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感想🌟 銀河鉄道の夜 2


ジヨバンニはもういろいろなことで胸がいつぱいで、なんにも云へずに、博士の前をはなれましたが、早くお母さんにお父さんの歸ることを知らせようと思ふと、牛乳を持つたまま、もう一目散に河原を街の方へ走りました。

 けれどもまたその中にジヨバンニの目には涙が一杯になつて來ました。
 街燈や飾り窓や色々のあかりがぼんやりと夢のやうに見えるだけになつて、いつたいじぶんがどこを走つてゐるのか、どこへ行くのかすらわからなくなつて走り續けました。

 そしていつかひとりでにさつきの牧場のうしろを通つて、また丘の頂に來て天氣輪の柱や天の川をうるんだ目でぼんやり見つめながら坐つてしまひました。


親友カムパネルラが川に入って帰ってこない。

お父さんが帰ってくると博士が言う。

胸がいっぱいになってしまって。

嬉しいこと、悲しいことが同時に起きた。

夢でも見ているのだろうか。

幻を見ているのだろうか。


それはカムパネルラだつたのです。ジヨバンニが、「カムパネルラ、きみは前からここに居たの。」と云はうと思つたとき、カムパネルラが、「みんなはね、ずゐぶん走つたけれども遲れてしまつたよ。ザネリもね、ずゐぶん走つたけれども追ひつかなかつた。」と云ひました。

ジヨバンニは(さうだ、ぼくたちはいま、いつしよにさそつて出掛けたのだ。)とおもひながら、「どこかで待つてゐようか。」と云ひました。するとカムパネルラは「ザネリはもう歸つたよ。お父さんが迎ひにきたんだ。」

カムパネルラは、なぜかさう云ひながら、少し顏いろが青ざめて、どこか苦しいといふふうでした。するとジヨバンニも、なんだかどこかに、何か忘れたものがあるといふやうな、をかしな氣持ちがしてだまつてしまひました。


銀河鉄道に乗れなかったザネリ。

みんな乗りたかったけれど、乗れなかった。

カムパネルラとジョバンニは乗れた。

カムパネルラは苦しそうに青ざめながら…


「ここの汽車は、ステイームや電氣でうごいてゐない。ただうごくやうにきまつてゐるからうごいてゐるのだ。ごとごと音をたててゐると、さうおまへたちは思つてゐるけれども、それはいままで音をたてる汽車にばかりなれてゐるためなのだ。」
「あの聲、ぼくなんべんもどこかできいた。」
「ぼくだつて、林の中や川で、何べんも聞いた。」

 ごとごとごとごと、その小さなきれいな汽車は、そらのすすきの風にひるがへる中を、天の川の水や、三角標の青じろい微光の中を、どこまでもどこまでも走つて行くのでした。

「あありんだうの花が咲いてゐる。もうすつかり秋だねえ。」カムパネルラが窓の外を指さして云ひました。


動くように決まっているものは動く。

蒸気や電気はいらない。

音を立てていると思っているのは、ジョバンニたち。

そう思うから、そう聞こえるだけなんだよ。

きれいな景色の中をどこまでも走ってゆく。

大切なものたちを届けるために。


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