勝手にアナリストレポート Vol.1022:チェンジホールディングス(3962東証プライム 時価総額893億円)
業績予想付き第2弾はチェンジホールディングスです。5月に決算速報は書きましたが、今回は今後どう考えるかについて書き記してみました。
実際のアナリストレポートも決算発表日当日は速報という形でレポートを書き、後日きちんとアップデートすることが多いです。決算発表日に出すレポートは多くのブローカーで数行コメントに留まるケースが多いです。これには理由があり、決算発表ラッシュの時に長いレポートを書かれても困る(発行手続きやら英訳やら)からです。しかし、今のコンプライアンスではレポートで書かないと投資家等に自分に見解を伝えられなかったりします。結構これ大変で、決算みて自分のそれまでの考え方が間違えていたと気が付いても、投資判断や目標株価の変更はできない、投資判断と違ったベクトルでレポート作成できない、というジレンマに陥ります。落としどころは、今回の決算に対する見解・印象を伝え、投資判断は精査のうえ改めてお伝えします、みたいな伝え方になります。
アナリストの皆さん、日々お疲れ様です。
ということで、チェンジホールディングスのレポートをお伝えしていきます。
チェンジホールディングス(3962)
25年3月期会社計画が意味するもの
打ち出の小槌が生み出す事業拡張に着目
<キーポイント>
将来を見据えた損失計上の影響を除くと、24/3期は会社計画をしっかりと超過して着地した。中期経営計画DJ2の最終年度に当たる25/3期の会社計画は当初計画から大幅に引き下げられたが、元々達成の蓋然性が低かったことを考えると、健全になった印象が強い。
次期中期経営計画DJ3に向けた準備期となる25/3期は、人材不足解消領域、サイバーセキュリティ、地方創生、公共DXに絞り込んで事業を展開していく計画。引き続きプログラマティックM&Aを通じた連続した非連続成長の実現にも取り組んでいくことが想定されるが、前倒しで株式価値に織り込むには時期尚早だろう。
同社の株式価値はふるさと納税受入額の推移及び市場シェアの変動に大きく影響を受けてきた。同ビジネスが営業利益の大半を占めている現状においては致し方ないかもしれないが、我々は同事業がグロースドライバーではないことをしっかりと認識する必要がある。同事業は打ち出の小槌であり、そこから生み出されたキャッシュの再投資がどのような花を咲かせるのかが今後重要になっていくと考えている。
<サマリー>
25/3期会社計画が見直されたことにより(売上収益78,000百万円→45,000百万円、営業利益20,000百万円→13,000百万円)、中期的にどのような課題解決を行おうとしているのか、何を成し遂げようとしているのか、が明確になった。具体的には、中期経営計画「DJ2」で掲げている「Local x Social x Digital」の中で、①人材不足解消領域(民間DX、人材)、②サイバーセキュリティ、③地方創生(ふるさと納税、観光、カーボンクレジット)、④公共DX、に事業を絞り込んでいくこととなる。26/3期以降の次期中期経営計画「DJ3」にどのように繋げていくのかが今後の注目点となるだろう。
改めて伝えたいことは、同社グループはふるさと納税事業が主の企業体ではないということである。ふるさと納税プラットフォーム関連売上が連結売上の58%、利益の大半を占める現状においては、同事業の好不調が同社の株式価値に影響を与えてしまうことは致し方ないことかもしれない。しかし、同社はこの事業を成長ドライバーとしてではなく、安定収益源として位置づけた経営を行っている。同事業を通じて築かれた地方自治体との密な関係とキャッシュを元手に、「Local x Social x Digital」を実現しようとしていることに、もっと着目していくべきだろう。それがDJ3での最重要ポイントになると我々は考えている。
プログラマティックM&Aを通じた連続した非連続の成長可能性にも注視していきたい。同社は、M&A戦略における投資制限を明確にしている。規律を持ったM&A戦略を開示したことは素直に評価したい。
株主還元策として、自己株取得(取得上限:発行済株式数の5.04%)および増配を発表している。成長投資が基本ではあるが、株主還元も意識した動きとして評価したい。
<本文>
<キーメッセージ>
同社は18年9月期決算発表時に、19年9月期の方針として、「ミッション:Change People, Change Business, Change Japan」、「ビジョン:生産性をCHANGEする。人(人材育成)×技術(NEW IT)」を掲げた。このタイミングでは、今後15年で目指す方向性と中期計画DJ1〜2の具体的施策も示された。DJ1では、DX人材育成やSaaS型ビジネスモデル(LoGoシリーズなど)の確立に取り組み、続くDJ2(Phase 2)ではLocalに舵が切られ、DX×地方創生に光を当てた経営が行われてきた。日本では都心集中に対する懸念が叫ばれているものの、実はGDPの7割が東京圏以外から生み出されている。同社はその点に着目し、デジタル化の恩恵をもっと「Local」に行き渡らせることが重要と考えた。具体的には、デジタル技術を活用することで、地域が抱える社会課題を解決し、地域を持続可能にすること、に取り組んできている。
25年3月期は中期計画DJ2の仕上げの期となる。従前M&A等のインパクトも考慮し、25年3月期の計画は、売上高780億円、営業利益200億円とかなり高い目標に設定されていた。これについては、M&Aの案件進捗および事業構造改革等に鑑み、売上高450億円、営業利益130億円という水準に引き下げられた。その上で、25年3月期を次期中期計画DJ3(Phase 3)に向けた事業基盤整備期とすることも明言した。
DJ2で掲げられているLocal×Social×Digitalの中から、今のチェンジホールディングスの手で地方の持続可能性を高められる4つの領域を注力ポイントとしてピックアップし、今後取り組んでいく計画になっている。具体的には、人材不足解消領域、サイバーセキュリティ領域、地方創生、公共DXである。
ここから読み取るべきことは、同社グループはふるさと納税事業が主の企業体ではないということである。ふるさと納税プラットフォーム関連売上が連結売上の58%、利益の大半を占める現状においては、同事業の好不調が同社の株式価値に影響を与えてしまうことは致し方ないことかもしれない。しかし、同社はこの事業を成長ドライバーとしてではなく、安定収益源として位置づけた経営を行っている。一方、同事業を通じて築かれた地方自治体との密な関係性は、今後注力ポイントへの取り組みの中で最大限活用されていくはずである。
これらの取り組みはまだ始まったばかりである。次期中期計画DJ3の方向性や事業拡張性もまだ明確にはされていない。そのため、24年3月期を基点とした今後3期間のCAGR予想は、売上高+13%、営業利益+29%と保守的に考えている。しかし、25年3月期にしっかりと事業基盤整備を進めることができれば、成長可能性は蓋然性をもって引き上げることも可能になってくるだろう。
<サイバーセキュリティ領域に取り組む背景>
同社はイー・ガーディアン(6050:東証プライム)の普通株式を公開買い付けで取得し、24年10月付で連結子会社とした。これに先立ち、23年4月にはアセンテックと業務提携を開始している。業務提携内容は、エンドポイントセキュリティ、アイデン
ティティ管理及びアプリケーション管理を提供し、SaaS利用における全てのセキュリティ課題を解決することのできる、SaaS向けの純国産セキュリティプラットフォーム「ブレイクアウト」を同社が取扱うことで、日本の顧客向けに共同でSaaSアクセス環境の新しい利用形態を提案していくというもの。SaaSで業務を完結している顧客を始め、コンタクトセンターやコールセンター等、個人情報を扱い、今までリモートワークが困難であったSaaS型の定型業務等での利用が想定されることから、同社が有する地方自治体とのアライアンスが役立つものと考えられる。
同社は、デジタル人材の獲得を積極的に行い、最先端の技術を活用した新たなビジネス領域の拡大、地方自治体向けITプラットフォームサービスや地方自治体向けSaaSサービス及びプロダクトの開発、展開、拡大を進めていく際、ITプラットフォームサービスやSaaSサービスに対するサイバー攻撃の脅威を防ぐサイバーセキュリティ領域へも事業領域を広げていく必要があると考え、様々な企業と協業可能性について検討していたと言う。今回のM&Aはその流れに即したものになっている。
同社は、更にサイバーセキュリティ業界への参入を加速させるため、中間持株会社サイリーグホールディングスを設立した。サイバーセキュリティ事業を推進していく上で必要な知見を集約し、機動的な意思決定を可能とする経営体制を確立することが狙いのようである。幅広い要素をカバーするキャパシティを構築し、人材も集積させることで、企業や官公庁からの第一想起を獲得していきたいようである。
<24年3月期の振り返り>
<業績予想>
<25年3月期>
25年3月期は、売上高44,735百万円、営業利益12,761百万円を予想する。会社計画(売上高45,000百万円、営業利益13,000百万円)を若干下回ると予想するが、ファンダメンタルズの見通しには大差ない。我々は、次期中期計画DJ3に向け、事業構造改革への取り組みをもう一段強める可能性を事前に織り込んだ。
イー・ガーディアンは今期より通年寄与となる。その影響を除いた民間DX事業売上は前期比+9%を見込む(前期の増収ペースを維持する前提)。人材領域も前期のモメンタムを維持することで、同+17%に伸長する予想。ふるさとチョイス事業については、市場全体が所得税収増加と利用者の裾野拡大を背景に前期比+13%となる前提としたものの、引き続き緩やかにシェアが逓減する想定。自治体DX事業はLoGoチャットおよびフォームのクロスセル伸長でMRRが伸びていく想定。
売上高営業利益率は前期実績20.4%から28.5%に上昇すると予想。前期の事業構造改革費用がなくなることから、前々期28.6%水準に戻すことが可能と考えた。
<26年3月期および27年3月期>
増収率は10%弱で推移する想定。人材と自治体DXが牽引役となるだろう。ふるさとチョイスはシェア反転まで織り込んでいないものの、全体市場の緩やかな成長を背景に年率7%成長は実現可能と考えた。
売上高営業利益率は、ふるさとチョイス以外の増収効果により、収益率の緩やかな向上は可能だろう。
<M&A戦略>
同社が目指す課題解決を目指す中で、プログラマティックM&A活用も大きな意味を持つ。24/3期には事業構造改革を余儀なくされたものの、長期スパンではトラストバンクのグループ化が同社の成長を大きく加速させるなど、実績は十分に挙げている。今後も積極的なM&Aが同社の非連続成長実現に向けた手段の一つになっていくだろう。その際、規律なき投資はリスクでしかない。同社は、①ネット有利子負債/EBITDA=2倍、②ネット有利子負債/株主資本=0.5倍、③リスク資産/株主資本=1倍、を限度額と設定し、財務の健全性を担保した上で、投資機会を探っていくことを明言している。
<ふるさと納税事業と株価の関係性>
同社がふるさと納税事業を手がけるトラストバンクを子会社化して以降の株価変動を、ふるさと納税市場全体の成長率と重ねたものが以下のグラフである。ふるさと納税受入額は毎年6月頃総務省より発表されることを考慮し、株価と6ヶ月ずらしてグラフ化している。
ふるさと納税受入額は2020年に前年比+38%と伸長した。それに呼応する形で同社株式も大きく上昇した。その後は市場の伸び率低下と歩調を合わせる格好になっている。加えて、ふるさと納税の情報を提供するプラットフォーマーが急増したことによる同社市場シェアの低下も、株価にネガティブな影響を与えてきたと考えられる。
我々は、ふるさと納税受入額が今後年率+11〜13%で安定的に推移していくと想定している。この前提に沿えば、株価も下方硬直性が働くことになるだろう。ポイント付与による過激なシェア争いも一段落してきていることに加え、同社はNTTドコモ、KDDI/ローソン、クレディセゾン等とのアライアンス戦略やオリジナル返礼品の取り扱い拡大、リアルチャネルの活用などに取り組んでいることから、26/3期以降はシェアもボトムアウトしていくことを想定している。