をする場合があります(限定合理性)。しかし、一部には高い合理性を持つ「新しいタイプ」の人もおり、今後増加する可能性があります。行動経済学は人間の意思決定の質の進化に応じて変化していくべきであり、これからは脳神経の知見を活用した「神経経済学」が発展していくのではないかと考えています。
【質問4】ナッジを取り入れた健康教育について、今まで一方的な情報提供になりがちでした。先生のご講演を聞いて、ナッジを取り入れて見ようと背中を押していただきました。ナッジを実体験する場がもっと欲しいと思いました。
【回答4】そうおっしゃっていただけますと、講師冥利に尽きます(嬉)。ナッジの実体験につきましては、表現やデザインをEasyにする(既存の内容の20%カットを目標)にするところから始めてみてはいかがでしょうか?実践の場に困りましたら遠慮なく連絡をお願いします。私の仕事のお手伝いをお願いしたいです(笑)。
【質問5】ナッジを設定する人々にこそ高いヘルスリテラシー(HL)が求められると思います。
【回答5】我が意を得たり、という思いです。ナッジを使う人のHLが低いと、相手を長期的な不利益へと誘導してしまう危うさがあり、倫理的にも問題があると考えます。
【質問6】ナッジを使用する際、相手に対し倫理的に誤った誘導していないと確認する時に、心がけていることはどんなことですか?
【回答6】研究機関は倫理審査によって倫理性を担保されていると考えられるため、倫理審査会のない行政や企業などに絞って回答させていただきます。倫理的なナッジといえるためには、設計者が倫理教育(Eラーニングhttps://elcore.jsps.go.jp/top.aspx)を受け、倫理チェックリスト(http://www.env.go.jp/earth/ondanka/nudge/renrakukai16/mat_01.pdf)を満たしていることが前提となるでしょう。しかし、人間は自分のことを甘く評価するという心理傾向(自前主義バイアス、自信過剰バイアス)があるため、客観的評価を受ける必要があります。私は必ず仮想ターゲット層20人以上に予備調査をしています(20人中1人でも問題がないと答えたら、統計的有意差5%をクリアしたと推測)。
余談ですが、講演も介入である限り、聞いてくださった方の心に届かない講演は倫理的問題があると考えます。このため、私は講演の新ネタの前には必ず20人以上からフィードバックをいただくようにしております。
【質問7】職域にいる身としては、血圧と血糖管理のナッジアプローチを駆使した教材を、がん検診のナッジの資料の共有のように、作成・共有いただくと嬉しいのですが、そのような予定はありませんでしょうか?
【回答7】ありがとうございます。企業へ糖尿病重症化予防のリーフレット監修を行ったことはありますが、守秘義務があり、ここで皆様と共有することができません。一方で、コロナ禍においてバイアスが強化され、それに伴い、新たなリーフレット作成の必要性を感じております。ぜひ御一緒にできましたら嬉しく思います。
記事に共感いただければサポートのほどお願いします。研究費用に充てさせていただきます(2020年度は研究費が大幅減になってしまい…)。いい研究をして、社会に貢献していきます。