ナッジ研究者がお答えします#39:安全ルールを守ってもらうには?
私は2022年の冬に転倒して太ももを骨折し、「人の骨は簡単に折れる」と痛感しました。それ以来、手すりは必ず使うようになりました。怪我をしたことのない人は、頭で手すりの重要性をわかっていても、「自分は使わなくても大丈夫」と歪んで捉える傾向があります。どうすれば予防できるでしょうか?3つのシチュエーションに分けて考えます。
①感染が怖くて手すりを使わない場合
これは手すり利用の阻害要因が明確なので、「手すりは10分おきに消毒しています。安心してお使いください。総務課長 竹林正樹」と貼り紙をすることで、ある程度克服できそうです。ここで、消毒責任者の氏名を明記することで安心感が付与されます。トイレで掃除担当者の押印があると、「きちんと清掃されているんだなぁ」と感じる心理です。
②両手がふさがっている場合
これは階段に到達する前に、「手すりを使わないこと」が確定しているようなものです。その前に片手を空けておくルールが必要です。ただし、両手を使えないと作業効率が落ちる上に、「1回で済むのに2回も使いたくない」という心理が働くため、つい両手を使いたくなります。これに立ち向かうには、「両手をふさがっている人がいたら、周りが声をかける」「それをすり抜けた場合は、階段の手前に止まれサインと机を置き、一度置くようにする」というソフトなルールから始めてみてはいかがでしょうか?
③何となく使わない場合
最も多いのがこのケースだと推測されます。「今まで大丈夫だったからこれからも大丈夫(=投影バイアス)」「他の人も使っていないから(=同調バイアス)」が阻害要因になっていると考えられます。御社の社内環境を見ないとわかりませんが、すぐにできそうなものとして、次の3つの貼り紙を提案します。
【貼り紙1】「産業医の指示により、手すり利用状況を調査しています」
→見られていると正しい行動をしたくなる心理(=プライミング効果)に訴求
【貼り紙2】「手すりの利用状況を調査し、学会発表します。皆さま、ご協力をお願いします」
→他人のためになら頑張りたい心理(=互恵性)に訴求
【貼り紙3】「皆様が手すりを使わないと私が社長に怒られます」
→互恵性をさらに強化
ただし、これらは全て仮説です。実際には社内環境に合わせて調整していきながら実証していく必要があります。結果が出ましたら、ぜひ教えて下さいね。