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ナッジ研究者がお答えします⑥:講演会でスライドは配布する?

先日、講演した際に、出席者から質問がありました。

「講演会でスライドの配布はしない方がよいのですか?」

私の場合、講演の冒頭に「スライドは最後に配布します」という場合が多いです。全く配布しないと、参加者が「親切な演者だ」と不満に感じたり、あるいはスライドを写メで撮影したりすると、集中力が損なわれる可能性が高まります。一方で最初に配布すると明らかなデメリットが発生します。行動経済学的な見地から解説します。

【デメリット1:ライブ感の喪失】講演会の最大のメリットはライブ感です。演者がストーリーを語り、会場が一体となって、アイコンタクトをしたり頷いたり喜怒哀楽が生まれたりを通じて、講演会は作られます。下を向くと、感情の起伏が失われ、そして眠くなります。だから、わざわざお客様に下を向かせる材料をこちらで用意する必要はないでしょう。

【デメリット2:後回しの回避】参加者は無意識のうちに「この講演に自分の集中力の〇%くらい使おう」と判断しています。この割合を下げる要因が「後で見ればいいか」という先送り思考です。目の前に演者がいるという環境で集中しない人は、後になるともっとやらないでしょう。スライドを配布すると、「これがあれば後でも大丈夫」という保険の心理が働く可能性があります。

【デメリット3:ノイズの除去】スライドを配布すると、参加者が一斉に資料をバサッとめくる音が避けられません。この音はどんなに演者の魅力的な世界に浸っていても、一瞬にして事務的な引き戻すスイッチにもなり得ます。私、あの音が大嫌いです(笑)。

【デメリット4:間違い探しからの解放】スライド配布する場合、事務局への提出は数日前の場合が多いです。そして、その後にスライド内容を変更した場合、参加者は当日「配布資料と現状の不一致」を目の当たりにします。人間には「一貫性を好む」というバイアスがあります。参加者は間違いを見つけたら、集中力の何%かは「他に間違いはないか?」に向いてしまう可能性があります。多くの人は間違い探しが大好きだからです。でも、これは演者、参加者の双方にとって不幸な状態です。

以上のデメリットが想定されるので、私は資料を最後に配布するスタイルを貫いています。さらに「配布資料はアンケート提出と引き換えにお渡しします」とすると、アンケート回収率が格段に上がります(笑)。

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