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年に一度のIR背負い投げ2024~IRにできることは株式価値の適正化

こんにちは。中小型成長株をこよなく愛するGO齋藤でございます。2023年も『IR系Advent Calendar』に参加させていただきました。今年のIR系Advent Calendarは表・裏があり、私は裏のオオトリを務めさせて頂きます。MISIA気分です。

まずは私の近況報告。昨年Advent Calendarを書いている時は欧州系金融機関でセルサイドアナリストをやっていた私ですが、アナリストらしく時代の流れを察知し、今年の春、成長企業のコーポレート部門をハンズオンでフルサポートするスタートアップWARC(https://corp.warc.jp/のCFOになりました。これでセルサイド、バイサイド、上場ベンチャー、スタートアップをコンプリートです。IR系Advent Calendarを読みに来る方には自社のコーポレートにお悩み・課題を感じている方も多いことでしょう。そんな方は是非ご連絡ください。人材紹介から上場コンサル、BPR、BPO何でも対応できる優秀な人材が揃っています。私もCFOを務めつつ、IRアドバイザリー業務を直接管掌しております。はい、のっけから宣伝です笑。

では、ここからが本題。今年は何を書こうかなと考えつつ、ここまでのAdvent Calendar参加者の投稿を読み、最後に昨年の自分の投稿を読み返しました。昨年は「どんな人がIR人材として適しているか」みたいなことを書きました。

そして、文末には、
「2022年は米国金利上昇によるバリュエーションクラッシュで、IR担当者にとっても、投資家にとっても受難の一年だったと思います。2023年も薔薇色とならないでしょう。なかなか中長期の目線で対話ができないかも知れません。しかし、そんな時でもしっかりと自社の将来的な株式価値をしっかりと伝え続けてください。頑張りましょう!
最後に。私はここ数年ずっと人的資産をどうやってバリュエーションに織り込むか考えています。財務諸表では人材はコスト(人件費、労務費など)でしか認識されません。これからは人材が生み出す付加価値をきちんとバリュエーションに織り込むべきなのですが、なかなか難しい課題です。一人当たりの生産性や粗利率の変化で人的資産を語ることはできますが、それを数値化し、バリュエーションに落とし込むのは現状至難の業です。何か良い方法があれば是非教えてください。もしくはその基となるデータ開示をお願いします。時代はHR(Human Resource)からHC(Human Capital)に移っています。それを意識した開示を楽しみにしています。」
と書かせていただきました。
2023年は正に人的資本経営がバズった一年でしたね。私もUnipos田中社長(https://twitter.com/yuzuru_81)から色々と学びながら、私なりに色々と考えた一年でした。その中で今更ながらに企業価値向上とエクセレントカンパニーとの関連性を深く考えた一年でした。企業価値を高めればエクセレントカンパニーになると考えている人多くないですか?本来的にはエクセレントカンパニー=企業評価の高い企業、企業評価=企業価値になるべきですが、企業価値と連動するはずの株式価値は様々な要因によって短中期的にはボラタイルになります。だからこそ、そこにLong/Shortの投資機会がある訳で。つまりは、企業評価≒企業価値(株式価値+債権者価値)となるよう務めるのがIRの責務だと個人的には思っています。その点について今年は書いてみようと思います。

仮に今の資本市場では企業評価≒企業価値が成り立っているとして、何社かの株価を見てみましょう。以下、いくつかの企業の株価を提示してみました。皆さんの企業評価と合致しますか?
まずはSHIFT。2014年11月13日に東証マザーズへ上場した同社の公開価格時価総額は34億円、初値時価総額は158億円。マイクロキャップでの上場でしたが、今や時価総額6,000億円のエクセレントカンパニーです。9年で株式価値は33倍です(初値との比較)。素晴らしいです。当期純利益が41倍になっているので当然と言えば当然かもしれませんが、高いバリュエーションを10年近く付与されているのは、丹下社長筆頭にしたIRの賜物と言って良いでしょう。私も前職ではカバレッジしていたので、勝手にその一翼を担っていたと勝手に自負しています。贅沢を言えば、利益が41倍になってIRも頑張っているのであれば、時価総額7,900億円(158億円×50倍)になっていてもおかしくないとも考えたいところですね。

次はZOZO。2017年頃まではSHIFT同様に利益成長と期待成長率の維持を両立していましたが、その後は中期計画発表というお祭りを経て、バリュエーションは成熟企業のものへと収斂してきています(私が退職したのは2016年9月)。SHIFTと異なり、バリュエーションが低下してきているのは、株式市場からの成長期待が剥落しているからでしょう。

次に上場ベンチャーの代表格とも言えるメルカリ。2018年6月19日に東証マザーズへ上場しましたが、公開価格時価総額4,059億円、初値時価総額6,766億円、直近時価総額4,136億円という状態。エクセレントカンパニーとして名前の挙がることも多い同社ですが、株価は公開時から変わらず。株式価値の観点からは・・・ですよね。だからと言ってメルカリは企業として×なのか?私はそんなことないと思っています。日本を代表するエクセレントカンパニーになり得る企業だと思っていますが、株式価値がエクセレントか否かを決めるのであれば、不合格ということになってしまいます。

次はラクスル。こちらも2018年5月31日に東証マザーズへ上場しましたが、公開価格時価総額412億円、初値時価総額452億円、直近時価総額697億円です。初値対比で+54%と伸長していますが、売上総利益が18/7期27.6億円から24/7期会社計画157~162億円と成長していることを考えると物足りなさを感じますよね。同社の永見CEOはTop of CFOと言われることも多いお方。IR施策を参考にしている人も多いのではないでしょうか。私も同社は上場前から応援していましたが、企業としてのクオリティ、経営陣のクオリティなどは上場企業全体でみてもトップクラスだと思います。でも株式価値の観点からは利益成長ほどは株式価値を上昇させられていないということになります。

IRの世界では師と仰ぐ方も多い市川さんと浜辺さんの古巣も見てみましょう。株式価値向上=IRの評価だとしたら大変なことになってしまいますね。

こちらはユナイテッドアローズです。この会社のIRは秀逸です。あらゆる面で痒いところに手の届いた開示、能動的なIR発信を行っています。私が知っている限りでは最も資本市場に優しい開示をしている企業の1つではないでしょうか。しかし、株式価値はというと・・・

こちらのチャートはワークマンです。近年ポストユニクロとして業績も急成長してきた企業であることは皆さんもご承知の通り。私はアナリスト時代に何回か同社を取材しましたが、決してIRには積極的ではありませんでした。大株主が相当割合保有していることもあり、カバレッジアナリストも3年位前まで不在でした(アナリストカバレッジが増えてから、株式価値が低下した説も)。しかし、株式価値は見ての通り。

最後にリクルートホールディングス。こちらの会社のIRは特徴的です。能動的なIRという意味ではトップクラスだと思います。私は多くの企業が同社の決算短信を真似して欲しいと思っています。決算短信を読めば、大抵のことは把握できます。隠された情報もそれなりにありますが、それは行間に隠された定性情報としてディスカッションできればキャッチアップ可能です(ディスカッションする機会は限定的でしたが)。ただし、IR表彰を受けるような企業がやるような株式市場が欲しがる情報を受動的に出すようなことはしません。気安く取材対応もしてくれません(今はどうでしょうか)。高級寿司屋のカウンターで食するような緊張感のある企業でした。しかし、株式価値は適正に付与されていたのではないでしょうか。


具体例で話が長くなってしまいました。ここで言いたかったことは、IRが株式価値に影響を与えられる領域は大きくないということです。IR担当者は「IRを頑張って株式価値を高めよう」と無駄にリスクを取るのではなく、自社の経営陣に「利益を増やしましょう。自社の将来価値に対するメッセージを伝えましょう(中期計画を発表しましょうという意味ではありません)」と訴えることが先決です。その上で、IRがそれを市場に参加する多くの人に適正に伝えるべきなのです。正直、短期間であれば時価総額はIRが創れます(やってはいけません)。しかし、中長期では無理です。

IRが株式価値を作れないということを別観点から見てみましょう。教科書通りに言えば、企業価値は株主価値(≒株式時価総額)と債権者価値(≒有利子負債)の合算値ということになります。

企業価値の分解図

株主価値の観点から株式価値を数式で表すと
株式価値≒株式時価総額=株価×発行済株式数
株価=一株利益(EPS)×PER=EPS×PBR÷ROE
となります。IRが株式価値を高められる領域ってどこでしょう。そもそもPERはDCFをシンプルに考えたものなので、DCFの割引率やらベータにはIRが影響を与えられるとの議論もありますが、中期的には株式市場が正しいとの前提に立てば、IRが与えられる影響は軽微です。
別角度からも株式価値を考えてみます。
株価=一株純資産(BPS)×PBR=BPS×ROE×PER
PERは市場から与えられるもの(最終的には益回りの逆数に収斂していくという考え)とすれば、企業価値はBPSの最大化とROEの向上によって生み出されることになります。図に倣って言えば、事業価値がBPSに紐づき、非事業価値(ここでは≒無形資産と考えます)がROEに紐づくことになります。ここから考えられるIRがやるべきことは、「株主価値の適正化」と「非事業価値の数値化」になるのではないでしょうか。

株主価値の適正化。マザーズ市場やグロース市場のおかげでマイクロキャップの上場が増えたこともあり、日本には4,000社弱の上場企業があります。となれば、多くの投資家にウォッチしてもらうことで適正な株主価値を付与されている企業もあれば、あまり投資家の目に触れず割安に放置されている企業もあるでしょう。もちろん、材料株として一時的に過剰な期待を織り込んだ企業もあるでしょう。IRにできることは、1/4,000と自覚してまず自社を上場企業として認識してもらう→ファンダメンタルズを認識してもらう、ことではないでしょうか。IRが良ければ、株式価値が向上するなんて考えないでください。前述の各社の長期チャートを見て頂いても分かりますよね。あくまでもIRは株式価値を適正化することが目的です。
そのためには自分で適正価値を把握する必要がありますが、それは意外に簡単です。学術的には色々ありますが、インサイダーの人間が客観的に判断した価値観が合っているケース多いです。それを後から学術的なものに当てはめても一定整合性は取れるはずです。その感覚を持ったうえで、自社のファンダメンタルズを相対する投資家に誠実に伝えてください。それが信頼係数の上昇に繋がり、株式価値の適正化に繋がっていきます。その際、時価総額が小さいから個人投資家にしか相手にされないとかも考えないでください。プッシュ型のIRでは個人・機関投資家分けることなく取り組むべきです。その理由等は別の機会に(IRアドバイザリーでの重要ポイントでもあるので、一般公開はしないだけですが笑)。

次に非事業価値の数値化。こちらはまだ誰もできていないので、チャレンジのし甲斐がありますね。非事業価値はその名の通り事業以外の財産の価値で、本来的には金融資産や遊休資産など事業活動に使用されていない資産の価値を指します。しかし、ここでは財務諸表でオンバランスにならない無形資産と考えたいと思います。財務諸表上、無形固定資産として計上されるものは、ソフトウェア、ソフトウェア仮勘定、のれんが代表的ですね。そのほか、特許権、商標権といった様々な権利もオンブック可能です。しかし、「人が財産」という会社が人の能力をオンブックにすることはできません。冒頭でも語った通り、2023年は人的資本経営がバズった一年でしたが、この目に見えない価値をオンブックして数値的に説明できている人はいないのが現状です。人的資産以外にもブランド価値だったり様々な目に見えない財産が企業価値を高めています。事後的に「ブランド価値が高ければ高価格での販売が可能だから売上・利益に反映される」、「人材価値向上により利益率が〇%上昇した」と言うことは可能ですが、それを事前にバリュエーションに織り込むことは現状難題です(過去実績を将来に引っ張りたがるのは証券市場の悪い癖です)。だからこそ、この領域を定性的にでもしっかりと資本市場に伝えることが、今後のIRにとって最重要課題になると思います。そのために、IRデー、施設見学会などを開催したり、通常とは異なるスピーカーをIRで出したりする工夫が必要です。フリー演技の幅が広い統合報告書の活用も大事になってきます。頑張って取り組みましょう!

今年も長々と取り留めのないことを書いてしまいました。最後に私からIRパーソンに伝えたいことを。
〇IRに株式価値を高めることはできない
〇しかし、株式価値を高めるよう経営陣にプレッシャーをかけることはできる
〇株主価値の適正化に尽力しましょう
〇財務諸表で表現できない部分を丁寧に伝えましょう
〇IRは自己満足で終わってはいけない(結果を求める)
〇個人投資家と機関投資家を分ける必要はない(ただし、投資レベルに合わせた発信の工夫は必要)
〇IRで困ったら、GOに相談

とくに最後の部分重要です笑

最後になりますが、noteには感謝です。昨年このAdvent Calendarに参加してから、こまめに記事を書くようになりました。WARCでも活用させてもらっています。私個人もWARCもまだまだフォロワーが少なく、自己満足の世界で書かせてもらってはいますが、noteの存在は大きいです。この場を借りて御礼申し上げます。

Merry Christmas and Happy New Year!!
2024年が皆にとって良い年になりますように


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