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ナッジ研究者がお答えします⑭:行動変容希望者への指導のコツは?

【質問1】行動変容を願っている相手に響く言葉を見つける工夫やコツがありますでしょうか?日ごろから考える習慣を持つように心がけるしかないのでしょうか?
【質問2】厳しく指導して欲しいというタイプの方に有効なナッジってあるのでしょうか?

ナッジの観点からお答えします。

これらの質問は、「相手はやるべきことはわかっていてもうまくできない」点で共通していると考えられるので、あわせて回答します。
4つのステップで考えます。

【ステップ1】相手の感情を象に例える。
以前、感情が象に例えられる話をしました。

「象」を具体的にイメージすることで、理性偏重のアプローチから脱却できます。ここから先は、感情のことを「象」と言います。象は本能的で力が強く、コントロールされるのを嫌います。象は働き者で、人の判断の95%を脳が担当していると言われます。

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その上で考えます。「象はやるべきことがわかっていますが、なかなか動きません。どうすればよいでしょう?」
これを解くには「Xのアプローチをすると、象にYの感情が生まれ、Zの行動へと一歩踏み出す」とデザインする思考が重要になります。
象を説得するのはどうでしょうか?象は知っていることを改めて言われると、ストレスがたまり、そして怒りはリスク愛好的行動につながります。多くの健康行動はリスク回避的行動です。
厳しい指導が好きな人でも、無意味な指導を受けると怒りを感じ、逆に不健康行動をしてしまう可能性があります。象をどう動かすか?という設計をすることが大切です。無防備で近づくと、たちどころにペチャンコにされてしまいます。
いきなり説得よりも、「なぜそうするのか?」を共有できるとよさそうです。

【ステップ2】「なぜ?」を明確化する。
象は現状維持が大好きです(現状維持バイアス)。「なぜその行動が必要?」が明確になっていないと、現状維持バイアスに押し返されます。
「夏までに5キロ痩せる」という目標をたてても、「3.5キロでも誤差の範囲だよね」「夏って10月までだよね」となし崩しになっていきます。
現状維持バイアスは、やらない理由をどんどん作り出す、「言い訳職人」と言えます。言い訳職人が出てくるたびに論破していくのは疲れます。そのためにも、最初から言い訳職人が出てこない状況を作っておくことが必須です。
ここで「生活習慣病で亡くなった人の話を聞いて、今すぐ減量を始めないと間に合わないから」という明確な理由があれば、どうでしょうか?言い訳職人が出てきにくくなりますし、出てきてもキレが悪くなります。

【ステップ3】阻害要因を特定する。
行動への阻害要因は何なのかを見つけ、それを除去します。行動の邪魔をしているものは意外なほど小さいものであることも多いのです。スキーを楽しんでいても、靴に雪が入ると、気持ち悪くてスキーを続けたくなくなります。スキーの継続には雪の除去が不可欠なように、邪魔しているものを見つけて取り払うことで、安心して行動できます。

【ステップ4】その上で背中を押す。
目的地もはっきり見えてきて、行動を邪魔するものもなくなりました。その上で、どうやって象の背中をさらに押していくか?を考えていきます。
背中の押し方は相手の属性、経緯などに左右される面も大きいです。ここでは一般論として、象の純粋な気持ちをシンプルに後押しするのがよいと考えます。「生活習慣病で亡くなった人の話、悲しいよね。一緒にやっていけば大丈夫。今月も〇人が成功した」ーーこのようなシンプルな言葉を頻繁に送るのがよいでしょう。あとは、相手の状況に応じて、メッセージの内容やタイミングをカスタムしていくとよいでしょう。

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