博士がゆく 第9話「初めての研究発表会③」
(前回のつづき)
自分ではてっきり褒められると思っていた博士は面食らった。
「どういうことだよ?」
「まずは研究発表で最も重要なことをひろし君は知らなくちゃならない」
「それは、データから君が伝えたいメッセージを明らかにすることだ」
「メッセージ?」
「うん。君のスライドには、確かにたくさんのデータが含まれていたね。でもデータから得られるメッセージ、つまり考察が含まれていないんだ」
「考察が含まれていない研究発表の聴衆は、自分たちで考察を考えなければいけないから、とてもしんどい」
「そして文字の種類や色も多すぎるかな。フォントはゴシック体とArielに固定して、使う色も3色までにすると、スライドもぐっと見やすくなるよ」
なるほど。たしかにエフェクトは少ない方がいいとネット記事でも書いてあったな。そこは後で修正しよう。それよりも博士には納得のいかないことがあった。
「なぜ聴衆にしんどい思いをさせちゃいけないんだ?スライドを作って研究発表をしているオレが1番しんどいに決まってるじゃないか」
「そもそも研究発表なんてやりたくもないのに…」
ふと弱音をはいたことを恥ずかしく思った博士はスゥッと深呼吸した。無機質なビルの匂いが鼻を通る。
「ひろし君の言いたいことはよく分かるよ」
「スライドを作るだけでも2週間はかかるし、いざ発表すると興味ない人ばかりだものね」
そうだ。実際、研究発表に質問してくる学生メンバーはほとんどいない。基本的に先生と1対1で話している状態になる。
「でも先生は君の研究発表を聞いて、次に君が何をするべきか道を示そうとしているんだ」
「その先生にムダな負担をかけない方が、良いフィードバックを貰えるとは思わないかい?」
「それにグループ内での研究発表では先生しか聞いている人はいないかもしれないけど、実際の学会になればひろし君の研究を聞いてくれる人も増える」
「その時にちゃんとした研究発表ができるようになっていた方が良くないかい?」
学会での発表ときたか。正直、やるかどうかわからない学会発表のことを見すえて、グループ内の研究発表をやる方がどうかしていると思うが、上手いプレゼンが出来るようになって損はない。
「それで、メッセージをあきらかにするにはどうすればいいんだ?」
(つづく)
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