やれるうちは絶対に全力で/禹相皓選手(FC大阪)
新監督に大嶽直人氏が就任したFC大阪で、2024シーズン最初の練習試合が行われた1月20日。見学者も多く訪れた花園ラグビー場で、今年最初にゴールを決めたのは禹相皓(ウ サンホ)だった。「いいパスが来たので感謝してます。決められて良かった」と控えめな笑顔を見せたサンホだったが、新監督のチームで幸先良いスタートになったのは間違いない。前回のロングインタビューから1年、J3での充実した昨シーズンの振り返りと、J2へ絶対昇格に向けての今シーズンの展望を語ってもらった。
充実していながらも悔しさの残る2023シーズン
Jリーグ昇格初年となった2023シーズンのFC大阪、開幕後数試合は難しい結果が続き、チーム成績は低迷していた。サンホ自身も初戦のアウェイ鹿児島戦こそスタメンフル出場だったが、その後は途中交代が続き、第4節のアウェイ愛媛戦以降は、ベンチ入りはしていても満足に出場できない日々が続いていた。
「僕もJ2には3年いましたが、J3は初めてだったので、慣れるまでに少し時間がかかったかなというのもありますし、チームとしてもJFLからJ3に上がって、やっぱりスピード感や強度や、Jリーグ特有の雰囲気のようなものに戸惑っていた時期はあったかもしれません。特に、去年の開幕戦は鹿児島ユナイテッドとの試合で、J2やJ1から来た選手も多くて、クオリティの部分ではJ2クラスだなと思いました。僕たちとしても、やろうとしているサッカー含めて全てが新しい環境の中で、そんなに簡単に上手くはいかず、去年の春先は難しい時間だったなと思います。」
その状況が劇的に変わったのは第12節、6月4日のホーム長野戦からである。サンホはこの日、約1か月ぶりにスタメン出場。1−0で勝利し、この試合からチームは3連勝を含む11戦負けなしで一時は昇格圏の2位にまで躍り出た。この長野戦は、チームにとってもサンホ自身にとっても、まさに昨シーズンのターニングポイントとなる試合だったのではないだろうか。
「そうれはもう、間違いなくターニングポイントでしたね。それまで試合にはあまり出ていませんでしたが、僕はトレーニングからしっかりやっていたつもりですし、自分が出たら絶対に貢献できるとも思ってましたし、その中で監督が僕を信頼して、チャンスを与えてくれた。それは監督にとっても僕にとっても、お互いにとってチャンスだったと思います。これで僕が出て活躍できれば、監督にとっても起用法が当たったということにもなりますしね。」
かくしてスタメンに定着し、7月9日の第17節ではJリーグ初ゴール。フリーキックからの非常に美しいゴールだった。
「あれは自信ありましたね(笑)。角度と壁とキーパーと、あとは自分が蹴るセットポジション、うん、あれはもう蹴る前から、これ入るなっていう感覚はありました。」
しかし、夏が終わると同時にチームは調子を落とし、9月中旬以降は勝ちきれない試合が続く。最終的には11位でシーズンを終え、年間通して好調をキープすることの難しさ、良くないときの軌道修正の大切さを実感するシーズンにもなった。
「僕はどっちかって言うと、試合も出てましたし、年齢も上の方でしたし、しっかりチームを引っ張っていくという役割もあったと思います。リーグ戦は長いですから、良いときも悪いときもあって、若い選手は特に、やっぱりメンタルの部分がすごくプレーに影響するということはあると思うんですよね。たまたま良いときに11試合負けなしでしたけど、必ず上手くいかなくなるときは来るので、そこでどう軌道修正していくかというのは、僕らベテランがもっと考えないといけなかったなと思います。」
2023シーズン最終節のホーム愛媛戦は累積で出場停止となり、その前のアウェイ今治戦がサンホにとってはシーズンラストとなった。しかし、この試合もあまり良い印象はなく、悔しいシーズン終盤となってしまったようだ。
「11月のアウェイの今治戦、本来はこれが最後の試合ではなかったんですけど、累積が溜まっていてこの試合が昨シーズンラストでした。でも、良くない意味でとても印象に残る試合になってしまって。この試合に関しては、1年間やってきた中で、チームとしても個人としても全くパフォーマンスが出せなかったと感じています。先制したのに逆転負けで、これを勝っていたらまた順位もまだまだ上に食い込めるチャンスが残されていたと思いますし、最終的に11位というのはとても悔しいですね。」
それでも、2023シーズンは33試合に出場、これは彼のJリーグキャリアの中で最も多い。Jリーグ初ゴールもあり、大きな怪我もなく充実の1年となった。
家族との時間はあまり増えてはいないかも(笑)
1年前のロングインタビューでも語っていたように、英語が堪能で海外でも長くプレーしていたサンホが日本での選手生活を選んだのは、ずっと家族と一緒にいるためだった。しかし、JFLで仕事をしながらの生活で、家族との時間が減ってしまったと話していたが、クラブがJリーグへ昇格したことで、今は少し時間の余裕ができたのではないだろうか。
「うーん、それはあまり増えてはないかもしれません(笑)。選手としてプレーしながら、この先のことも考えてできることにはチャレンジしていきたいなと思って、忙しくしていて。それこそ、これからの家族のことを考えたときに、時間は有効に使っていろいろとやってみなければと。スタジアムにも見に来て欲しかったのですが、妻もちっちゃい子を2人連れてくるとなると大変なので、去年は一度も来てもらえませんでした。上の子も90分じっとしてられなくて、もう黙って座ってなんか見てられないですからね(笑)。家でDAZNで見て、ここにパパがいるー!とか言ってるみたいなんですけど、僕としては、ほんとに分かってるのかなって(笑)。パパの仕事サッカーでしょ、とは言ってくるんですけどね。実際にプレーしているところ見ているわけじゃないので、今年は絶対にJリーグのスタジアムでプレーしているところを見せたいですね。」
昨年12月で31歳になった。サンホのプレーを初めて見たのは2016年のモンテネグロだったが、それからこれまで、怪我で長期間休んでいるという印象はほぼない。オフシーズンも常に、身体に合ったケアやトレーニングを怠らない彼の努力が、怪我をしない身体という結果に表れているのだろう。
「去年のシーズンが終わってからは、C級の指導者ライセンス講習を受けていました。そのあとクリスマスぐらいまでは家族と一緒に休養して、それからはロードワークだったり、身体の動かし方のような部分にフォーカスしてジムでトレーニングをしたりしていました。重心をどう動かすかといったようなことは特に、最近はものすごく考えてトレーニングするようにしています。」
「僕、ちょっと痛いぐらいだったら普通にやっちゃうんですよね。どこのトレーナーにもよく言われるんですが、痛みに強いからある程度できちゃうけど、これぐらいだったら普通は休んでるかもしれないね、って。でもまあ、常に自分でできるケアはしていますし、妻もいろいろと気をつかって食事のメニューを考えてくれていて、それは絶対にポジティブに働いていると思います。」
やれるうちは絶対に全力で
2024シーズンのFC大阪は新加入選手がこれまで23人、大嶽新監督のもと、目標はもちろんJ2昇格である。サンホ個人としても、Jリーグ100試合出場まであと21試合。100試合達成のセレモニーを家族とともに祝うことは、彼のモチベーションのひとつになっているはずだ。やれるうちは全力でやる。彼の信念である。
「今年は、チームとしてはJ2昇格という明確な目標があって、矢印は全員そこに向かってまとまってやっているので、僕ももちろん、みんなの気持ちを引き上げて同じ方向を向くという作業を全力でやっていきたいと思いますし、それはもう、僕がね、試合に出て引っ張っていくことで、優勝して昇格したいということを強く思っています。」
「年齢的にも今後のことを考えるようにはなりましたが、僕、この先どんな道に進んでもハッピーになれる気はしてるんです(笑)。だから今は、サッカーできるうちはもう全力でやります。今年のチームのスローガンは「絶対」なので、やれるうちは絶対に全力でやる、絶対に昇格したいと思っています。応援してくれるファンサポーターの皆さんのためにも、家族のためにも、絶対に負けられないですね。」
禹 相皓(う さんほ)選手
1992年12月7日生まれ。北海道札幌市出身。175cm、75kg。
2015 FC KOREA(関東1部)
2015-2016 OFK Petrovac(モンテネグロ1部)
2016 大邸FC(韓国2部)
2017 大邸FC(韓国1部)
2018 FC岐阜(J2)
2018-2019 愛媛FC(J2)
2020 栃木SC(J2)
2021 サイゴンFC(ベトナム1部)
2022 FC大阪(JFL)
2023- FC大阪(J3)
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