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子どもアドボカシー

子どもの権利条約では、子どもが守られる対象であるだけでなく、権利を持つ主体であるとされています。しかし、子どもは社会的に弱い立場であり、その人権は軽視されているのが現状です。

2023年4月にこども基本法が施行され、子ども家庭庁が発足しました。今後は保護される存在というだけでなく、当事者である子どもも声をあげ、意見を表明し、参画しながら課題を解決していくことを目指しています。

今回は、イギリスの子どもコミッショナーについても紹介していきます。今後日本で、どのような形で子どもの権利擁護機関が発展していくといいのか、考えるきっかけになれば、うれしく思います。


1.子ども基本法について

子ども基本法は2023年4月に子ども家庭庁のもと、子ども基本法が施行されました。子どもの権利条約を日本が批准した1994年から、かなりの時間が経過していました。

この間も、子どもの虐待、貧困、いじめ、不登校、子どもの自死、性犯罪、ヤングケアラー、障がいのある子ども、医療ケア児など、個別の支援、個別法だけでは、解決は困難であり、また置き去りになってきた感は否めません。そしてこのような状況下で、安心して子どもを生み育てる環境に、ほど遠い状況が続いていました。

さらに、コロナ禍で、学校の閉鎖、失われた経験の機会、精神的な影響が重要視されるようになり、子どもの権利と最善の利益を保障する包括的な法律の必要性が高まったのでした。

子ども基本法第3条には、子どもの権利条約に定める4つの一般原則(生命・生存および発達に対する権利、子どもの最善の利益、子どもの意見の尊重、差別の禁止)をはじめとした、子どもの諸権利が記されています。今後は子ども政策において、子ども基本法の理念が政策領域を横断し、実現されていくことになっています。

しかしながら、今回、子どもの権利擁護機関としての、子どもコミッショナーの位置づけについては見送られました。議論が十分に尽くされていないというのがその理由だったようです。権利擁護機関の必要性は広く認識されているところであり、早期に実現されることを心から期待しています。

2.イギリスの子どもコミッショナー

(1)子どもコミッショナー設置の経緯

イギリスでは、子ども当事者の運動が1970年代から始まっていましたが、養護施設内で長期に起きていた、性的虐待を含む激しい虐待が、内部告発によって明らかになり、人々に衝撃を与えました。2000年にこの事件の調査報告書「ロスト・イン・ケア」が出され、施設にいる子どもたちが苦情を申し立てることの難しさが明らかになり、改善のために子どもアドボカシー施策の推進が勧告されました。この年、英国で初めての子どもコミッショナーがウェールズに設置されました。

2003年政府は子どもを対象とした、予防的かつ包括的なサービスを整えることを目指し、提言書「すべての子どもは大切」が発表され、児童大臣のポストが新設されました。その後、2004年には提言書に基づいて、児童法が成立し、この間、北アイルランド、スコットランド、そして2005年にはイングランド子どもコミッショナーが、相次いで設置されました。

(2)子どもアドボカシーの基準

イギリスの児童福祉領域での子どもアドボカシーについてはイングランド保健相、およびウェールズ政府議会が発表している「子どもアドボカシーサービス提供のための全国基準」に規定されています。そしてこの中に、子どもアドボカシーサービスが準拠すべき「10基準」が、以下のように示されています。

1.アドボカシーは子どもの意見と願いによって導かれる。
2.アドボカシーは子どもの権利とニーズを擁護する。
3.すべてのアドボカシーサービスは平等を促進する明確な方針の下に提供される。そして、年齢、性別、人種、文化、宗教、言語、障がい、性指向により子どもが差別されないようにサービスを監視する。
4.アドボカシーはよく広報され、アクセスしやすく、利用しやすいものである。
5.求められたときはただちにアドボカシーは援助と助言を行う。
6.アドボカシーは子どものためだけに行われる。
7.アドボカシーサービスは高レベルの守秘を行い、子ども、他の機関が守秘に関する方針を知ることができるようにする。
8.提供されているサービスを改善するために、アドボカシーは子どもの意見と考えに耳を傾ける。
9.アドボカシーサービスは苦情解決手続きが、効果的かつ簡便に利用できるように支援する。
10.アドボカシーはよく運営され、資金を有効活用する。

この基準は、作成の過程に子ども自身が参画し、子どもの声をよりどころとして作られたという点でも、大変画期的なものだったと言えます。

(3)当事者団体によるアドボカシー

アドボカシーの代表的な分類としては、弁護士、ソーシャルワーカー、保護者などが中心となって代弁する、代理人アドボカシーと、個人またはグループが、ニーズと利益を求めて自ら主張、行動するセルフアドボカシーがありますが、ここではセルフアドボカシー活動をしている、イギリスの当事者団体の例を紹介します。

ケア下にある若者のための全国組織の一例としては、「ボイス・フロム・ケア」があります。この団体は、ケア下にある若者のピアアドボカシーを通して、養護施設の不十分なケアの実態を社会へ提起した歴史を持ち、施設内虐待の問題に取り組んできました。現在は、個別のアドボカシー、調査、支援者へのトレーニングなどを行っています。また、行政とは独立した機関として活動を行っている特徴を持ちます。

障害を持つ子どものアドボカシーについては、障害児協議会が支援しています。障がいのある子どもで、コミュニケーションニーズや知的な障害のある場合、意見表明の権利を保障するためには特別や配慮や支援が必要になります。障がい児協議会は障がいを持つ子どもの会議やロビー活動を進め、実際に制度の改善などの成果をおさめています。

3.日本の現状

日本では、国の動きと異なり、兵庫県川西市で1998年に子どもの人権オンブズパーソン条例ができたのをはじめとして、自治体条例に基づく子どもの相談・救済機関の設置が増えており、2022年には40を超える自治体で設置されています。

今後は国レベルで、子ども家庭庁が施策の司令塔を担うこととなる見込みで、具体的な権限を持つ自治体が効果を検証しながら実施していくという方向に進んでいきます。

現状では、日本の自治体の相談・救済機関については「財政面および人事面の独立性ならびに救済機構を欠いているとされる」と国連子どもの権利委員会から改善勧告がなされています。

予算が少なければ機関の委員、スタッフの報酬は低くなり、体制の不安定さにもつながることが懸念されています。また、自治体の組織のなかで指示系統の中で運営する場合には相談・救済機関としての独立性が揺らぐことにもなってしまいます。この点は今後の課題です。

子どもアドボカシーは、子どもの参加、権利、声を重要視し、子どもへの抑圧に対抗していく活動です。まずは、おとなの私たち、ひとりひとりが、子どもを大人に従属させるという意識を変えて、子どもの声に耳を傾けていく姿勢が必要なのだと実感します。

※以下が今回の参考文献です


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